第22話『盗賊の落日が始まった日。ゲール大盗賊団VSネル一味』

「見張りは二人か」


 ガリアの町から徒歩で半日ほど行ったところにある鉱山跡。

 そこに盗賊たちの姿を発見した。

 エフィの箒に乗せてもらって上空から確認した結果、山の麓に空いている大穴の前にいる見張りの数は二人。

 二人ともが腰に短剣を差しただけの軽装で、どちらも眠そうに欠伸をしている。

 ……まったく問題なさそうだな。俺はそう判断した。


「よし、じゃあ降りてくれ」


 箒に腰を下ろしながら俺がそう言うと、


「わたしはこのままマスターと二人で空中散歩でもいいなー」

「ルナが膨れるからまた今度な」

「まあ、そだね。ルナが可哀想だもんね」

「……お前ら、本当に仲良くなったよな」

「へへー。だって初めて出来た友達だし」


 照れくさそうに笑うエフィ。

 ……そうか。エフィにとって初めての友達がルナだったのか。

 今になってそのことに気付くなんて、ダメなマスターだな俺は。

 そう思っていたら、エフィがぼそりと呟く。


(それにどうせならルナを安全な所に置いて、心置きなく抜け駆けしたいもんね。今度ルナに睡眠魔法をかけてからマスターの部屋に忍び込んじゃおうかな)


 ……おい。俺の感動を返せ。風が前から後ろに流れているせいで全部丸聞こえなんだよ……。

 それと初めて出来た友達に睡眠魔法なんかかけるんじゃねえよ。


(あ、そうか。新しい子が来ても睡眠魔法で眠らせちゃえばいいんだ! わたし頭良い~)


 その企みが筒抜けの時点で全然頭良くないから。

 あと、新しい子に睡眠魔法をかけるの、お願いだからやめてあげて。

 俺が漏らしたため息も、風に流され後ろへと消えて行った。



 **************************************



 一旦ルナが隠れている岩場の影まで戻り、ルナに作戦を伝えた後、エフィに俺とルナを乗せてもらい、もう一度箒で飛んでもらった。


「う~、さすがに三人は定員オーバーだよ~」


 バランスが取りづらいのだろう、エフィの箒が運転しづらそうにふらつく。

 ちなみにエフィとルナが箒に跨り、俺は箒にぶら下がっている状態だ。

 そのままの状態で見張りの盗賊たちの真上まで飛んでもらう。

 真上から奇襲をかけるためである。

 別に正面から堂々と殴り込んでも余裕なのだが、どんな相手でも油断はしないのが俺の流儀だ。

 ――さて、それでは奇襲をかけるか。

 エフィに高度を落としてもらおうと思った時だった。


「お、お兄様、絶対に上を見ないで下さいね」

「え?」


 そう言われて不意に上を見てしまう俺。

 するとルナの白いパンツがもろに目に入ってくる。


「見ないでって言ったじゃないですか!!」


 ルナの言いたいことが分かった瞬間に、俺は顔面を蹴られていた。

 だったらショートスカートなんて穿くなよ、などと思いつつも俺の手は既に箒から離れてしまっている。

 つまり、俺は超上空から叩き落とされていた。


「お兄様!?」


 ルナの悲鳴が聞こえてくるが、その声もすぐに遠くなっていき、代わりに風の切る音が耳を劈く。


「エフィ! 早くお兄様を助けて下さい!」

「マスターなら大丈夫だよ?」

「バカおっしゃらないで下さい! この高さから飛び降りて無事な人間がいるわけないでしょう!」


 そんなやり取りをしながらも上からエフィが追いかけてくるが、既に俺の落下速度の方が速い。

 ……仕方がない。このまま降りるか。

 俺は覚悟を決めると、前傾姿勢になって逆にスピードを速める。


「は、早く! このままじゃお兄様が死んじゃいます!!」

「だから大丈夫だって~」

「わたくしのパンツを見たせいで死んだとあっては、お兄様も浮かばれません!!」

「……それはそうかもしれないね」


 そんな緩いやり取りが俺の後ろを追ってきているエフィたちから聞こえてくる。

 ルナは半泣きになっているようだが、セリフの内容のせいで今一つ緊張感を感じないんだよな……。

 まあエフィの言う通り、俺は大丈夫なのだが。

 徐々に近づいてくる地表に俺は体に力を入れる。

 そして、


 ズダンッ!!


 俺は地面に着地した。

 ちょっと痛い。

 でも百メートル以上も上空から飛び降りてちょっと痛いで済んでいる時点で俺って凄い。前世の概念じゃ考えられないことだった……。

 しかし見張りの盗賊たちのちょうど目の前に飛び降りてしまったので、そのドでかい音でそれまでウトウトしていた見張りたちが気付いてしまう。


「な、なんだ!?」

「て、てめえ、どこから現われやがった!?」


 盗賊たちもまさか空から飛び降りてきたとは思わなかったようだ。


「て、敵襲ーッ!!」


 しびれた足のせいでしばらく動けないでいると、洞窟の中に向かって増援を呼ばれてしまった。

 ……たった一人の相手に増援を呼ぶとは、こいつら中々見る目がある。まあ、いきなり目の前に現われたら誰だって警戒するか……。

 取りあえず見張りの二人だけでも先に倒そう。

 俺は立ち上がると、奴らが視認できないくらいの速度で動き、一発ずつ腹に拳をお見舞いしてやる。

 それで二人の見張りは昏倒した。

 そのタイミングでルナとエフィが上空から降りてくる。

 降りて来るなりルナが抱き着いてきた。


「お兄様、ごめんなさい……! 無事で良かった……!」


 俺もパンツを見てごめんなさいと謝るべきであろうか?

