第三話 下僕1号
那須高原を思わせる広大な原っぱに、原色の鮮やかな花々が咲き乱れている。
そしてポツリとマダラに生える木々もなんだかいい雰囲気を出していた。
太陽はないはずだが、どこかに光源があるようで、真昼のように明るい。
微風も涼しげに吹いているし、目隠しされて連れてこられたら、ここが
どういう原理か知らないが、一つの自然が循環しているような場所だった。
そしてそこに並ぶ三つの死体……っふう、重かった。
さすがに成人? 3人分運ぶのは骨が折れる。
一息つくか。
広大な敷地の中には、まだ魔物らしき生物は見えない。
もしかしたら、この3人があらかた狩りつくしてしまったのかもしれんな。
と思っていた矢先……
平原のところどころに、動く青い水溜まりのようなものが見える。
こいつはもしかして………
近づくとそれは、やつだった。
魔法の世界には欠かせない住人。
『スライム』
流線型のフォルムに、青色のボディ。
顔はないのにどこか愛らしさを感じさせる表情をしている。
手持ちの剣で突いてみたら感触がアレと同じだった。
夏場の浜辺によく打ち上げられている、水クラゲ。
小さい頃はシャベルで切ったりして遊んだことを思い出す。
だが
どんな原理で動いているんだろうか。
間近で観察すると、草を食んで体内に取り込んでいた。
透かしてみると、消化器官のようなものを体の中央らへんに備えているのが見える。
ここで一つ、疑問が生じた。
そんな疑問を解消するべく、とりあえず試してみることにした。
手で持ち運ぶことができたので、一匹捕まえてきたものを冒険者の亡骸の上に乗せてみる。
最初はモニョモニョと動き回っていたが、時間が経つと、草を食んでいるときと同じように、プルプルと振動し始めた。
んん? 食いついてる?
よーく観察すると、亡骸の身につけている衣服や肉体が少しずつ溶け出しているような気がした。
一匹じゃ時間がかかるな。何匹か運んでこよう。
一体の重さがちょうど、富士山の天然のお水1Lボトルと同じくらいな気がした。
4体くらいを一気にまとめながら、せっせと運んでいく。
平原中にいる奴等を片っぱしから集めたら、50体くらいになっていた。
ふぅ……今日は荷物運びが多くてしんどいな。
だけどその分の成果はすぐに現れた。
冒険者たちがみるみるうちに消化されていくのだ……ああ、諸行無常。
これで発見される心配もなくなったな。
そしてその途中、何体かのスライムが変質・融合し始める。
すべての冒険者を消化し終える頃には、一つの大きな塊となっていた。
するとまた、ステータスがテロリンテロリンと鳴り始める。
チッ……うるせぇな。ミュート機能は付いていないのか。
ステータスを開けば、一件、メッセージが表示されていた。
『隷属の首輪で『グランドスライム』を奴隷にすることが可能です』
屈服させたというよりかは、餌付けしただけなんだが。
しかもただのスライムが冒険者を喰らい融合したことで、グランドスライムとかいう上位生物っぽいものに変わっていた。
でもこれは便利だ。
こいつの消化速度ならば、いつでも迅速に証拠を隠滅できる。
こうして俺は、下僕1号を手に入れた。
□ーーーーーーーー
グランドスライム(下僕)
種族:粘性生命体
スキル
『打撃無効』
『切断耐性』
『魔法耐性』
『消化(強)』
『罠無効(主人の仕掛けたものに限る)』
□ーーーーーーーー
これはいい。
俺の仕掛けた罠にかからないというのは非常に便利だ。
使用用途の幅がかなり広がる。
……ちょっと実験でもしてみるか。
ーーーーー
やはりこの
暫く待っていると、その日のうちにもう一組の冒険者たちがやってきたのだ。
「クリス達が先に来てたはずだよな? まだ潜ってるのかな」
「そうかもね、会ったら合流しましょう」
そのクリスとやらはもうこの世にはいないんだけどな。全く呑気なもんだ。
これから何が起こるとも知らずに…………
グランドスライムには、いくつかの
『魔法罠 ー盗聴・監視ー』
この罠の付近にいるものの音と景色を共有することができる魔法だ。
これで冒険者たちの動向を逐一観察することができる。
状態異常系の魔法罠
『電撃・麻痺』、『致死毒』、『睡眠』。
最初のやつらは、爆破で吹き飛ばしてしまったせいで、何かと実入りが少なかった。
今度は丸々すべていただいてしまおうという算段だ。
そして今、五人組の冒険者が、俺のグランドスライムと対峙する。
「こいつ、いつも出てくる個体よりもでかいぞ!」
「ええ、そうね。みんな! 絶対に油断しないで」
「「「おう!!!」」」
リーダー格と思われる剣士が前衛を務め、それに続く近接職が2人。
魔法職の2人は後方支援に徹するようだ。
ハハァ、その陣形を組んだ時点でお前ら終わりだ。
前衛が斬りつけた瞬間、グランドスライムがガスを噴出した。
まあ俺が仕掛けた罠だけど。
瞬間、近接職3名のあの世行きが確定する。
三人はガスに触れた瞬間、もがき苦しみはじめた。
「ガァ!? ウブォグルボォ」
まずは体に電撃が走りる。
痺れ・目眩に襲われて、膝をつくや否や、泡を吹いて痙攣し始めた。
そして次に来るのは、致死性の猛毒だ。
身体中にアザが広がっていくように、全身が赤紫色に変色していく。
そして最後の『睡眠』が決めてとなり永眠した。
最初から遠隔で魔法でも打ち込んで消耗させれば、このようなことにはならなかっただろうに。
慎重さも危機管理能力も足りない、やっぱりビギナーだ。
「…………えっ……?…………」
魔法職の二人は、何が起こったかもわからずに、呆然と立ち尽くしていた。
もちろん戦闘中にそんな暇はない。
その決定的な隙を見逃すわけもなく、混合ガスを撒き散らすグランドスライムが接近していくと、近接職三人の後を追うように、息絶えていった。
まさに、一方的な蹂躙だったのだ。
……………………
現場に行くと、装備の状態が非常によかった。
しかも、前に来た三人よりも身につけているもののレベルも高い気がする。
皮の鎧も、レディースからメンズにチェンジだ。
ん、しっくりくるな。
それと金を回収してと………おおっ!…………
魔法職の装備をまさぐっていると、緑の液体の入った小瓶が三つでてきた。
もしかして
毒味でグランドスライムに一つかけてみると、唯一斬撃でつけられたダメージがみるみる回復していく。
お〜、こりゃ間違いないな、便利アイテムだ。
後は……ゴソゴソゴソ
地図が出てきた。これだよこれ、一番欲しかったやつ。
確認してみると、そこまで広い範囲の地図ではなかったが、現在地と付近の街の場所くらいはわかった。
これでようやく必要品の買い出しに行けそうだ。
怖いくらいに出だしが順調だ。
とりあえず休んだら、明日、街へ行ってみるか。
グランドスライムに罠を貼り付け直したあと、俺は寝ることにした。
金目のものだけは全て回収し、その他の処理は、もうスライムに任せっぱなしだ。
こうして俺の異世界転生は、順調な滑り出しをみせたのだった。
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