第27話『アイスマリーの鍛冶スキル』
一頻り泣いた後、アイスマリーは自然と俺から離れて行った。
その顔は先程までの無表情に戻っているが、どこか恥ずかしそうにも見える。
先程までは珍しく空気を読んで黙っていたエフィだが、
「へへ~、案外可愛いところあるんだね~」
……早速からかい始めたぞ。
その証拠にエフィの顔が意地悪そうに笑っていた。
しかし俺からしたら、それまで空気を読んで黙っていたエフィにびっくりだ。いつもの彼女ならそんなもの関係なく茶化しに入りそうなものなのに……。
もしかしたら同じ人形として思うところがあったのかもしれない。
「もしかして強がっているのは外面だけなのかなあ?」
「………」
「これから泣きたい時があったらぁ、お姉ちゃんのわたしの胸で泣いてもいいのよー? この胸でね」
「胸……それ、嫌味ですか? つるぺたな私に対してのあてつけですね?」
「え? そ、そういうつもりじゃ……」
「引きちぎります」
「やめてよ!? あんたが言うとシャレに聞こえないのよ!」
アイスマリーが手をワキワキさせながら近付くと、エフィが胸を押さえて逃げていく。
その横からルナがアイスマリーに話しかける。
「ア、アイスマリーさん、お久しぶりです」
その声にアイスマリーの動きがピタリと止まり、ルナの方を振り向く。
ちなみにまだ小さかったルナにアイスマリーを見せたことがあったのだが……こいつ、覚えていたのか?
一方でアイスマリーもまじまじとルナを見つめていた。
「……あの子供が随分と大きくなりましたね」
「えへへ、そうかな?」
「ええ。嫌味ですか?」
「なんでそうなるのですか!? ここは素直に成長を喜んでくださいな!」
アイスマリーの視線はルナの胸にロックオンされていた。
「随分と膨らんで、まあ……」
そのセリフにルナが嬉しそうに顔を綻ばせる。
「え? そ、そう思います? 胸、膨らんでいるように見えます?」
「ええ。引きちぎります」
「やめてくださいよ!? たったこれだけしかないんですから!!」
結局ルナも胸を押さえて逃げて行った。
あんな貧乳を引きちぎったらさすがに可哀想過ぎだろ……。
「………」
アイスマリーは自分の胸をぺたぺた触りながら俯いていた。
……やめろよ。罪悪感がハンパないから……。
しかし顔を上げると、一転して真面目に訊いてくる。
「ところでマスター。これからどうなさる予定なのですか?」
そのセリフに、逃げていたエフィとルナも戻ってきた。
彼女たちも今後の予定が気になっていたようだ。
「そうだな……実はこのままグルニア王国を出て、ハイランド王国に行こうと思っている」
ハイランド王国はここから北に行った場所にあり、グルニア王国とアルフォニア帝国と国境を接している王国だ。
国内をぐるりと大きなロール山脈が取り囲んでおり、そのロール山脈には多くの野生のペガサスやドラゴンが住み着いている。
そして、そのペガサスやドラゴンを独自の方法で飼育し、ペガサス騎士団や竜騎士団などの天空騎士団を抱えているのがハイランド王国だった。
そこまで説明し終えると、ルナが訊いてくる。
「どうしてそのハイランド王国に行こうと思われるのですか?」
「取りあえず、俺たちの戦力を補強したいからだ」
「戦力の補強?」
「そう。差し当たって俺たちのパーティだけでも、魔王と戦って勝てるくらいにはなっておきたいからな」
軽い調子でそう言うと、ルナは呆気に取られた顔をしていた。
「ま、魔王ですか……?」
「ああ。一応魔王とぶつけるためにアレクを生かしてはおいたが、正直あいつはあまり当てにならない。でもあいつが負けたら、それこそ魔王が調子づくだろ? そうするとこの世は生き辛くなる。そうなるくらいなら魔王を倒した方が、俺たちが楽しく生きられる。だから念のために魔王を倒せるだけの戦力が欲しいってわけだ」
そこまで説明すると、ルナはまた唖然と口を開けていた。
「……自分たちが楽しく生きたいという理由だけで魔王と倒そうなんて……何と言ったらいいのか」
ルナは呆けたようにそう言うが、エフィは楽しそうに笑っている。
「いいじゃん、いいじゃん。わたしはマスターに賛成だな。むかつく奴は全部ぶっ飛ばしちゃえばいいんだよ!」
それはエフィらしいセリフだった。
アイスマリーも賛同する。
