忘却のクロノス・クラウン11(時任義経)

 テレビアニメも第三期決定が報じられ、いまだ絶好調の『忘却のクロノス・クラウン』シリーズの最新作。


 『忘却のクロノス・クラウン』は、タイムトラベルができる魔法の時計「クロノス・クラウン」によって時間移動能力を得た高校生・鞍馬天が、タイムパトロール「クロノスナイツ」に所属し、秘密結社「オリュンポス」による時間改変犯罪に立ち向かうSFファンタジーだ。

 「クロノス・クラウン」は時間跳躍能力および限定的な時間停滞/加速能力〈クロノマンシー〉を発揮する魔法の時計。現代兵器と〈クロノマンシー〉の組み合わせで、SFめいた「オリュンポス」の超時空兵器に対抗する。


 今回、天とヒロイン・静香が訪れる歴史特異点は、16世紀の英西戦争において、イングランドがスペイン無敵艦隊を破った「アルマダの海戦」。

 女王・エリザベス一世、腕利きの私掠海賊・ドレイク、スパイ機関長官・ウォルシンガム、そして謎めいた腕利きスパイ・シェイクスピアといった歴史上の人物たちとともに、「オリュンポス」の支援を受けて文字通り「無敵」の力を得たスペイン無敵艦隊との戦いに勝利しなければならない!

 前半はウォルシンガムの命令の元、諜報戦のために「クロノス・クラウン」を駆使したスパイアクション。そして後半は超時空兵器の飛び交う超次元海戦で、手に汗握る展開は間違いなし。

 かつて「海賊の黄金時代」でウィリアム・キッドと冒険した経験から、船の上の生活に慣れた様を見せ、ドレイクから気に入られるところなどは、天の成長を感じられる面白いところだ。


 一方、静香との関係は一進一退。「セイレム魔女裁判」を超えて強い絆で結ばれたはずの二人だが、その先になかなか進展せず。そして現れる新たなる恋のライバル――その名はシェイクスピア!

 歴史上の人物が美少女化されることにはすっかり慣れっこになった我々読者ですが、一応シェイクスピアは何者なのか、というのは歴史上の大きな疑問のひとつではあります。エリザベス一世がヒロインの年齢まで若返ったり、ドレイクが女性になるよりはいい、のかな?

 歴史特異点に行くたびに現れる現地ヒロインは、すっかりボンド・ガールならぬ天ガールと呼ばれ、しまいには現地妻だのと言われる始末だが、歴史上の有名人がヒロインになるのは「百年戦争」のジャンヌ・ダルク以来。しかし、フランスにもイギリスにも著名なヒロインがいて、天くん大変だなあ。あ、シェイクスピアがジャンヌの話聞いて嫉妬してたの、『ヘンリー六世』でジャンヌ・ダルクが悪く書かれている原因だった、って話か!?


 今回も歴史蘊蓄もてんこ盛りでちょっと勉強になる内容で、しっかり教養アリ、冒険アリ、ロマンスアリのサービス満点な一冊。ファンなら今回も楽しめること間違いなし! 新しく読み始めるにはやや巻数が多いが、まずは基本設定を押さえた1巻、そして二部開始の8巻から読み始めるのがおススメ!


【この下、ネタバレあります】


 しかし、まさか二部以来ずっとライバルとして戦ってきた「オデュッセウス」が天の父親だったとは。いや、確かに「クロノス・クラウン」を持っていること以外、ずっと普通の高校生として扱われてて、第一部ではそこにはまったく触れずに静香の出自ばっかりが注目されてたけど、ここにきて天自身に焦点が当たるとは。

 ヨッシー、昔あとがきで「天は、事件に対して当事者じゃないからこそ主人公として、当事者であるヒロインを助けに行ける」と言ってたけど、つまり、天がヒロインになる、ってこと? それとも、当事者になった時に戦えるか試練の時が来た、って話? 歴史特異点の修復はできたとはいえ、「ヘラクレスの柱」は完全に起動しちゃったし、これほど次巻が待ち遠しかった巻は無いかもしれない。

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