第七話 指折数えて待つその日


 迷宮の主ダンジョンのボスの権能は三つあった。


 一つが、ダンジョン内の構造改変・把握。

 どんな場所にしたいかを思い浮かべ実行することで、ある程度それに近い景色を再現できるのだとか。

 そこで階層の出入口なんかも場所指定できる。

 後は自然発生する魔物の位置と数なんかもある程度わかるようになるらしい。


 二つ目が、階層数の指定。

 何階層のダンジョンにするかを指定できるらしい。

 ただそれには多くの生贄ニンゲンが必要となる。


 三つ目が、ボスの間の設置。

 ポイズンスネークが湖に住んでいたように、他の魔物から不可侵の空間を作ることができるのだとか。

 ちなみにライは、すでに俺の眷属となっていたため、その適用外だった。



 「その三つだけで間違いないかぁ?」

 「……ええ、そのはずです」


 俺の下にいるポイズンスネークがおずおずと答える。

 このデカイ蛇、以外と乗り心地は悪くない。


 今はダンジョンの広さを把握するために、こいつポイズンスネークを乗り回している。

 原付くらいの速度は出せるみたいだ。

 

 それはそうと、人間が迷宮の主になるなんてことあるんだろうか。

 こんな簡単なら、迷宮の運営権利だとかを人同士で争っていそうなもんだが……


 「おいお前、人間がボスの迷宮ってどこか知ってるか?」

 「いっいえ、そんな話は聞いたことがありません。

  そもそも魔物を連れているニンゲンなど、聞いたことも見たことも……」


 聞けば、魔物ってのはふつう蓄養しないものらしい。

 スライムであれ、どんな弱小種族であっても、人間が使役しようとすると命令に背いたり、凶暴化したり、とてもじゃないが共存できたものじゃないんだとか。

 魔物は、人間を殺すことがその本能に刻まれている。


 「じゃあもし、お前を殺していたらどうなっていた?」

 「そのときは、また新しく別のものが生まれていたことでしょう」


 つまるところ通常、迷宮の主は、隷属させるのではなく、倒すものだと。

 俺の行動はイレギュラーすぎるとのことだったのだ。


 「あるじ様は、会ったときからニンゲン離れしていましたからな。

  だから私もこうやってお供させていただいているという訳ですよ」


 調子のいいこと言ってやがるな、俺のこと殺そうとした野郎が。


 でもまあ、『隷属の鎖』の効果がかなり影響しているのは間違いないな。

 勇者のとんでも能力なんかより、よっぽど便利なんじゃないのか? これ隷属の鎖


 ……………………


 一階・二階層ともに、ダンジョンの広さは粗方把握することができた。

 二階層で言えば、ジャングルの大半が爆破で更地になっていたのでかなり分かりやすかった。



 とりあえず…………


 

 「ボスの間は俺の生活スペースとするから、後はお前ら好きにしていいぞ」

 「はい、マスター。それでは貴方のお側に」

 「それじゃあ、湖だけ作ってもらえます? お肌が乾燥するので」

 

 ライは従順、ポイズンスネークはわがまま。まあ、どちらも好きにすればいい。

 戦いのときは大いに役立ってもらうからな。


 

 そしてその日も遠くはないかもしれない。




ーーーーー



 この場所は、初級冒険者の町、キリオス。

 その中でも最も人の多い、冒険者ギルド。


 あの日俺は、一つの魔法を設置していた。


 『罠魔法 ー盗聴・監視ー』


 いちいちこの町に来るのは金も掛かるし、何よりリスクがあった。

 魔法を使えば、自宅にいながらも情報収集ができる。



 そして今日、俺の耳に興味深い話が飛び込んできた。



 「なあ、あの話って本当なのか?」

 「さあな。だが冒険者が次々と消えてるらしいじゃねぇか」

 「ダリンのとこだろ? 何でも消えた弟を探しにいったらしいぜ。

  探しにいって自分が行方不明になってたんじゃ世話ねぇや」

 「ガハハ、違いねぇ」


 ……あの話ってなんだ?

 酔っ払いの話は要領を得ないな。



 それから他の奴らの話も含め、暫く聞いてると…………



 「こんな場所まで、国王直属の第5師団が来るなんてな。

  これからこの町はどうなっちまうんだが…………」

 「来るっても、用があるのは『迷宮』の方だろ?

