第二話 ビギナーズアンラック


 街のある方角もわからなかったので、とりあえず街道に沿って歩くことにした。

 身体が強化されている訳でもないらしく、ひたすら歩くのは正直しんどい。



 かったりーな。



 腹も減るし喉も渇く。

 最悪しばらくは食わなくても平気だが、飲み水がないのはまずい。

 どっかに川でもあればいいが……



 それから一時間ほど歩いていた時のことだった。



 前方に何か見える、それも結構な大きさの建造物だ。

 近づいてみると、その全容がわかった。


 前にテレビで見た、海外の神殿や遺跡のような、それに似た珍妙な形をした建物だ。

 正面には一つ入り口があり、看板が一つ立っている。


 その文字は読めなかったが、ステータス越しに透かして見ると、日本語に翻訳された。



 『この先、迷宮ダンジョンとなります。

  スライム、ワーム、ホロホロ鳥、その他の魔物にご注意ください!』



 これが、『迷宮ダンジョン』ってやつか?

 確かに、いかにもそれらしい見た目をしている。


 入るか否か。

 入り口の真ん前で悩んでいたら、中から生き物のいる気配がしてきた。

 何やら、声のような音を発しながら外に向かってきている。



 魔物か……だとしたらまずい。


 

 今の俺の格好は、ユニコロのラフな灰色のパーカーに、黒のジーンズ、白のスニーカーと、ただのモノクロファッションだった。

 武器なんて何一つ持っていない、丸腰の状態だ。

 襲われれば、ひとたまりもないだろう。



 んーよくわからねーが、とりあえず罠でも仕掛けとくか。



 本当なら万全の状態で、獲物を見定めて、念入りに準備してから使いたかったが仕方ない。

 いま覚えているものの中で一番強そうな『魔法罠 ー爆ー』を置いてみる。

 多分爆発するんだろうな。


 設置は極めて楽だった。

 置きたい場所を目視して、手をかざすだけ。 


 こんなに楽だと、罠に掛かった後の達成感もなにもなさそうだな。

 まあこの状況で苦労もしたくねーからちょうどいいけど。 



 近くの木陰で待機していると、人の声らしきものが聴こえてきた。

 魔物かと思った奴らは、人間だったのだ。



 「ここの迷宮も簡単すぎるよなぁ」

 「得られる経験値も少なくなってきたわね」

 「そろそろ場所変えてみる?」


 迷宮ダンジョンの中から出てきたのは男女3名のパーティだった。

 戦士のような全身に鎧を着た男、ローブを羽織り杖を持った魔法使いと思われる女、弓を背負い漆黒の革鎧を着込んだ狩人のような女。


 やっぱりこの世界は異世界で間違いなさそうだ。

 コスプレにしてはひどく野蛮だし、あんな馬鹿でかい刃物を持っていたら、そもそも銃刀法に抵触する。


 だけど装備はやけにボロで薄汚れているようにも見える。

 もしかしたら、こいつらは初心者ビギナーなのかもしれない。 


 

 ってことは、ここは初級冒険者が経験を積みに来るような迷宮か?

 もしそれが当たっていれば、この近くに町やら村がある可能性も高いはずだ。



 とりあえず話でも聞いてみるか。

 問答無用で俺を殺すようなことは…………恐らくないだろう。


 「おーい……」


 その瞬間だった。


 

 _____ドゴォン!!!_____

 


 目の前の下級冒険者たちが俺の罠に引っ掛かった。

 それはもう見事な爆発だ。


 三人は散り散りに吹き飛び転がった。

 辛うじて人間としての原型はとどめていたが、その生死は容易に想像がつく。


 そして俺のステータスからは、テロリンテロリンとアラート音が鳴り続けている。


 「ステータスオープン」


 それを見てみると、中身が追加されていた。


□ーーーーーーーー


 罠掛わなかけ 太郎たろう


 職業:罠師トラッパー


 スキル

 『物理罠制作・設置』

 『魔法罠制作・設置』

 『罠感知』

 『罠無効』

 『罠誘導』


 固有ユニークスキル

 『熟練罠師の妙技』

 敵が罠にかかる確率が上昇する。


 『隷属の首輪』

 屈服させた生物を下僕にできる。


 『連続殺人鬼』←NEW

 弱者に与える恐怖が増加する。


□ーーーーーーーー



 かなり不名誉なスキルが追加されていた。

 俺は今、意図しなかったとは言え、人を殺めたのだ。

 

 別にそんなつもりはなかったんです、なんて言い訳をするつもりはない。

 有無を言わせず殺してしまったのだから。



 とりあえずやってしまったものはしょうがない。

 肝心なのはこれをどうするかだ。



 装備を見れば、まだ使えそうなものがいくつかありそうだった。



 狩人の革鎧、魔法使いのローブ、戦士の長剣ロングソード

 ユニコロではレディースばかり買っていたから、女物の革鎧も難なく着ることができた。

 ちょっと胸のあたりのスペースが気になるけど問題はなさそうだ。


 ローブは七部丈で太ももに擦れるのだが、まあ、あるだけマシ。

 その他にも革の水筒、携帯食料、金も持っていたようなので回収しておいた。


 

 それから時間が経って今、目の前に三人の死体を並べて考える。

 

 …………これからどうするか。

 


 爆殺されているのを誰かが見つけたら、人の仕業だとばれてしまう。

 そうすれば犯人探しが始まるかもしれない。


 埋める? いや、掘り返される可能性があるな。


 バラす? 慣れてないし、血まみれになればそれこそ犯人とばれてしまう。


 それに血の匂いに誘われて、魔物が寄ってくるかもしれない。



 …………ん? 魔物を寄せるか。意外といいかもしれない。



 魔物に食わせれば証拠を簡単に全て抹消できる。

 だけど魔物ってどこに………ああ、そうか。



 ここは迷宮の真ん前だ。

 スライムか何かに与えれば溶かして食べてくれるかもしれない。 



 よし、とりあえず中に運ぶか。



 ……………………

 


 力の抜けた人間の身体は非常に重かった。

 だけど、投げ出す訳にもいかない。



 うんとこしょ、どっこいしょ。 ズリズリズリズリ…………


 うんとこしょ、どっこいしょ。ズリズリズリズリ…………


 

 地下へと続く長い階段を下りていく。


 これが後に、この世に混沌をもたらす第一歩となる。


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