第六話 下僕2号


 俺はいま余韻に浸っている。

 

 絶命する瞬間、今際の際の表情。

 何よりも得難いものがそこにあったのだ。



 ああ、これはあれに近いかもしれない。

 



 ____恋____




 自分の物にしたい、その原初的な欲求と衝動。

 求めてやまない気持ちとは裏腹に、それが手に入ったときに訪れる喪失感。

 

 あと、駆け引きの大切さなんてのも似てるかもしれない。


 そして、互いが互いを求め合って、全てが欲望の渦へと堕ちて死んで行くのだ。

 まあ俺は堕ちてない死んでないけど。



 時間をおいて迷宮ダンジョンに戻ると、スライムがすでに処理を始めていた。

 すでに手慣れたもんで、鎧や貴重品などは全て剥がされており、全裸の死体が無造作に打ち捨てられていた。


 「お前、死者ってのは普通、丁寧に扱うもんだぞ?」

 「それは生者よりも死者の方が価値が高いということでしょうか?」

 「あーそれは物によるかな。やっぱそいつらは別に適当でいいや」

 

 こいつは俺の思考をダイレクトに受けて行動する。

 これまでの悪逆な行動とは真逆の言葉を真に受けて混乱したのだろう。


 死者を冒涜するな!なんてよく聞くセリフに、いつの間にか俺の思考のうみそも毒されていたのかもしれない。

 やっぱり、確固たる自分を持たないとな。


 そんな俺の考えを知ってか知らずか、コイツスライムが初めて俺に質問してきたのだ。


 「マスターはなぜ、同族間で殺し合うのですか?」

 

 はぁ、こんなもの考えるまでもない。


 「それりゃあ、本能だからだよ。

  お前がこれまでずっと、草や魔物の死体をんできたのと同じ。

  言っておくが、俺だけじゃないぞ? 人間全部がそうなんだ」

 「人は本能的に人を殺す。頭に留めておきます、マスター」


 こうやってコイツスライムは、直に俺の考えに触れ続ける。

 そしたらいつか、俺の意図を察して動けるようになるのだろうか。

 もしそうだとしたら、結構楽しみだな。


 今でも割と結構便利で、俺と会話しながらも冒険者四人はすでに消化済みのようだった。

 下僕1号の名も伊達じゃない。


 あっ、名前。

 今気づいたが、そういえば、コイツスライムにはまだ名前をつけてなかったな。

 いい加減、「おい」とか「お前」だけじゃ、不便な気もしてきたところだ。


 ここらで、「名付け」を行うのも悪くないかもしれない。

 

 「お前、名は欲しいか?」

 「はい、マスター。名付けは、主と従者それぞれに恩恵ギフトをもたらします」


 ギフト? 特別な能力か何かだろうか。


 「ほう、そりゃいいな。

  それじゃあ……よし決めた。今日からお前の名前は『ライ』だ。

  平然と嘘をつき、人を騙くらかすお前にゃ、おあつらえ向きだろ?」

 「人を殺めたのは、マスターの指示です。

  ……ですがその名前、気に入りました。

  『ライ』の名において、あなたに忠誠を尽くします。」


 その時だった。

 またしてもステータスの通知が表示されたのだ。


 とりあえず確認してみると…………



□ーーーーーーーー


 罠掛わなかけ 太郎たろう


 職業:罠師トラッパー


 スキル

 『物理罠制作・設置』

 『魔法罠制作・設置』

 『罠感知』

 『罠無効』


 固有ユニークスキル

 『熟練罠師の妙技』

 敵が罠にかかる確率が上昇する。


 『隷属の鎖』←NEW

 屈服させた生物を下僕にできる。

 複数の生物への使用が可能になる。


 『連続殺人鬼』

 =『虐殺公』←NEW

 生物を残酷に葬ることで眷属の能力値が上昇する。


 『眷属召喚』←NEW

眷属を自在に呼び寄せることができる。


□ーーーーーーーー


 個体名:ライ


 ワイズスライム(眷属)


 種族:思考粘性生命体


 スキル

 『打撃無効』

 『切断無効』←NEW

 『魔法耐性(強)』←NEW

 『消化(強)』

 『罠無効(主人の仕掛けたものに限る)』


 固有ユニークスキル

 『再現リプロダクション

 捕食した生物の外形を再現できる。

 

 『念話テレパシー

 知的生命体と念話が可能となる。


 『分裂スプリット』←NEW

 個体分裂が可能となる。

 ただし分裂数により知性が低下する。


□ーーーーーーーー


 お〜、いくつかスキルが増えてんなぁ。

 眷属をいつでも召喚できるってのはかなり便利だ。

 それに奴隷化できる生物の数も増えるのか、こりゃいい。


 ライの能力も全体的に強化されてんな。

 名前付けるだけでこれだけの恩恵があるなら、さっさとすりゃよかった。

 

 

