第23話『マジックアイテム』

 宝の山をざっと見た感じ、かなり価値のあるアイテムがちらほら見受けられる。

 こういう時は、まず武器や防具などの装備系統から見ていくのが俺のスタイルだ。

 そんなわけで武器を見繕っていくと……うーん、確かに高価な物はいくつもあるにはあるが、残念ながら俺が使えそうな物はなさそうだった。

 魔法で強化された剣もあったが、下手に武器に魔法がかかっていると、自分で魔法を詠唱して使う際、魔法剣と反発してしまい、逆に使い物にならなくなる場合がある。例えば火の剣に氷の魔法剣をかけることが分かり易い例だろう。

 取りあえずこの魔法の剣はルナに上げることに決めた。


「ルナ、はいこれ」

「え? こ、これは?」

「魔法の剣」

「……ちょっと待って下さい。魔法の剣って、非常に高価なものじゃありませんでしたっけ……?」

「多分この中で一番高価な物だと思う。小国の城くらいなら買えるんじゃない?」

「そんなものポンッと渡さないでくださいよ!? というかお兄様が使ってくださいまぜ!」

「俺は自分で魔法を詠唱して魔法剣を使うから、それを使うと逆に汎用性が無くなってしまうんだよ」

「あ、そうか……」


 そう言って引き下がるルナだったが、「でもいいんでしょうか。こんなの一流の剣士が一生かかってようやく手に出来るかどうかの逸品じゃないですか」と呟いていた。

 しかし、ルナも十分一流の剣士だから問題ない。

 少なくても剣が腐るなんてことにはならないはずだ。

 ただ、残念なことに俺は鑑定スキルを持っていないので、銘柄やどんな効果があるかまでは詳しく分からない。

 凄く良い剣ということくらいしか判断できなかった。

 今度鑑定士に鑑定を頼むしかないな。


 ――さて、次は防具だ。


 防具にも魔法がかかったマジックアイテムがあったが、残念なことに盾だった。

 腕に装着するタイプだったらまだ使いようがあったが、ここにあるのは大盾。

 右手で剣、左手で魔法を使うスタイルの俺には使い道のないものだ。

 同じ戦闘スタイルのルナにも必要ないだろう。

 そんなわけでこれは売りだな。

 ん? あれは……。

 小さくて見逃していたが、俺はある指輪を見つけた。

 間違いない。これもマジックアイテムだ。

 これは俺が使ってもいいが、それよりもエフィに渡した方が上昇効果は高そうだ。


「ほい、エフィ」

「え? わたしにも何かくれるの?」

「その指輪付けてみな」


 言われた通り指輪を付けるエフィだが……どうして左手の薬指に付ける?

 そして、どうして羨ましそうな目で見る、ルナ?


