第26話
五月二十一日木曜日。
テスト四日目。
本日の教科は数学Ⅰ。
昨日何も聞かれなかった為か、叶恵は油断していた。何に対して油断していたのか?その答えは以下の通り。
「うぃーす」
「「「「「「「あ」」」」」」」
「え、何?なんでみんな揃って俺の方向くの?」
「ひっ捕らえろー!」
「「「「「「「「おー!」」」」」」」」」
「何でぇ!?」
「ふふふ、逃げられると思うな?安心しろ。俺たち全員体力テストでてめぇがハイスペックなのは知ってんだ。さぁて、てめぇと原田を除いた男子全員で、性能はトントンだが、圧力は十二倍だぜ?耐えられるかな?」
「あっ、お前あれ知ってんの?」
「うん?そりゃあな。あれは笑いすぎて腹よじれる。てことは伊吹乃も?」
「知ってるぞ。TRPGのやつ」
「おおっ、同士!握手しようぜ!」
「お、おお?まあ、いいけど……」
「よし、掴まえた」
「え゛っ」
「さて、洗いざらい吐いてもらおうか。一昨日、春来聖女様と、どこで、何をしていたか。安心しろ、ネタは上がってる上に裏もとってある。聖女様から話も聞いた。後はてめぇだけだ」
「嵌められた!?つーかテスト勉強しろやてめぇらぁー!!」
以上!
叶恵の叫び声は全校舎に響き渡っとか渡ってないとか。
*
午前九時三十五分。
机に突っ伏す叶恵、再び。
「あいつら怖ぇーよ。もう今日もさっさと帰……」
「伊吹乃さん、一緒に帰りましょう♪」
「…………」
荷物を纏め、教室から出ようとする叶恵に抱きつく春来聖女様。凍りつく叶恵や、それを睨みつける男子達などなんのその。
「あ、和之さん!」
「んー?おっ、雫さん。今日も帰りますか」
「はいっ!」
一方こちら、なんでまだ付き合ってないのか全くもって理解不能な和之、雫ペアである。
近くにいた生徒達が空気に当てられ、胸を擦り、人によってはお茶を飲んで「甘ぇ、甘ぇよぉー、お茶の味がしねー」などと嘆く始末。
一方こちら悪魔の眼光もかくやと言わんばかりの視線に晒されている叶恵である。
後ろから抱きつかれてるため春来の腕が腹に回り、頬や胸元は背中に押し付けられている。大変困ったことに天然であるため、注意のしようがなく、王小路、氷雨、井藤の三人は微笑ましいものを見る目で見ている。
叶恵の表情は現在廊下側からしか見えないが、見たものは皆こう言ったという。
曰く、
───────青春してんなぁ、と。
*
「酷い目に会った……」
「ご、ごめんなさい……」
「あはは、でも仲良さそうでいいじゃない」
「おいコラ和之。てめぇこそ何だ、あのくそ甘な空気は。余裕が無かっただけできっちり把握してんだぞ俺は」
「あ、あれはっ!私が悪い訳でして……和之さんが悪いということでは……」
いつもの駅前大通り……ではない。今回も、である。
現在地、喫茶『
テーブルの上にはコーヒー二つ、紅茶が二つに、軽食代わりのサンドウィッチのセット、そして明日の最終テスト、古典の勉強道具が広がっている。
実はここの喫茶店。店主の息子が星華学園生徒であり、父親に頼み込んで、勉強もできる、学生の味方のような営業方針をしているのだ。
その分『玻璃瑠璃』よりも多少料金が高かろうと、コーヒーを飲みながら勉強できる静かな環境は貴重なため、毎日結構な数の生徒がやってくるのである。
「いや、大丈夫だよ雫さん。僕が支度するのが遅いのが悪かっただけなんだし。ね?叶恵」
雫の頭を軽くポンポンとした和之は、叶恵に同意を求める。ナチュラルにこんなことをできる辺り、やはり超人イケメンアイドル野郎は格が違うのである。
「………おう、そうだな。確かにそうだ」
叶恵は目の前に置かれているコーヒーを手に取り、口元で傾ける。
(ん?ちょっと甘い?……………まさか)
イチャイチャを見ている時の甘さとは別の甘さをそのコーヒーから感じ取った叶恵は、向かいに座る、もう一人のコーヒーを頼んだ人に顔を向ける。
その人は口をパクパクさせ、顔は真っ赤も真っ赤、朱、赤を超えて紅に達そうとしていた。
「あ、あぅ………それ………の…………ス?」
小声でボソボソと呟いている為か、春来の言葉は叶恵には届かない。が、横に座る雫にはきっちり聞こえていたようで、
「ふむふむ………ふふふっ、春来さん、可愛いですね」
「ひぅ」
その反応で和之もはっきりとわかったのか、叶恵の方を向き、
「…………へぇー?」
と、珍しくニヤニヤ顔を叶恵に向ける。
そして、当の叶恵は、
「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………」
顔だけボム兵状態へと移行した後、彫像のように凍りついていた。
………ご馳走様です。
≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡
あとがき前に本音が出た作者を許してください……!
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