  この町には補給に来る程度さ、関係ないね。

  しかしどいつだよ、話を大きくしたのは。ったくよー」


 国王直属の第5師団がここに来る?


 「でもあの迷宮も、ずーっと死亡者ゼロで売ってた訳だろ?

  それで初心者の楽園だって、この町も潤ってたんだからさ」

 「まあ確かになぁ……それにしても不気味だよな。

  それだけ強力な魔物が発生してるってことかな?」

 「うーん、今はわからないが、それも踏まえての今回の調査だろ」



 あー、やっと話が見えてきた。なるほどね。

 連日行方不明者が出たから、国も重い腰を上げたってことか。


 いや、レアな魔物がいればその素材目当てってことも考えられるか。

 どちらにせよアホな連中だ。




 『おい、お前。この国の王がどんなヤツだか知ってるか?』


 湖で寝てるであろう、ポイズンスネークへと念話を飛ばす。

 あんまり念話は好きじゃないが、動かずに話せるのが結構便利だ。


 『ええ、確かここにも来てましたよ? 100年以上は前ですかね』

 『まじか』

 『2層までは来ませんでしたが、1層には長いこといましたね。

  ……あ、そういえばその頃から来る人が増えたような…………』


 100年前ならそのときの王とっくに死んでるだろうな。

 だけど観光地化したのはその頃か。


 そりゃ100年以上も死亡者0で売ってたなら国も動くか。

 町は結構活気があったし、国に納める税額もそれなりなのかもしれない。



 それでまあ早速、軍隊投入ってか。問題はいつ来るのか……



 「だけど一週間後って早すぎるよな。

  ギルドのみんなも何だかバタバタしてるし」

 「それだけ一大事ってことかね? 俺は暫く迷宮はいいや」

 「俺も」


 ふむ、以外と早いな。時間があまりない。

 この国にとってはそれほどの一大事ってことなのか?



 まあ、早いとこ仕込みだけしておくとするか。



 ……………………


 

 その後俺は全員を招集した。といっても2匹だけど。

 

 「はい、マスター、ここに」

 「主様、一体どうしたんですか?」


 ポイズンスネークはふっつうにノンビリやってきた。

 相変わらず、舐めくさってるがまあいいだろう。


 「これから一週間後、ここ迷宮に国王の軍団が攻めてくる」


 俺の言葉に、ライは無表情、毒蛇は下を巻いて驚いていた。


 「承知しました。では我々は?」

 「あんたライ軽く流しすぎでしょ!それが本当なら隠れていないと……」

 「馬鹿言うな。隠れてたって人が多けりゃ、いずれ2階層までたどり着くだろ?

  どの道、てめぇも戦う以外の道は残ってねぇよ。腹きめろ」


 ポイズンスネークはもはや涙目になっている。

 仮にも、元迷宮の主だった癖に情けねーやつだ。


 「別に無策で勝てるなんて思っちゃいねーよ。

  だからお前らにも働いてもらう。今のうちに覚悟しとよ〜〜」

 「はい、マスター」

 「ううう…………わかりました」



 仕込みには時間がかかるが、終われば優位に戦況を進めることができるはずだ。

 まあコイツらがいれば、余計に早く済むだろう。



 ハハァ、こんなにも心踊るのはどうしてだろう。

 子どもの頃、遠足の前日のようなワクワク感。

 

 決められたお金で好きなお菓子を準備して、友達と交換しながら食べる。

 普段と違うシチュエーションだからあの美味しさなんだよなぁ。


 

 今回はたくさん兵隊ともだちが来るみたいだから、いっぱいお菓子用意しなきゃなぁ〜。 


 ハハァ、みんなどんな表情かおを見せてくれるのか、楽しみぃ〜〜。



 俺の青春虐殺が、指折数える度に近づいてくる。



 そしてあっという間に、その日は訪れたのだった。

 


 王国全土を震撼させることになる、その日大虐殺が。


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異世界サイコパス転生〜魔物も冒険者も英雄も勇者も魔王もとりあえず罠にかける〜 白黒 なまこ @namakoribaashi

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