第37話『誠意と純情と』
あの後どうにか場が沈静化したところで、フレインからこの国の事情を聞いた。
彼女から述べられた内容は、酒場で聞いたよりも随分と逼迫した状況だった。
そのおかげでより詳細に判明したことがいくつかある。
魔竜ドラゴラスのせいで鉱石が取れず、この国の産業が滞っていること。
そのせいで、ただでさえ貧しかったハイランド王国がさらに貧しくなり、一方で物価も高まっており、飢える者が出始めていること。
魔竜ドラゴラスが手下を集め出しており、いずれ本格的にこの国に攻めてくる可能性があること。
そして、出来るだけ早くドラゴラスを討伐した方が良いこの時に、肝心のハイランド王国五大公爵家の意思はてんでバラバラであること。
そして最も力のあるヴェスタール家のアランは、昨日の様子から分かる通り威張り散らしているだけ。
……なるほどな。だからこそフレインたちはこうして危機感を抱いているのか。
「国の恥を晒すようで心苦しいのですが、しかし、もはや体面を気にしている場合ではありません。一番苦しんでいるのは国民なのです。だから改めてお願いします。どうか私たちに力をお貸しください」
フレインが頭を下げると、他の三人の姉妹も頭を下げてきた。そこに先程までのおちゃらけた空気はない。
「そんなわけだ。俺はこの人たちに力を貸したいと思う。……みんな、いいか?」
俺は仲間たちに聞いた。
するとルナとエフィがため息を吐いて、
「そういう事情でしたらルナは反対いたしません。お兄様のご判断に従うだけです」
「なーんか甘すぎる気がするけど、マスターが決めたのならわたしもいいよ」
そのように言ってくれる。
一方、アイスマリーは、
「上質なミスリルが貰えるのなら、むしろわたしは賛成です」
鼻息を荒くしていた。
どうやら上質なミスリルを貰えることが思ったよりも嬉しいらしい。おもちゃを買ってもらえる約束をしてもらった子供のように興奮している。
取りあえず三者三様ではあるが、仲間たちの同意を得ることが出来た。
内心でほっと息を吐きながら、俺はフレインたちの方に向き直ると、
「ただ、これだけは言っておく。俺はあんたたちに協力するのであって、ハイランド王国に協力するわけじゃない。だから俺はあんたたち以外の面倒まで見る気はないからな。それは肝に銘じておいて欲しい」
念のために釘を刺したのだが、しかし、何故かフレインたち四姉妹は驚いた顔を見合わせている。
……俺、何か変な事言ったか?
そう思って訝しんでいると、彼女たちは揃って笑顔をこちらに向けてきた。
その笑顔の種類は別々で、フレインは真っ直ぐとした笑み、マリアはいつものニコニコとした笑顔、そしてルン、ランは意地の悪い笑みだ。
そして、真っ先にルンとランが口を開く。
「お兄さんたら、それは殺し文句ですよ~」
「ですです」
「は?」
「だって今のって、わたしたちのことは守ってくれるってことですよね?」
「ランはきゅんとしちゃったのです!」
俺は焦った。
「いや、待て。俺はただ、ハイランド王国の面倒事までを背負うつもりはないと言ったつもりで……」
「そう言いつつもルンたちのことは守ってくれる。とんだツンデレ野郎なのです!」
「でも、ランはときめきが止まりません! こんなの初めて、なのです!」
「ですです! ルンは割と本気でお兄さんルート確定なのです!」
「ランもです!」
「ちょ、待っ……」
「そして見て下さい、マリアお姉ちゃんの顔を! あれはいつものニコニコ顔のように見えて、お兄さんに心を持ってかれちゃってますよ!?」
「マリアお姉ちゃんはこの歳まで彼氏のいない生き遅れですので、お兄さん、覚悟をした方が良いですよ!?」
「ですです! でも、あの歳で実は純情だからお兄さんの方から行ってくれると安心「いたたたたたっ!?」」
「……誰があの歳でこの歳の生き遅れの純情なのかしらぁ?」
気付けばマリアが両手に一つずつルンとランの頭蓋骨を握って持ち上げていた。
さすが噂のペガサス四姉妹の長女。凄い握力だ……。
そして笑顔が怖い……。
「……ルン、ラン? お姉ちゃんちょっとお話があるから、あっちに行きましょうか?」
「おわーっ!? これは割と本気でまずいやつですよ!?」
「お、お兄さん!? ランたちのことを助けてくれるんじゃなかったのですか!?」
「なんで目を逸らすのですか!?」
「頭蓋骨がミシミシ言っているのです!」
「明日からペガサス二姉妹になっちゃうのですー!」
ルンとランはじたばた暴れていたがマリアは降ろしてくれず、そのまま二人は部屋の隅に連れて行かれてしまった。
「騒がしい姉妹たちで申し訳ありません……」
「「ぎゃああああああああああああああっ!!」」というルンとランの本気の悲鳴をバックに、フレインが頭を下げてくる。
苦労人のフレインに同情するしかなかったが、しかし次の瞬間、
「そしてもう一つ。ネル様がとても誠意のある方だということがよく分かりました。姉妹を代表してお礼を申し上げます」
そう言ってフレインは柔らかな笑顔を向けてくる。
俺は何と答えたらいいのか分からずに、頬を掻きながら彼女の笑顔から目を逸らすしかない。
しかし、目を逸らした先で、ルナ、エフィ、アイスマリーが白い目をこちらに向けてきていたので、逆側に目を逸らすしかなかったという……。
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