酷暑
夏休みとは、気温が暑すぎて授業にならないから、授業をしない。
そういうものだと思っていたのだが、夏休み明けで私の肌を焼くあのお日様は何なのだろうか。
今日の天気は夏でも特に暑いらしく、夏休みの期間を間違えているのではないかと思ってしまう。
(こんなことなら授業は1日でも良かった)
そして、時間帯も悪い。
今日の授業は午前のみだったのだが、それはつまり、太陽が眩しいお昼に下校しなければならないということだ。
「慧、バス来たよ」
「……うん」
かろうじて良いことといえば、私達はバス通学で、歩く距離はそこまで長くないことだ。
バスはクーラーが効いていて、さながらオアシスである。
この間に汗ふきシートや冷却スプレーに頑張ってもらう。
「慧、大丈夫?」
「帰りたい」
「うん。そうだね」
慧はなんだか溶けそうだった。
濡れタオルを巻いたり、私より重装備なのに。
「……さあ、もうひと頑張り!」
「……うん」
バスを降りたら家はもうすぐだ。
いつもより長く感じるのは気のせいに違いない。
「慧、ちょっとだけ離れて」
それよりも気になるのは汗の臭いだ。
早くお風呂に入りたい。
「……」
「ほら、暑いから」
「……分かった」
慧に変な目で見られてしまった。
帰ったら一緒にアイスでも食べよう。
◇◆◇
「ただいま」
「おかえりなさい。慧君もいらっしゃい」
「おじゃまします」
帰宅すると、玄関からもう涼しい。
クーラーは偉大である。
「湯船作ってあるからお風呂入っちゃって」
「ありがとう! 慧、お先にどうぞ」
慧の方が早いから先に入ってもらおう。
「何言ってるの。一緒に入りなさいよ」
「お母さんこそ何言ってるの!?」
冗談の口調ではなかった。
本気で一緒に入らせるつもりなのだろうか。
「慧君はすぐ入らないといけないわよね」
「うん」
「美咲はすぐ入りたいわよね?」
「……うん」
(なんか流れが読めてきたぞ)
「一緒に入るわよね?」
「いや、それは違うと思うな」
「いいから入ってきなさい」
流されなかったのに、問答無用になった。
「裸を見られるのがそんなに恥ずかしい?」
「そりゃそうでしょ!」
なぜ、恥ずかしいのがおかしいという風に聞かれているのだろうか。
「じゃあこれを使うといいわ」
何かと思ったら、乳白色の入浴剤を受け取った。
「これでどうしろと!」
「じゃあ行ってらっしゃい!」
嬉々として送り出された。
私の叫びはスルーされた。
◇◆◇
脱衣所で2人。
慧は気にせず服を脱ぎ始めた。
「ちょっ!」
慌てて私は後ろを向いた。
なぜ気にならない。
「美咲、入らない?」
(なんで気にならないの?)
「慧、湯船にこれ入れて、体洗い終わったら呼んで」
「うん」
私は慧を先にお風呂に行かせた。
一緒に入るのは無理だった。
シャワーの音が聞こえる。
慧が体を洗っているのが分かる。
私はそれが終わるのを待っていた。
(私、何やってるんだろう)
そんなことを思ってしまったが、どうせ出て行ってもお母さんに戻されるのが分かっているからそこはもうあきらめた。
「美咲」
呼ばれたので私も服を脱いでいく。
「慧、私がいいって言うまで目をつぶってて」
「うん」
私はそっと扉を開けて、慧が目をつぶっているのを確認してから中に入った。
着替えの時とはまた違う緊張感がある。
体を少し急いで洗って、私も湯船に入る。
慧の隣に身を寄せる。
少し間をあけたい気があったのだが、湯船がそこまで大きくない。
入浴剤のおかげで見えないからそこは良かった。
私は肩まで浸かった。
「もういいよ」
「うん」
慧が目を開けると、私をずっと見ている。
実は見えているのだろうか。
「あんまり見ないで」
「なんで?」
「恥ずかしいから」
「?」
伝わらなかった。
「なんでもないよ」
「ちゃんと言って」
慧に頬を引っ張られた。
全くいたくなかったが驚いた。
慧の目は寂しそうだった
「……」
私が言葉に困っていると、慧に抱きつかれた。
その勢いでお湯が少し
「ダメ!」
今は裸で、いろいろ
私はうつむきながら慧を押し返す。
水面に自分の顔は映らないが、どんな顔をしているのか見なくても分かる。
「もう出る」
「え? うわっ」
慧はお風呂から出て行った。
私は慌てて壁を見る。
なぜ気にしない。
慧が上がった後、私は頭まで湯船に浸かった。
◇◆◇
私がお風呂から上がると、慧は家からいなくなっていた。
食卓には3人分の食事が並び、困り顔のお母さんがいた。
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