 全てが順調、計画通り進んでいる。

 ここらで仲間もさらに増やしておきたいところだな。

 特にアッシー君が欲しいところだ。


 そういえば……


 「ライ、ここの迷宮ってボスはいるのか?」

 「ポイズンスネークがいます。この迷宮の二階層目に住んでいます」


 やっぱボスはどこにでもいるのか。

 それにしてもやっぱここの迷宮二階建てかよ、ショボイな。

 でもまあいい。

 

 「ふーん、じゃあそいつ捕まえにいくか。案内しろ」

 「はい、マスター」



 とりあえず、そいつのところまで行くことになった。


 

 ポイズンスネーク。知恵のある蛇らしく対話も可能とのこと。

 最近では初級冒険者が二階層までくることが少ないらしく、住処である湖の中からあまり出てこないのだとか。


 しばらく歩くと、草原の中に遺跡があり、そこから下へ降りていくことが可能だった。

 初級冒険者の多くは、この入口を知らぬままに、別の迷宮へといくことが多いそうだ。

 確かに、分かりづらい。



 二階層に降りていけば、そこはまるっきり違う世界だった。



 森林……いや、鬱蒼と木々の生い茂るジャングル。

 しかも気持ちの悪いことに、ここに来てからワームやらムカデやら、巨大昆虫どもが絶えず襲ってくるのだ。


 これには、ライが分裂能力を得ていたことが幸いした。

 分裂体に『魔法罠 ー爆ー』を貼り付けて、魔物の群れに投げつける。

 すると、そこらの雑魚であれば一掃できるのだ。


 ステータスでMPの残量を確認するが、蚊ほども減ってない。

 使う魔法によるかもしれないが、『魔法罠ー爆ー』であれば後100発くらい撃てそうだ。



 かくして森林を爆破しながら道を開き進んでいた。

 魔物もそんな俺を恐れてか、途中からは出現すらしなくなっている。

 チッ……つまらねーな。



 全てが不毛の地と変わり行く中、どうやら目的の場所にたどりついたようだった。


 

 エメラルドグリーンの輝きを放つ美しい湖。

 ライ曰く、この湖の中にボスの蛇がいるそうだ。



 それだけ聞ければもはや十分だった。



 湖の中に、ライの分裂体を投げ込んでいく。

 『魔法罠 ー電撃・麻痺・睡眠・爆破ー』


 湖の内部は魔法でかき混ぜられ、汚泥が巻き上がり、ガスが水に溶け、1分もしないうちにドブのようなひどく濁った色に変わっていた。


 ハハァ、こりゃあすげぇ!

 

 それでもなお、魔法欲望を投げ込み続けていると…………



 湖の中央付近から、大きめの気泡が上がったのが見えた。



 直後に現れるのは巨大な蛇。

 しかも俺の想像の域を出ない、青紫色のデカめの蛇だった。

 体の至る所が焦げ、半死半生のような姿となってプカプカと浮いている。


 元いた世界で小さい頃やっていた大人気ゲーム「ポケッティモンスター』でいうところの、体力ゲージが赤になっている状態だった。

 まさに瀕死寸前と言えるだろう


 「おーい、生きてるか〜〜?」

 「……ふざける、な。ニンゲンごときが……」


 返事くらいならできるようだった。なら大丈夫だな。


 「元気そうだな。それじゃあ俺に従うか、死ぬか選べ」

 「……お前に従うくらいなら、いっそ……」

 「お〜〜、OKぇ〜い。後悔するなよ〜〜?」


 直後、回復ポーションを瓶ごと投げつける。

 

 

 ____パリィン!____



 たちまちポイズンスネークの傷が治っていく。 


 「バカめ! 貴様こそ後悔す……」



 ____ドゴォン!____



 「……きっさま………」

 「お〜〜、元気ぃ? もう1発いっとくかぁ?」



 ____パリィン!____



 「……おい、やめ……」

 「んん〜〜?何か言ったかぁ〜〜?」



 ____ドゴォン!____



 「……わ、わか……ったからもう」



 ____パリィン!____



 「今ので最後だけど、言い残したことあるぅ〜?」

 「しっ、従う、だから頼む!」

 「頼まれたんじゃしょうがねぇな〜」



 『隷属の鎖で『ポイズンスネーク』を奴隷にすることが可能です』



 ふぅ、やっとか。

 この瞬間、下僕2号こと、ポイズンスネークがパーティに加わった。


□ーーーーーーーー


 ポイズンスネーク(下僕)


 種族:蛇竜種


 スキル

 『毒無効』

 『魔法耐性』

 『消化(強)』

 『罠無効(主人の仕掛けたものに限る)』


 固有ユニークスキル

 『脱皮』

 一定周期で脱皮を繰り返し、より巨大強靭化する。

 

 『念話テレパシー

 知的生命体と念話が可能となる。


 『毒の牙』

 あらゆる毒攻撃の取得が可能となる。


□ーーーーーーーー


 まあまあ悪くないな。

 買い足したポーションをチャラにする価値はあった。


 さてと、こいつをどうするかな。

 かかった費用分くらいはコキつかってやらんと……



 そんなことを考えていた矢先、追加の通知が表示された。



 

 『迷宮ダンジョンボスを隷属させたことで、迷宮の所有権を獲得しました』




 ________はぁ?________



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る