「わっ、なんか体の内側から魔力が溢れてくる感じ!」

「だろうな。多分それは魔力を上昇させる類のマジックアイテムだよ」

「すごい! 付けるだけで魔力が上がるなんて。これでもっとたくさんのものを魔法で吹き飛ばせるね!」

「……ほどほどにね?」


 エフィに釘を刺しつつも、内心では俺も喜んでいた。

 エフィのステータスを底上げすることが出来ただけでもここを襲った価値はあった。

 他にもこれからの旅に役立ちそうなものとしてポーション各位も揃っている。

 その他は金目の物しかない感じだ。

 しかし今気付いたが、財宝の量が多過ぎて全部持っていくのは無理そうだな……。

 うーん、マジックポーチが欲しいなあ。

 マジックポーチは中に異空間が広がっている収納袋で、最上級の物になれば城一つ分くらいの容量を収納出来るマジックアイテムだ。

 勇者パーティにいた時はアレクが持っていたので、手に入れたアイテムはいつもアレクに預けていた。

 ……そして預けた物が返ってきたことはなかった……。

 ………。

 取りあえずマジックポーチを手に入れてから残った財宝を取りに来るしかないな。

 今は小さくて金になる物だけを持っていくことにしよう。

 そう決めるとルナとエフィにも声を掛け、俺たちは金目の物を懐に収めていく。



 **************************************



「エフィ。盗賊のアジトに向かってドラグニアスマインを撃ってくれ」


 洞窟から出た俺はエフィに向かってそう言った。


「りょうかい~。証拠隠滅ぅ」


 エフィは明るく答えると、一転して真剣な表情で詠唱を開始する。


「竜にして竜にあらず 魔にして魔にあらず 黄昏にたゆたう紅の王 紅蓮の炎に眠る暗黒の竜よ 汝の虚ろなる息吹を以て 我が敵を討ち滅ぼせ」


 エフィが左手に持つマジックブルームが周囲から魔力の源となるマナを集め、それがエフィの右手へと渡っていく。先程渡した魔力の指輪も光り輝いていた。

 彼女の右手が赤黒い魔力に包まれ、その魔力が最高潮に達した時、エフィは最後のキーと唱える。


「ドラグニアスマイン!!」


 エフィの手から赤と黒の魔力の奔流が巻き起こる。

 赤黒い魔力の奔流は渦となって山の麓に直撃した

 凄まじい衝撃が辺りを襲い、赤黒いエネルギーの奔流は全てを吹き飛ばしていく。

 ――そう、全てを。

 山ごと吹き飛ぶアジトを、茫然とした視線で見つめる盗賊たち。

 ちなみに盗賊たちは全員が洞窟の外に出ている。

 生き埋めになりたい奴はこのまま残ってろと言ったら割とあっさり従ってくれた。

 その一連を見ていたルナが顔を引き攣らせていた。


「も、もうどっちが悪人か分からないんですけど……」


 ルナのツッコミが割と心に突き刺さる。

 エフィの魔法が消えた時、そこに先程まであった山は綺麗さっぱりなくなっていた。

 跡には瓦礫の山が残るのみ。

 これでここにある財宝は誰にも取ることは出来ない。

 今度俺たちが来た時に、ここをもう一度吹き飛ばせば中から財宝が出てくるという寸法だ。


「さて、帰るとするか」


 俺がそう言うと、焦ったように声を掛けてきたのは盗賊の頭領だ。


「ちょ、ちょっと待ってくれよ! 俺たちはどうすれば……!?」


 盗賊たちはエフィの束縛魔法『バインド』で一纏めに縛ってある。

 ここまで大規模に縛れるのはもちろんエフィだからこそだ。

 効果の持続時間も長いので、適当に掛けた今の状態でも三日ほどはもつだろう。

 そんな盗賊立ちに向かって俺は言う。


「一応町の憲兵にお前らのことは伝えておいてやる。モンスターに食われる前に憲兵たちが到着することを神にでも祈るんだな」


 俺のセリフに盗賊たちは顔を青ざめさせる。

 だが、知ったことではない。こいつらは結構残虐で名が通っていたようで、これまでも大分酷いことをしてきたらしい。

 別に町を救うつもりなどなかったが、結果として町は救われたことになる。その救われた町をわざわざ襲わせてやるのも寝覚めが悪いだけだ。

 憲兵に掴まってもどの道、こいつらは縛り首は逃れられないだろう。それだけのことをしてきた連中なのだ。

 モンスターに食われるにしろ、縛り首になるにしろ、それまでに自分たちの行った罪を悔い改めてもらうしかない。

 その後、盗賊たちに「人でなし」などと罵られたが、「エフィにもう一発ドラグニアスマインを撃ちこんでもらおうかな」と脅したら黙り込んだ。

 さすがエフィ。可愛いのに恐れられるところとかモロに俺の好み。

 ……まあ、一応魔法で障壁をかけておいてやるか。いくら悪党とはいえ、モンスターに食われるのはなんとなく気が引けるし、縛り首の方が彼らに今まで酷い目に遭わされてきた人たちの気も収まるだろうからな。


 しかし、随分と儲かったな。

 勇者パーティにいた時がアホらしく思えるほど潤ったんだけど……。

 あの頃は手に入れたアイテムは全部アレクの懐に入っていた上に、アレクが「盗賊なんて小物をいちいち相手にしていられるか」などと言って相手にしなかったからな……。

 たまに俺が御忍びで盗賊を倒したりしていたが、その時は盗賊が溜めていた物はすべて憲兵に任せていたし。

 今回のことで盗賊潰しの美味しさを知ってしまった。

 うん、これからもちょくちょく盗賊団を襲っていこう。


「ああ、またお兄様が悪い顔をしています……。あの優しくて上品だったお兄様が、どんどん粗野で野蛮になっていきます……」


 ルナが本気で嘆き始めたので、少し反省した俺だった。

 しかし、これが『盗賊の落日が始まった日』と謳われることになるのを俺たちが知るのは、まだ随分先の話である。

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