席替え

 新学期。

 休みの終わりであり、宿題の提出日で、崩れた生活リズムを築き直す日。

 そう悲観する人もいるが、私は宿題をコツコツ進め、規則正しく生活していたから問題ない。

 私の密かな自慢である。


「みっさきー! 私と会えなくて寂しくなかったかい?」


 始業式が終わり、教室に帰ると、恋奈にそう言われた。

 いつも賑やかにしてくれると思えば、懐かしく思う日も確かにあった。


「大丈夫だよ」

「だよね。美咲は神井君とラブラブしてたんだから、私のことなんて思い出さないよね!」

「恋奈!」


 訂正、懐かしく思ったのは気のせいだ。


「まったく……渡す気が無くなりそうだから渡しちゃうね」

「これ何?」

「旅行のお土産」


 私は旅行でお土産を買っておいたのだ。

 仲の良い友だちに渡すために。

 恋奈は仲の良い友だちのはずなのだ。


「おやおやおや? 新婚旅行ですかな?」

「違う!」

「婚前旅行ですかな?」

「ちが……」


 違うと言おうとしたのだが、言いかけて疑問がき上がった。

 この否定は将来結婚は絶対しないという意味になるのだろうか。そうなら悪いかもしれない。


「……う」


 だが、そんなことはないと思い直した。


「……」

「なに?」

「あ、なんでも無いよ? お土産ありがとう!」


 少し恋奈の様子がおかしくなった。

 そして足早あしばやに席に戻っていった。


「?」


 不思議に思ったが、チャイムが鳴ったので私も席につく。


「新学期にいきなり授業は嫌だろう。先生も授業したくないから席替えで時間を潰そう」


 新学期最初の授業は、田中先生によるだだ漏れの本音で始まった。


「くじを用意したから順番に引いてくれ」


 無駄に用意が良かった。

 最初から授業をしないつもりだったらしい。

 クラスの皆がくじを引き、喜んだり悲しんだりしていく。

 私も恋奈と動こうとしない慧とで並んでくじを引く。


「私はここだけど美咲はどこになった?」


 恋奈と結果を見せ合う。


「ここ」

「あちゃー」


 私は窓際の前だった。

 私の席は黒板が見づらいのだ。そして今は暑い席でもあって、つまりあまり行きたくない席だ。

 一方恋奈は廊下側の後ろで、私とは対角だ。


「慧は?」

「ここ」

「え」


 慧の席は廊下側の後ろから2番目で、恋奈の前だ。

 私だけ離れてしまった。

 くじだから仕方ないけど、実際そうなるとなんか悔しい。


「あれれ? 美咲は神井君と・・・・はなばなれになって寂しそうですね?」

「そんなんじゃないよ!」


 恋奈がニヤニヤしながら聞いてきて、恋奈と離れても寂しくない気がしてきた。


「私、良い方法思いついちゃったんだけどなあ?」

「え、なに?」

「それは・・・」


 恋奈はそう言うと、恋奈は手を挙げて……


「先生! 美咲と神井君は隣が良いと思います!」


 すごいことを言った。

 これのどこが良い方法なのか。


「なに言ってんの!?」


 すると、クラスメイトから賛成の声が聞こえてきた。なぜだ。


「そうだな」

「田中先生まで!?」


 まさかの先生まで賛成。どうなっているんだ。


「じゃあ、私と地原さんを交換してください。この席黒板が遠くて見えないので」


 そう言ったのは、慧の隣を引いた子だ。

 メガネをかけていて、確かに後ろの席は辛いだろう。


「分かった。あと、他に前が良いやついたら教えてくれ」


 こうして、私と慧と恋奈の席は近くなって席替えは終わった。


(解せぬ)


 謎を一つ残して。

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