第四話 初級冒険者の町


 たっぷり寝てから起きると一つ変化があった。


 目覚めて早々に、顔の前にステータスが表示されていたのだ。

 アラートがミュートされたのか、耳には聞こえなかった。


 そして肝心の内容だが…………



 『グランドスライムの種族を『粘性生物』から『思考粘性生物』へと変更しますか?』



 ……なんだこれ、 進化するってことか?


 思考と付いてるなら、自ら考えて動くようになるのだろうか。

 多分、これまでに冒険者8人を平らげていることも関係しているんだろう。


 今までは俺の指示や本能に従っているだけだったが、人間らしく、理性を獲得するということかもしれない。

 恐らく弱小種族のスライムにとっては異質なことなんだろうけど。



 まあ、とりあえず、進化させてみるか。

 隷属の首輪も着けてるし、俺に逆らうこともないだろう。



 『種族変更を実行する』



 それから10分くらい経っただろうか、あっけないくらい無事に進化が完了した。


□ーーーーーーーー


 ワイズスライム(下僕)


 種族:思考粘性生命体


 スキル

 『打撃無効』

 『切断耐性』

 『魔法耐性』

 『消化(強)』

 『罠無効(主人の仕掛けたものに限る)』


 固有ユニークスキル

 『再現リプロダクション』←NEW

 『念話テレパシー』←NEW


□ーーーーーーーー


 ステータスを確認したら、固有スキルが新たに2つも追加されていた。

 見た目は別に変わってないようだが……



 ……と思いきや、突然声が聞こえてくる。


 『マスター、私にこのような機会を与えてくださり感謝します』


 なんだこれ。

 頭の中に機械音声のような言葉が響く。


 「おいお前、口で話せ。頭に声が反響して気持ち悪い」


 俺の命令を受けると、ワイズスライムは体を流動させ始める。

 明らかな『意思』のもと活動している、そんな気がした。



 それから数秒後、それはまさに「地獄絵図」といえるものに変質していた。



 「「「「それではマスター、お好みの声をお選びください」」」」



 スライムの身体を覆い尽くすように複数の顔が浮かび上がり、その顔のそれぞれがボエボエと断末魔の声を発していたのだ。

 よく見ればそれらの顔は、最近始末した8人の冒険者たちだった。



 こいつ………面白れぇ、人の姿まで再現できるのか!



 「適当な女の声にしとけ。それよりお前、そいつらの元の記憶は持ってるのか?」

 「いえ、記憶は継承していません。

  単に、補食した生物の外見的な特徴を体で再現することができます」


 俺の疑問に答えるようにして、全裸の男、女の体、鳥型の魔物など、これまで喰らったものを、次々に体で再現していく。

 


 まさにあれだ。映画ターミネーターの敵役の液体金属型のやつ。

 殺したやつに姿を変えれるとこなんか、まさしくそれだ。



 こいつは思わぬ収穫だな。たかだかスライムがここまで化けるとは。



 これからのプランを考えると笑いがとまらねぇ。

 もっと喰わせたらどうなるのか……ハハァ…楽しみだなぁ~。


 とりあえず、簡単な指示だけ出しておくか。


 「そしたら元のスライムの形になっとけ。他の冒険者に見られると不味いからな。

  それと俺の前以外ではとりあえず、人形には変身するな。」

 「はい、マスター」


 形はこれまでのスライムと同じに戻った。これならいいだろう。



 そんなことよりもだ。

 問題なのは、これからどうするか。


 思わぬ収穫があったのはよかったが、とりあえず町に行きたい。

 

 風呂もあれば入りたいし、着替えも用意したいところ。

 臨時収入もまあまあ手に入ったから、足りないことはないだろう。

 