「ええ、当然そうすべきでしょう。魔王などというあやふやな存在がこの世に居ては、またマスターと離れ離れになってしまうかもしれません。私はもうあんな想いは嫌です。だから全部薙ぎ払えるだけの力が手に入るのなら、それが欲しいです」
そのように言うアイスマリーが何だか愛しくなってしまい、俺は彼女の頭を撫でた。
あのような想い……か。
俺だってもう二度とそんな想いをさせるつもりはない。
そのための戦力増加だ。
「子ども扱いしないで下さい」
アイスマリーはそう言いつつも、俺の手を振り払うことはしなかった。
「も、もちろんわたくしだってお兄様に付いて行きますわ。もし魔王に殺されたって、最後までお兄様のお側にいられるのなら……わたくしはそれで本望です」
覚悟を決めた顔でそう言うルナ。
だからそうさせないための戦力増加だっていうのに……。
そう思いながらも、ルナの頭も撫でる俺。
ルナはくすぐったそうに目を細めながら訊いてくる。
「ですが、何故ハイランド王国なのですか? グルニア王国から出るだけなら、すぐ近いアルフォニア帝国の方がよろしいのでは? ついでに冥王レ・ゾンの軍も倒せば魔王軍の力も削れそうですし」
「アルフォニア帝国はダメだ。冥王レ・ゾンと戦うにはまだ戦力が足りない。冥王レ・ゾンは魔王軍四天王の二強のうちの一角だ。俺たち勇者パーティが倒した魔獣王ダルタニアンよりも、数段格上の相手なんだよ」
俺はそのように言った。
いや、『言い切っておいた』と言い直した方がいいかも知れない。
あの勇者パーティでさえ魔獣王ダルタニアンを倒せた。
だから今の俺たちなら冥王レ・ゾンを倒せる可能性はある。
――だが、確実ではない。きっと犠牲は出る。
「帝国に行くのは冥王を片手で捻りつぶせるくらい強くなってからだ。俺はお前たちを危険にさらす気はさらさらないからな」
そう。俺はもう間違えない。大事なものの優先順位を。
魔王と戦うための装備を整えるためにはどの道、帝国領に行かなければならない。
面倒だが、その前に帝国領に行くための装備を整えておいた方がいい。
ま、無理をすることはないさ。まったり旅を楽しみながら強くなっていける思えば、むしろ楽しいと思う。
俺は説明を続ける。
「それでハイランド王国に行く理由だが……それはアイスマリーだ」
「私、ですか?」
「ああ。アイスマリーは鍛冶が出来るはずだな?」
「はい、もちろんです。そのように作ったのはマスターですから。もう忘れたのですか? 死んでください」
……普段は無口なくせに、一つ口を開くと怒涛の如く毒を吐かなければ気が済まないのかこの子……。
まあそういう風に作ったのは俺ですけど。昔の俺はどうかしてたんや!
取りあえず説明しておくと、ドワーフは元々鍛冶が得意な種族だ。
その上で俺が作ったアイスマリーは鍛冶スキルを相当高めてある。
だから、
「アイスマリー。君にはハイランド王国の鉱山で採れるミスリルで、俺の武器を作ってもらいたいんだ」
それこそが俺の狙いだった。
ミスリルはマナの籠った特殊な鉱石。だからこそ俺が使う魔法剣にはもってこいの素材だ。
ミスリルなら剣に通す魔力を数段アップさせてくれる。それはつまり俺の魔法剣そのものを数段レベルアップさせることに等しい。
ミスリルは強度も申し分なく、普通の武器としても相当価値が高い。
まさに今の俺向きの武器と言える。
「そんなわけで頼む、アイスマリー」
「頼まれなくてもそうします。私はそのために生まれたのですから」
ぷいっと顔を背けながらもそのように言ってくれるアイスマリー。
まったく素直じゃないな。
そのように作ったのは俺なんですけどね。
当時、俺はこのツンデレ感を求めていたのです!
「それではマスター。参りましょうか」
アイスマリーは俺の手を取って進もうとする。
「ちょ、ちょっと待って。今日はそこの村に泊まる予定なんだ。それに君の服や靴も買わなきゃだろ」
するとアイスマリーが憮然とした感じで言ってくる。
「そうですね。わたしはマスターに一糸まとわぬ姿にされたのでした」
いや、だからわざとじゃないから。
なので、ゴミを見るような目を向けてくるのはやめて下さい、ルナさん。
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