第26話『アイスマリーの想い』
「マスター! 何この子!? 本当にマスターが作ったの!?」
フィギュアから人間サイズに戻した途端、エフィが叫んだ。
……残念ながら俺が作った子で間違いない。
当時の俺の理想がギュッと詰まってる。それがアイスマリーだった。ちなみに当時の俺はどうかしていたに違いない……。
問題のアイスマリーはというと、ルナから借りたシャツを着ている最中だった。
上から着ているから下は丸見え……。
なんで着替え中の女の子ってこんなにエロいのだろう?
アイスマリーの小さな体はルナのシャツ一枚で足の付け根まで隠れてしまった。
ルナも小柄だが、アイスマリーはそれに輪を掛けて小さいのでシャツ一枚で十分だった。
しかしそちらを見ていたら、シャツを着終ったアイスマリーにギロリと睨まれる。
ヤバい……着替えを見ていたのがバレたかと思ったが、
「マスター。喋れるようになったら是非マスターに訊きたかったことがあります」
そのように言われる。
……なんだろう?
「どうして私をこういう風に作ったのですか?」
どういうことかと思っていると、アイスマリーは自分の体を見下ろしながら言ってくる。
「何故、私をこんなつるぺたに作ったのですか? マスターの感性が信じられません」
アイスマリーは自分の胸をぺたぺたと触ると、がっかりしたように俯く。
無表情で分かりづらいが、どうやら落ち込んでいるらしい。
アイスマリーを作った時は俺の肉体が子供だったせいか、あの頃は「つるぺたこそ至高」だと思っていたんだよな……。
きっと体が同学年くらいの女の子を求めていたのだろうと思う。
そんな子供の頃の俺の理想が具現化したのがアイスマリーというわけだ。
すまねえアイスマリー……。
「やーい、洗濯板~」
エフィがここぞとばかりにからかい始めた。すると、
「あなたの胸を切り取ってこちらに移植しましょうか? 私の力なら簡単に引きちぎれますが」
「やめてよ!? 怖い!」
エフィが自分の胸を押さえて後ずさる。
やはりアイスマリーの方が一枚上手のように感じた。
それとルナ。貸した服がぶかぶかだからって嬉しそうな顔をするんじゃない。
「それではマスター。そろそろ行きましょうか」
アイスマリーは俺の手を取って歩き始める。
「ちょ、ちょっと待て。行くってどこに行くつもりなんだ?」
するとアイスマリーは何を当たり前のことを訊いてくるんだという顔で、
「はい? 勇者アレクを倒しに行くに決まっているでしょう」
「ア、アレクを倒しに?」
「はい。あの野郎は私を貶しました。絶対に許しません」
あ、なるほど。この子、あの時のことを覚えているのだ。
アレクがこの子を貶し、俺のことを気持ち悪いと言ったあの時のことを。
「そもそも私がここに埋まる原因となったのもあのクソヤローのせいです。殺しましょう」
そう言って俺の手を取ってずんずんと進んでいく。その方向にはグルニア城がある。
ていうか、力が強すぎてまったく振りほどけないんだけど!?
「ちょ、ちょっと待て! その件はもう終わらせて来たんだよ!」
俺がそう言うと、アイスマリーの動きがぴたりと止まる。
「なんだ。もう殺してきたのですか?」
「いや、殺してはいないけど……」
「は? 殺していない? 何をやっているのですか。ほら、殺しに行きますよ」
そしてまた俺を引きずり始める。
まるで散歩に誘うくらいに気軽に殺しに行こうとのたまうアイスマリーに俺は戦慄した。
……うん、この子もヤバい。
薄々そうではないかと思っていたけど、エフィと同等かそれ以上だ。
「アイスマリー、止まれ!」
俺が命令してもまったく止まらない。ずるずると引きずられていく。
「止まれって!」
もう一度命令すると、ようやく止まった。
申し訳ないが【ドールズコントロール】を使わせてもらった。
スキルで無理矢理止めたのである。このスキルを使えば人形はマスターには逆らえない。
しかしアイスマリーは振り返ると、キッと睨み付けてくる。
……その目には涙が浮いていた。
今まで頑なな態度を一切崩さなかった彼女が見せた涙に、俺はギョッとする。
「何故ですか!? あの男さえいなければ、私はこんなところには埋められなかった! マスターと離れ離れになることもなかった! 私がどれだけ寂しかったと……!」
アイスマリーは声を荒げると、その場に崩れ落ちるようにして泣き始めた。
その姿を見て、ようやく俺は自分が思っていた以上に彼女が苦しんでいたことを知った。
先程までは強がっていただけに過ぎないのだ。
そう思うと俺はたまらなくなり、地面にぺたんと座って泣いているアイスマリーを後ろから抱き締めた。
「……ごめんアイスマリー。お前をこんなところに埋めたのは俺だ。俺が悪かった」
「……マスターは悪くありません。あなたの苦しみは、あの時いやというほど私の中に流れてきました。だから私はあの時、誓ったのです。マスターを苦しめる全ての存在を、この手でぶちのめしてやるのだと。でも私は『動けなかった』」
アイスマリーは涙の残る顔で俺を見上げてくる。
「私がどれだけ『動けるようになれれば』と願ったか分かりますか? 今はこうして命を与えてもらえましたが、ついさっきまで私は単なる人形でしかありませんでした。ずっと『動けない自分』を呪って過ごしてきました。動いてマスターの元に行きたいのに、動けない。それがどれだけ苦しかったことか……」
「ごめん……」
「いいのです。あなたはこうして迎えに来てくれました。あの箱から出て、あなたの顔を見た時、どれだけ嬉しかったことか……」
そう言うと、アイスマリーは正面から抱き着いてくる。
俺は彼女の小さな背中を撫でてやる。
「……大きくなりましたね、マスター」
「……子供から大人になるくらいの時間が経っているからな」
まるでその時間を取り戻すように、俺たち二人は抱きしめ合った。
「大好きです、マスター」
もう二度とこの子を離さない。
俺はそう誓った。
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