第31話『ハイランド王国の内情』
エフィとルナの二人と合流した時には、既に辺りは暗くなりかけていた。
宿は先に取ってある。
なので、どこかで夕飯を食べながら今後について協議することになった。
で、今度こそ酒場をガン押しする俺。
もうカフェはこりごりというのと、夕飯くらいガツッと食べたかったからだ。
それにハイランド王国の情勢を知るために情報を集めたいという理由もあり、何とか『酒場でご飯を食べる権利』を勝ち取った俺である。ふぅ、三対一は辛いぜ……。
そんなわけで渋い顔をする三人を連れて酒場へと入る。
酒場はすでに様々な人たちで賑わっており、酒を片手に談笑する者たちで溢れていた。
エフィたちの姿を見ると口笛を鳴らす者もいたが、これぞザ・酒場という感じでとても良い。
空いている席へ移動する時に、エフィのおしりに手を伸ばした男がエフィの手に叩かれている光景も酒場っぽくて素敵だ。
ちなみにアイスマリーの尻に手を伸ばしているロリコンはさすがに死んだ方がいいと思ったし、実際アイスマリーに叩かれた手が大変なことになっている。……あれ、折れてないよね?
周りの奴らは陽気に笑っているが、お友達の手が変な方向に曲がってるけど大丈夫なのかな……?
俺は既に酒場の雰囲気に大変満足いっていたのだが、女子三人は渋い顔をしていた。
俺は彼女たちを宥めつつ、マスターに料理を注文する。
「取りあえずエール酒一人前と、この子たちに酒以外の飲み物を適当に一つずつ。そして、この店で一番ウマいスパゲッティを大皿で一つもらいたい」
俺がそのように頼むと、店のマスターは「あいよっ」と嬉しそうに返事をして料理を開始した。
何故スパゲッティかというと、俺が日本にいた時に見たアニメで大皿に乗ったスパゲッティを仲間同士で取り合いながら食べるシーンがとても美味そうでずっと憧れていたからだ。
少しすると飲み物を持った下働きの女の子がやってくる。
三つ編みに結んだ髪を胸の辺りまで伸ばした、元気の良さそうな十四歳くらいの少女だ。
「はいっ、エール酒一つと甘いミルク三つおまたせ!」
愛想よくそう言って、彼女は俺の前にエール酒を、女子三人の前に甘いミルクを置いていく。
「お兄さんたち見ない顔だね。もしかしてこの町に来たばかりかい?」
いいな、このセリフ。実に酒場っぽい。
「ああ、実はそうなんだ。だから色々と教えてくれると助かる」
俺はそう言うと、彼女のポケットに銀貨を入れてやった。
もちろん情報を引き出すためだが、どちらかというとそういう風にやってみたかったという理由の方が大きい。
「あちゃー、そうなんだ。大変な時に来たもんだねえ」
三つ編みの少女は嬉しそうにポケットを押さえながらそのように答えた。
「大変な時?」
「ああ、大変だよ。なんせ東の鉱山付近に魔竜が住み着いたって話だからさ」
「……魔竜、だって?」
俺はその単語に眉を顰めた。
魔竜とは普通の竜とは違い、竜族ではなく魔族の一種である。しかも、その魔族の中でも最も強い種族と言われるほど厄介な存在だ。
鉱山付近に魔物が住み着いたとは聞いていたが、まさか魔竜とは……。
「その魔竜の名前は分かるかい?」
「うーん……確かドラゴラスだったかな」
その名前を聞いて俺は益々驚愕していた。
ドラゴラスと言えば、魔王軍四天王の二強の一角、魔竜王ドラゴニアスの弟じゃないか……!?
とんだ大物の名前が出てきたものだな……。
「これまでこの国はそんな強力な魔物に襲われたりしなかったからさ、めちゃくちゃ強い魔竜が来たとかでみんなてんてこ舞いなのさ。ここだけの話、竜騎士の内二人がその魔竜にやられちゃったって話だよ」
……おいおい、大丈夫かよ?
竜騎士はこのハイランド王国の肝だ。
七騎しかいない竜騎士の内の二騎がやられたということは、大打撃じゃないのか?
みんなこんなところで酒飲んで笑っている場合なのだろうか?
……まあ、こういう酒場に集まる連中にとっては先の不安よりも目の前の酒なんだろうけど……。
「おい、エミリー! なにぼさっとしてやがる! さっさと仕事しろ!」
「あ、は、はーい!」
エミリーは慌ててカウンターの方へと戻って行く。
その去り際に「ごめんよ? 後で暇になったらもっと色々教えて上げるからさ。もらったお金の分は教えてあげないとね」と言ってウインクしてくれた。
その軽いノリにまた俺のテンションが上がっちゃう。
「へいっ、スパゲッティ大盛りお待ちぃ!」
三つ編みの少女と入れ替わりで店のマスターがやって来る。
俺たちの目の前に大皿に乗った山盛りのスパゲッティが、どすんっと置かれた。
見た感じ味付けは簡単にトマトソースっぽいものだけで、ウインナーやベーコン、ピーマンっぽい具が至る所にちりばめられている。
これこそ俺が求めていたやつ!
店長が去って行くと、しかし目を輝かせる俺とは裏腹に、女子三人の目がげんなりしていた。
「な、なにこれ……」
「こんなの、食べられるんですか……?」
「正気を疑うレベルです」
口々に言っていたが、
「まあ、文句を言うのは食べてからにしようぜ」
俺はスパゲッティの山にフォークをぶっ刺すと、いっぱい巻き巻きにして一気に頬張る。
「うんめぇ~!」
やっぱり美味かった!
最近もずっとそうだったが、貴族になってからこっち、上品な物ばかり食べていたから、こういう大衆の味は懐かしく感じた。
勇者パーティ時代もアレクたちがうるさかったので、自分の好きな物を作れなかったからなぁ……。
俺があまりにも美味しそうに食べているからか、ルナも恐る恐るフォークを伸ばしていく。
彼女こそ完全な貴族育ちなのでかなり抵抗があったようだが、それでも思い切ってフォークを口に入れる。
すると、
「お、おいしい……」
そのように呟くルナを見てから、ようやくエフィとアイスマリーも動き始める。……ルナを毒見に使うなよ……。
「ほんと、おいしい!」
「……む、悪くないですね」
そのように言う彼女たちを見て、店のマスターがニッと男前に笑う。中々渋いな、あのマスター……。
そこからは取り合いだった。
これも俺がやりたかったやつである。
俺は大変満足しながら、全部取られないよう必死にフォークを動かすのだった。
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