第27話
五月二十二日金曜日。
叶恵ボム兵事件より丸一日が経過。
つまり、
「テスト終わったーーー!!!」
こちら、叶恵の前で叫んでおります青野 宏敏でございます。雄叫びをあげ、テスト返しで顔が死ぬのでしょう。
………えー、では、その後ろの叶恵はどうか。
「ふぃー、終わったー………さて、ここから後二週間か……各所と先生に要相談なのが、えー、ここと、ここもいるな……あぁ、そうだ。屋上の使用許可取んねぇと」
勉強モードから完全に仕事モードに移行したようである。
二週間後の星祭前夜祭に向け、状況のセッティング、サプライズその他が必要となるため、大変なのである。
「はい、皆さんお疲れ様ー!これから二週間は授業無しでガッツリ星祭の準備やるからなー!」
教壇でそう声をかけるのは一年五組の担任……ではなく副担任の
このクラスの担任、実は入学式初日にバイクで事故に遭い、現在入院中である。名誉のために明記させて貰うが、その担任教師は完全に被害者である。
信号待ちのところを居眠り運転のトラックに跳ねられたとの事。
そして、この副担任楸は、新任教師である。
が、親身に生徒のことを考えていることを知っている生徒たちからの信頼は厚い。少なくとも会ったこともない担任よりは圧倒的にある。
「連絡事項は……うん、特になし!また来週、テスト返しで会おう!起立!礼!……はい、さよならー!」
「「「「「「「さようなら」」」」」」」
「え、ちょっと、なんで今日だけガチトーンで返ってくるの!?」
*
午前十一時半。
喫茶『
隅の席には四つの影。
「ふぅ、みんなお疲れ様」
「もうテスト嫌いぃ」
「それは皆同じよ」
「何はともあれ、来週から準備、頑張りましょうね」
王小路、氷雨、井藤そして、春来である。
「でも、紅葉、良かったの?」
まず会話に一石を投じたのは王小路。
「へ?何がです?」
キョトンとした顔で応じる春来に、ずいっと顔を寄せる。
「ふぇ!?な、何ですか!?サンドウィッチの欠片でも付いてるんですか!?」
目の前にドアップで王小路の顔がある春来は思わず仰け反る。
その隙に氷雨と井藤の二人がさらに詰寄る。
「決まってるじゃんかぁ」
「そうよ。伊吹乃くんはどうしたの?」
「えっ」
三方向から攻められ、タジタジになる春来聖女様である。店内の男性客はほぼ全員がこの四人に注目……何人かがパートナーの女性に店のお盆で殴られている模様。南無。
「ようやく我らが聖女様にも春が……私は涙が止まりませんよぉ」
ヨヨヨと、涙ぐんでいる振りをする井藤が非常にうざく見えるのはいつもこと。
「でも、あれね。噂をすれば影とも言うし、こうして話していれば本人が来るか……」
カランコロン
「いらっしゃいませ。ただいま満席状態でして、相席となりますがよろしいでしょうか」
「えっ……あぁ、ほんとだ。見てなかったなぁ」
「如何しますか?」
「んー、じゃあ、お願いします」
「かしこまりました。少々お待ちください」
四人の少女にとって聞き覚えのある声が聞こえてきた。
噂をすれば影が差す。
全く、ここまで完璧に体現することも中々ないのではなかろうか。
「申し訳ございません、お客様。これより相席となってしまいますがよろしいでしょうか?」
四人の前で店員が困ったように言う。
周りには男子ばかりの席で相席可能な場所があるにもかかわらず、女子ばかりのこの席に店員は来た。四人は悟る。
曰く、
──────この人、顔見ちゃったんだ。と。
*
という訳で叶恵合流である。
来てそうそう春来がいることに瞬間フリーズをかました叶恵だが無事復活。
………したはいいものの、スマホ片手にブツブツと独り言を呟いている姿は非常に不気味である。髪が長い分余計に怖いのである。
「あ、あのー、伊吹乃さん?」
そんな叶恵に果敢にも話しかけに行く聖女様である。
「ん?何?」
割とすぐに反応する叶恵であるが、その視線と意識、そして指先はスマホの画面に向けられている。
開かれているのはメモアプリ。
学校の地図の画像が貼り付けられ、拡大したり縮小したりしている。
傍目には犯罪者にしか見えないことだろう。
「何をしてるんですか?」
「仕事」
春来聖女様のお言葉をバッサリと切り捨てた叶恵である。正確には質問に答えただけなのだが、あまりにも言い方が淡白すぎた。
「な、何のお仕事でしょうか?」
しかしめげずに会話を続けようとする春来聖女様。やはり聖女は聖女である(?)