 何となくそんなシチュエーションじゃないなと思い黙っておいた。


「大丈夫だって。俺があのくらいで死ぬはずないだろ」

「でも、ルナはお兄様が死んでしまうと思ってどうにかなりそうでした……!」

「一生かけてでも君を幸せにすると約束したろ? こんなところで死なないって」

「はい、お兄様……」


 そうやってルナと抱き合っていると、


「あの、お二人さん……周りを見てごらん」


 エフィの呆れたような声で辺りを見てみると、そこには唖然とした顔の盗賊たちがいた。

 敵襲と聞いて洞窟から出て来てみれば、顔も知らない男と女が抱き合っていればそりゃ誰だって訳が分からんよな。

 まあ、いいや。今の内に隙を突かせてもらおう。


「エフィ、頼む」

「もー、仕方ないな~」


 エフィはそう言いながらも魔法の詠唱を始め、


「エタニティフレア!」


 見えない爆発が盗賊たちを襲い、その一撃で彼らは全員吹き飛ばされノックダウンする。

 まさに瞬殺。


「よし、じゃあ行くか」

「うん」


 軽く言う俺とエフィに、ルナが呆れ顔だった。


「……お兄様とエフィが人外過ぎて、ルナは付いて行けないのですが……」

「大丈夫だ。ルナも十分人外だから」

「だったらその人外のわたくしが人外と思うあなた方は一体何なのですか!?」


 ルナは突っ込みつつも、ちゃんと俺たちに付いて洞窟の中に入ってくる。

 奥に入って行く道中にもたくさんの盗賊と出くわしたが、俺とエフィのファイアボールでこんがり焼いていく。

 洞窟の中にボンボンと爆発の音が響き渡っていた。


「この人たち確か大盗賊団なんですよね!? 一つの町では対処しきれないくらいの人たちのはずなんですよね!?」


 まるでゴキブリ退治でもしているかのような気軽な俺たちに、後ろから付いてくるだけのルナが茫然と呟く。


「俺たちをゲール大盗賊団と分かって」


 ボンッ。


「たった三人で舐めやがっ」


 ボンッ。


「ひぃっ、お助け」


 ボンッ。


 他にも何か言ってくる奴はいたが、ボンボンという爆発で搔き消えていく。

 大盗賊と謳うだけあって一般レベルで考えたらかなり強い奴もいた気はするが、俺とエフィの前では同じ雑魚に過ぎない。


「ああ、もう見ていて盗賊さんたちが可哀想過ぎます……」


 遂にルナが手で顔を覆ってしまった。

 失敬な。向こうが悪で、俺たちが正義だ。

 そうやって盗賊たちをやっつけながら洞窟内を進んでいくと、二百人くらい倒した頃に開けた場所に出る。

 どうやら採掘場っぽいが、そこには残りの盗賊たちが勢ぞろいしていた。

 その百人くらいいる盗賊の先頭の男が言ってくる。


「て、てめえら、一体何者だ!? 俺たちをゲール大盗賊団と分かって……」

「あー、もうその『ゲール大盗賊団と分かって』というの聞き飽きたわ。エフィ」

「あい。エタニティフレア」


 ズドンッ!

 その見えない爆発で百人いた盗賊は一斉に吹っ飛んでいく。

 ちなみにもう分かっているとは思うが、俺とエフィの魔法を一般レベルと考えてはいけない。後ろでルナが「わたくしの中の魔法の概念が変わりそうです……」と呟いているセリフの方が正しい。

 しかし土煙が酷いな。風の魔法で土煙を飛ばし、視界を確保する。


「……魔法を適当にぽんぽんと……この人たち、自由すぎますわ……」


 ルナの声を後ろに聞きながらも、俺は先程の盗賊の頭っぽい男を探す。

 地面に倒れて呻いているその巨体を見つけると、胸倉を掴んで無理矢理起こした。


「うぐぐ……て、てめえ……」

「四の五の言わず、とっとと溜めこんだ財宝を差し出せ。そうすれば命だけは助けてやる」

「もうどっちが盗賊か分かりませんわね……」


 さっきからルナのツッコミが酷いが、今はお宝の方が大事だ。


「あ、マスター。見つけたよ」


 エフィの指差した方を見ると、鉄格子のかかった部屋があり、その奥には金銀財宝が山積みされていた。

 一目見ただけで相当な額になりそうだ。

 ……さすが大盗賊団。初めてゲール大盗賊団の名前に価値が出たような気がするよ。

 俺は盗賊の頭領に向き直ると、手を出して鍵を出せと催促する。


「だ、誰がてめえなんぞに……!」


 素直に出さない頭領。

 どうせ肌身離さず持っているのだろうが、こんなむさい男の体をまさぐっても何も楽しくない。

 俺は頭領をその場に捨て置くと、鉄格子の前まで行って鉄格子を蹴り飛ばした。

 それだけで盛大な音を出して吹き飛ぶ鉄格子。


「意外ともろいな」


 そのまま財宝の部屋に入って行く俺を見て、頭領とルナが仲良く呟く。


「そんなバカな……」

「もうなんでもありですわね……」


 ルナちゃん、さっきからキミはどっちの味方なの?

 まあいいや。楽しい物色タイムの始まりである。

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