第29話『ハイランド王国』
ハイランド王国は山に囲まれている地形のせいで、街道や灌漑などのインフラがあまり整っておらず、かなり貧しい国と言える。
当然人口も少なく、経済的にも兵力的にも社会的地位が低い国だった。
しかし一方で独自のペガサス騎士団や竜騎士団という強力な天空騎士団を抱えているため、戦力的に実はかなり突出している。
ハイランド王国とはそんなちぐはぐな国だった。
そして、貧しいハイランド王国の貴重な収入源として近隣の山々から採れる鉱石資源が上げられる。
俺が求めているのは特にレアなミスリルであり、その中でも純度が高く、質の良い物を欲していた。
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ハイランド王国の領土に入ってからさらに北上を続け、ターザン村から十日ほど経った頃、ようやくハイランド王国の首都、ハイランド城下町に到着した。
俺たちは首都に一つしかないカフェのテラスで昼食を取りながら、今後の動きを話し合う。
……しかし、女の子ってこういうオシャレな店に入りたがるよな。俺としては、もっと酒場のような男臭い場所の方が好きなのだが……。
やはりファンタジーに夢を持つ男としては酒場で情報を集めながら、一つの皿にドンッと盛られたスパゲッティなどを頬張るのがロマンなんだよね。
でも結局三対一で押し切られてこうしてカフェに入ったというわけだ……。
……なにこの小皿にちょこんとだけ乗っかっているパスタ? こんなちっぽけなのじゃ腹が満たされねえよ。
客も上流貴族の令嬢みたいなのしかいないし、入ってくる情報も『どこどこの殿方がかっこいい』とか『その髪型どのように盛ったのかしらん?』などというどうでもいいことばかりだ。
男の客は俺しかいないので、婦女子たちの視線が突き刺さっているのが分かり、居心地が悪いのなんのって……。
……今度、男の人形も作ろうかな……。
「ほら、しゃんとして下さいませお兄様」
「そうだよ、マスター。わたしたち優越感を感じてるんだからさ」
「優越感? なんだそれ」
「このマスターにそんなこと言っても無駄ですよ。鈍いのは昔からですから」
「……そうですわね。まあ、そこがいいところでもあるんですけれど」
何やら勝手に納得していたが、仲間までがガールズトークっぽいことをしだしたせいで四面楚歌感がハンパない。
居心地悪すぎて吐きそうなレベル。
……このキャイキャイした空間にファイアボールを撃ったらどれだけ楽しいだろう。
「と、取りあえず今日の予定だけでも話したいんだが、いいか?」
俺がそう言うと、ようやく彼女たちはこちらを向いてくれる。ほっ、良かった。
「今日はまずアイスマリーの装備をある程度整えてから、その後に『鉱石屋』に行ってみようと考えている」
「私の装備、ですか?」
「ああ、ターザン村じゃロクな物を買ってあげられなかったからな。君の着る物や装備をちゃんと見繕ってあげたいんだ。何でも好きな物を買ってやるからな」
「マスター……」
アイスマリーの無表情の中に感動が見られる……のはいいんだが、なんで周りの関係ない婦女子たちは嫉妬の視線をこちらに向けて来るの?
……いや、俺じゃなくてアイスマリーに向けられているのか?
どちらにしても意味が分からない……。
「な、なあ……この店やっぱり居心地悪くないか?」
「いえ、私は居心地が良いです」
何故か睨まれている本人であるアイスマリーが勝ち誇った顔でそのように答えた。
(強くて優しい上に金持ちのイケメン。分かってないのは本人だけ)
(ですわね)
エフィとルナが何やらひそひそと喋っている。
前世の学生だった時、女子たちのヒソヒソ話が軽くトラウマだったことを思い出すからやめてほしい。
女子のヒソヒソ話、ダメ。絶対。
俺は居心地の悪さを誤魔化すように小盛りのパスタを一口で胃に収めると、取りあえず露店で何かがっつりした串肉でも買おうと心に決めた。
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ようやくカフェから出ることが出来た俺は、一旦二手に分かれることにした。
俺がアイスマリーの着る物や装備を見繕う間、ルナとエフィは自分たちの買い物をしたいと言い出したからだ。
買い物なら一緒に見ればいいのに……と思ったのだが、それを言う間もなく、待ち合わせの場所を一方的に告げてから二人は去って行った。
ぽかんとする俺の横で、エフィとアイスマリーが何か言い合っていたようだけど、何だったんだ?
取りあえず女子のヒソヒソ話、ダメ。絶対。
「それじゃ、行こうか」
「……はい」
俺が進み出すと、アイスマリーは斜め後ろをトコトコと付いてくる。
……可愛いな。
もし俺が側にいなかったら即行で誘拐されるレベルだ。
まあ、その誘拐犯は軽く内臓を吹き飛ばされるだろうけど……。
――俺はまず服屋を訪ねることにした。
出来ればアイスマリー用に服を仕立ててもらいたいところだが、まともに着る服を今のところほとんど持っていない状態なので、差し当たって着られる物だけでも見繕うことにしよう。
一応この町の人に聞き込みをして、町一番の服屋に入ってみた。
と言っても、貧しい国なのでそこまで大きな店構えでもない。
飾ってある服も少なかった。
その中で、ある物を見つけて俺は手に取ってみる。
――白いワンピース。
これ、アイスマリーに似合いそうだな……。
「マスター、そんなのを着て私に旅をしろと?」
「……旅用はまた別で買ってあげるから、取りあえずこれを試着してみない?」
「……そこまでおっしゃるのなら……」
渋々といった感じで試着室に消えていくアイスマリーだった。
衣擦れの音を聞きながら、待つことしばし。
「……お待たせしました」
「おお……」「おお……」
出てきたアイスマリーを見て、俺は感嘆のため息を吐いた。
ちなみにもう一つのため息は、この店の主のものである。恐らくお世辞の一つでも言おうと思ってスタンバっていたのだろうが、普通に俺と一緒に感嘆のため息を吐いていた。
つまりそれくらい似合っているということだ。
「……どうでしょうか?」
「とてもよく似合っている」
「……本当ですか?」
「本当だって。君の薄い緑色の髪に、白いワンピースがよく映えている。君のチャーミングさを、これでもかというくらい引き立てていて、まるで妖精のようだよ」
「……そこまで褒められるとさすがに恥ずかしいです」
照れ隠しなのだろう、アイスマリーが強烈なパンチを俺の腹に放ってきた。
「ぐぼおっ!? ……お、俺は可愛いものを可愛いと言っただけだ……」
店を滅茶苦茶にしてしまうと思い、その場で耐え抜いた俺は偉いと思う。
しかし、今のセリフのせいでもう一発パンチが飛んできた。
さすがにもう一発食らったら致命傷になるので、両手で受け止めると、あまりの勢いに手の平から衝撃波が発生する。
ずどんっ、という音が店内に響き、衝撃波が起こした旋風で店内の服がいくつか吹き飛んだ。
じんじんと痺れる手を我慢しながら、俺は言った。
「も、もう少し他の服も見るか?」
「……はい」
アイスマリーと付き合うのは大変だけど、ご主人様として広い心で受け止めてやらなければならない。
何といっても、彼女を作ったのは俺なのだから。
その後、顔を引き攣らせている店主を見て見ないフリしながら、俺たちはショッピングを楽しんだ。
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