「…………んー」
しかしこの質問には素直に答えていいものかと悩む叶恵である。思わずスマホの画面を閉じ、天井を仰ぐ。
「これさ、本人たちには秘密な?」
「……?えっと、どういうことでしょうか?」
いきなり本人たちなどと言われ混乱する四人。唯一会話している春来に全てを任せ、残り三人は静かに紅茶を啜る。
「いやー、和之と樫屋さん。判るよな?」
「もちろんよっ!」
「うぉ!?」
……前言撤回。勢いよく王小路が身を乗り出す。危ないと悟った氷雨が完璧なタイミングで紅茶を避けたため、事故は起こらなかった。反応できなかった井藤は安堵の息をこぼす。
「というか!知らない人いるわけないでしょう!?彼は神よっ!」
どうやら錯乱状態に陥ったらしい。
(なんて言ったって、私はファンクラブ会員No.1、即ち会長!知らない訳ないじゃない!ふふふ、お慕いしてます和之様……ふふふっ)
………………これは、うん。やばい、ね?うん。
ヤンデレと言うより、信仰してる状態みたいですねはい。
………失礼。
「お、おう。そうか……まぁ、流石はFCNo.1って言えばいいのか?」
「はっ!?何故それを!」
「仕事関係で全生徒の情ほ……んん!ナンデモナイデス。でもまぁ、割と有名だぞ?」
「そ、そんな……って、ちょっと待ちなさい。あなた今、なんて言いかけました?」
自ら地獄に飛び込んでいくスタイルだったらしい叶恵は勝手に自爆して勝手に窮地に陥った。やはりアホである。
「オレ、ナニモ、イッテナイ」
「なんで片言だし」
否定しようとして失敗した叶恵に井藤が切り込む。
尚この間、氷雨は我関せずを貫き、春来は王小路の反応に未だにポカンとしている。
「ゴホンッ、とにかく、俺は何も知らない。ただあの二人をくっつけるために色々小細工弄してるだけだ…………………………あ」
「ねぇ」
またも叶恵は自爆。目も当てられない。
それはそれとして、今の王小路のせいで店内の温度が確実に三度は下がったのである。非常に寒い。
「あなた、今何て?ねぇ、なんて言ったのかしら?ふふふ、ほら、早く言わないと本当に女の子にしますわよ?」
ガタガタ震える叶恵。脅し文句があまりにも怖すぎた。答えなければタイかモロッコ辺りへと強制的に連れていかれることだろう。
「は、話す。話すから、な?とりあえずそのハサミ直してくんねぇかな?マジで怖ぇ」
「あら?これは失礼」
……再び前言撤回。いつの間にハサミなんて
*
「………ふむ、とりあえず、事情は把握できたわ」
全部ゲロった叶恵に対する王小路お嬢様(笑)からのお言葉である。
「そっすか……」
「では、スマホを取り出して今すぐ原田くんに別れるように言いなさい」
「できるか!!!」
(何だこの過激お嬢様!?)
「あら、断るの?」
氷雨の通常時の百倍は冷たい言葉である。
王小路がこの四人組で最も上位にいる理由をいやでも察した叶恵であった。
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