旅行3

「疲れた」


 部屋に帰ってくるなり、慧は床に寝転んだ。

 慧を見ていると私にも眠気がやってくる。

 私も慧の隣に寝転んだ。


「畳だ~」


 横になると、畳の匂いが分かって心地良い。


「美咲、枕になって」

「良いけど、寝ないでよ?」


 夕食だってまだなのだ。

 ここで寝てしまっては食べ損ねてしまう。


「うん」


 そう言うと、慧はのそのそと私のお腹に頭を乗せた。

 足に来るかと思っていたので少し驚いた。


「……慧。なんでお腹なの?」

「こっちの方が柔らかくて気持ちいい」


 あんまり触らないでほしい。


「慧、くすぐったいよ。あんまり動かないで」


 そして丁度良い場所を探しているのか、慧は頭を微妙に動かしていた。

 私は慧が動かなくなるのを待った。


「地原様、お夕食をお持ちいたしましたが、入ってよろしいでしょうか?」

「あっ、はい! どうぞ」

「失礼いたします」


 私は飛び起きた。


「あー」


 その勢いで慧は私から落ちた。


「あ、ごめん」

「美咲、ひどい」


 どさっという音がした。

 たぶん痛かったと思う。


「こちら、本日のお夕食になります。ごゆっくりどうぞ」

「はい」


 中居さんは私達のやり取りを気にせず、料理をテーブルに置いて去っていった。


「慧、ごめん。大丈夫?」

「……大丈夫」


 慧はそう言い起き上がったが、慧の鼻は少し赤らんでいた。


「えっと……食べようか」

「うん」


 私は多少の罪悪感が残りつつも、だからといってどうすればいいのか分からなくて、そのまま夕食にした。


「美咲、横にずれて」

「え? あ、うん」


 私と慧は向かい合って食べるはずだったが、食べ始める前に慧が私の隣に座椅子と料理を持ってきた。


「いただきます」

「い、いただきます」


 そして自然に食べ始めた。

 テーブルは横長の形で、座椅子は詰めればギリギリ2つ並べられたのだが、動くと腕が当たりそうで食べづらい。


「慧、食べづらくない?」

「大丈夫」


 だが私は慧に戻るようには言わなかった。


「慧……何か、して欲しいことはない?」


 私は、半分無意識に問うていた。

 あまりに自然で自分でも驚いた。


「じゃあ食べさせて」


 慧は考える素振そぶりもなく即答した。


「えっ……うん」


 そして私の方を向いて口を開けた。


「じゃあ……」


 私は慧の口に料理を運んでいった。

 慧はさっきより美味しそうに食べていて、私はこころが温まる。


「美咲も」

「……うん」


 私も同じように慧に食べさせてもらった。

 気恥ずかしさは無いわけではないのだが、そこまで気にならない。

 知り合いはいないし、部屋には誰も入ってこない。

 ここは慧と2人だけの空間なのだ。


「慧、次は何が食べたい?」


 私は、自然と笑みがこぼれた。


「……ごちそうさまでした」

「ごちそうさまでした」


 私達は、交互に料理を運びあい、夕食を美味しく頂いた。

 少しして眠くなってきて、すぐ横になるのは良くないのだが、今日はいいかなと思えてくる。


「じゃあ次」

「……え? 次?」


 私がうつらうつらとしていると、慧が体を寄せ、腕を回して私を包み込んだ。


(ん?)


 そのまま私の方に体重をかけてきて、私はされるがままゆっくり横になった。


「…………え?」


 私はしばし理解が追いつかなかった。

 私は慧に押し倒された理解が徐々に追いつく。


「え? 慧……え?」


 動揺で言葉が出てこない。

 急にされたらとっさに動けただろうが。


「美咲、どうしたの?」


 慧が体を浮かせて私を覗き込む。

 いつも見ている顔なのに、今は別人に思える。


「……慧こそ、どうしたの?」

「僕が美咲にしたいことをしてるんだよ?」


 慧はそんなことをしたいと思ってくれていたのかと驚いていると、慧は私から離れ、視線が下へと流れていく。

 慧の手が再び私に伸ばされる。


(これってダメなやつじゃないかな!?)


 私が慧を止めようとしたとき、慧の手は私に優しく触れ……


「ん?」


 私のお腹に頭を乗せた。


「えっと……慧、なにしてるの?」

「美咲を枕にしてる」

「あ……うん」


 ダメなやつでは全然なかった。

 全身の力が抜けた。

 今まで力んでいたらしい。


「はぁ」


 私はこのまま眠ってしまいたくなった。


◇◆◇


 深夜。


「本当に寝ちゃった!」


 私は寒くて目を覚ました。

 その後、布団を敷いてちゃんと眠った。

 慧は転がして抱き枕にした。

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