オペレーション#9:ザ・ムービー(天花寺良平)
今秋公開予定の映画『オペレーション#9:ザ・ムービー』。その公開と同時に発売された同名の小説は、つまり映画のノベライズ(小説版)ということになるのだが、その経緯は少しばかり入り組んだものになっている。
元々、『オペレーション#9』(以下テレビ版)は、政府諜報機関のペーパーカンパニーである天津興業のスパイたちの活躍を描いた「後方処理課シリーズ」で一躍ブームを巻き起こした天花寺良平の――これもまた「後方処理課シリーズ」のひとつである――和製スパイアクション小説『オペレーション・ナンバーナイン』(以下原作)を原作としたテレビドラマだ。
原作は天花寺自身がシリーズ化を語っていながらも十年経って続刊がなく、一方でテレビ版はシーズン1から3年後、オリジナル脚本でシーズン2が作られ、以降秋冬の恒例となりシーズン8を迎えた。
そして、そのテレビ版の映画化として作られたのが『オペレーション#9:ザ・ムービー』(以下映画版)であり、そのノベライズを原作者の天花寺が行ったものが本作、ということになる。待望の続刊と言えばそうも言えるが、あくまで別作品のノベライズとも言える、そういう微妙な立ち位置の小説だ。
書かれた経緯も複雑なら、書かれた内容もまた複雑だ。
といっても、内容そのものが複雑なワケではない。
「後方処理課シリーズ」に共通する硬派で社会派のテイストはありつつ、複雑な情報の洪水よりは矢継ぎ早のアクションで読者を追い立て、社会問題を絡めつつも適切な距離感で書き切る、作者の主張を作品に匂わせない手管。天花寺作品が好きなら、今回も間違いなしの傑作だ。
主人公である「工作員9号」こと真久部九郎と、後方処理課第一班の面々も健在だ――と言っていいのか、ここがまた難しい。
というのも、真久部のキャラクターがかけ離れているのだ。しかも、テレビ版とかけ離れているばかりか、原作とも明らかに別人になっているという。「後方処理課シリーズ」のお約束で考えると、殉職ののちコードネーム引継ぎのパターンかとも思えるが、工作員番号はともかく課内で使う名前まで引き継ぐことはないはず。そもそもノベライズと言っているのに真久部を勝手に殺してしまうことがあり得るだろうか。
というのも、この本はノベライズを銘打っているものの、明らかに映画とは内容が違っているのだ。
一応、後方処理課第一班の面子は同じなのだが、最早名前が同じだけの別人と化している。テレビ版も原作とは微妙にキャラが違い、しかもシーズンを重ねるごとにキャラの成長もしてきたから乖離は仕方がない――というのではない。明らかに原作とも別モノになっているのだ。そのくせ、シーズン5で追加された御堂葵なども出てきているのだから、意味が分からない。
起きた事件も、固有名詞は同じなのだが、その内実はまるで別モノだし、当然諜報活動の内容なども別。これをノベライズというのは、殆ど詐欺のようなものだが、それを他ならぬ原作者がやってくるのだからタチが悪い。
天花寺によれば「映画は映像のために書かれた筋書きなので、そのまま小説にしても脚本の魅力を欠いてしまう」ために、このような描き方をしたのだという。「映画で書こうとした題材とテーマは同じ。いわば魂の双子のようなものだ」とか。
キャラの変わってしまった第一班についても、「自分があの役者さんにアテ書きするなら、こうなるだろう」というイメージによるものだという。
方便にしては筆に熱が入りすぎているし、そもそも天花寺はかねてから「僕自身が『オペレーション#9』の一番のファン」と公言し、シーズン7でも喜んでカメオ出演をしていた。その言に嘘は無いのだろう。
真久部は、役者とキャラが微妙にかみ合っていないところにこそ、工作員の素の顔が感じさせる魅力があるのだとも思うが、少なくとも天花寺が俳優・桐生隆義をイメージして書いたのだから、なるほど確かにこれはテレビ版、映画版ありきの小説であり、そういう意味では確かにノベライズなのだろう。
映画を観て、それを小説で再体験したいと思ったのなら、お勧めはできない。『オペレーション・ナンバーナイン』の続刊が読みたかった人にもお勧めはできない。だが、「後方処理課シリーズ」の新作が読みたい、という人には文句なしにお勧めの一作だ。
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