 とりあえず、こいつスライム迷宮ダンジョンに置いてくか。

 魔物と連れ立って行動してたらさすがにまずいだろうし。


 「俺はこれから近場の町までに行ってくる。お前はここで待機してろ。

  ただし襲ってくるやつがいたら、遠慮なく喰っていいぞ」

 「はい、マスター。どうかお気をつけて」


 この世界に来た時は思いもしなかったが、スライムに見送られ、街にくりだすこととなった。



ーーーーー


 外へ出ると、すでに朝日が昇っていて、昼手前くらいの時刻のようだった。

 迷宮の中が基本的に明るいせいで、時間の感覚が狂う。

 俺もだいぶ寝てしまっていたようだ。


 地図によると、ここより北、つまり俺が迷宮まで歩いてきたその道のりの先に、キリロスとかいう町があるらしい。

 本当ならば護衛が欲しいところだがなぁ……まあいないものは仕方ない。


 戦い方はイマイチわからないが、自分にも罠を貼り付けているし、装備だって充実している。

 一撃で殺されない限りはなんとかなるだろう。



 不安と期待に胸躍らせながら、生い茂る森の道を20分くらい歩いただろうか。

 急に開けたところに出た。


 そしてその先に…………


 『初級冒険者の集う町 キリロス』 


 でかい看板と、その近くには外壁と門も見えた。

 案外近かったな。


 近くまでいくと、門番らしき人間が行く手を阻んできた。


 「お前、見ない顔だな……どこから来た?」


 さすがに異世界とも言えないし……なんといえばいいか。


 「南の村から買い出しにきたんです。通してもらえませんか?」

 「このあたりに村なんてあったか? 怪しいなお前」


 こいうぜぇな……やっちまうか。

 と思ったけど、こんなところで騒ぎを起こせば俺が危ない。


 「ありますよ? 小さな集落ですけどね」


 そう言いながら、銭を握らせる。


 「……んん? ああ、あそこか。悪かったな、もう行っていいぞ」


 難なく買収できた。

 門番なんて末端の仕事についてる、しかも初級冒険者の町程度、こんなもんだろう。

 予想外の出費だが、それもまあいいとするか。

 

 


 中に入れば、そこは活気にあふれていた。

 冒険者の数もかなり多いし、商店なんかも軒を連ねている。


 その一角に湯屋と書かれている建物があったので、早速ひとっ風呂浴びることにした。

 

 中は狭く、決して衛生的とは言い難かったが、文句は言えない。

 いや、今の俺にはこれでも十分すぎるくらいだ。


 「ふぅ、生き返る」


 ついつい、そんな言葉が口をついて出てくる。

 そういや、本当に生き返ったんだよなぁ。



 この世界に来る時、神様にも天使にも悪魔にも会っていないが、俺はイレギュラーな存在なんだろうか。

 通常の道からどんどん逸れて行ってるような気もするが。


 まあ、あれだけ人を殺めても風呂が気持ちよくて、未来を前向きに考えている時点で、頭がおかしいんだろう。

 弱肉強食、喰うか喰われるかの単純な世界。

 どうも俺はますますこの世界が気に入ってしまったようだ。



 ハハァ、これからどうするか。


 ……………………

 

 風呂から出ると、なんだか小腹が空いてくる。

 安心というか、落ち着いた時って体の調子とかよくわかるもんだよな。


 ちょうど近くに、冒険者ギルドとそこに併設された飯屋があったので、そこで食べることにした。

 何やら美味そうな匂いがしてくる。


 中に入れば、冒険者の数がかなり多く、初級冒険者の町というだけあって、駆け出しの若々しい奴らが、昼間っから酒を飲んではどんちゃん騒ぎをしていた。

 大柄な男もいれば、小柄な獣人?らしき女の子、他にも耳のとんがった奴やら、小柄でズングリとしたやつやら、人と人以外の奴らがごちゃ混ぜになっている。


 その中でも、ヤケに声のでかいやつがいた。


 「おい、お前ら聞いたか?

  迷宮に潜って帰ってきてないパーティが二組みいるらしいぜ。

  昨日の昼くらいに立ったが音沙汰がないんだとよ」

 「おい馬鹿かお前。

  あんなとこで死ぬやつがいるなんて聞いたことがねぇぞ俺は。

  スライムばっかのあそこで死ぬなんて自殺する以外にゃさすがに無理だろ!」

 「そりゃあ、ちがいねぇ!」


 ダハハハハと下卑た笑い声があちこちから上がる。

 こいつら楽しそうだな。

 いや、今の内に楽しんでもらった方が、俺もやり甲斐があるってもんだ。


 ちょうどタイミングを見計らったように料理が出てきた。

 肉汁滴る骨つき肉の香草焼きに、川魚?の入ったスープ。


 スープは薄味だが、上品なアラ汁のような、お吸い物のような、懐かしい味がした。

 逆に肉は、口にいれた瞬間に溢れる汁気と香草の香り、しっかりした塩分を感じる、噛みごたえ抜群の美味いやつだった。


 普段から少食だったおかげで、それだけども大満足だ。

 感覚的には、1年ぶりくらいに飯を食って生き返った感じさえした。



 そのあとは、町周辺をいろいろ見て回った。

 着替えも買えたし、野営するための道具、食料なんかもある程度買っておいた。

 大荷物にはなったが、ここから迷宮までは近いし、問題ないだろう。


 

 もう、町に用はない。すぐに外へ出ることにした。

 重い荷物を引きずり、もと来た道を戻る。



 その矢先のことだった。



 「お前、迷宮へ行くのか?」



 4人組のパーティのうち、ガタイのいい男が声をかけてきたのであった。


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