旅行2
「着いたー!」
降車駅に到着した。
目的地までもうすぐだ。
「慧、旅館ってどっち?」
「あっち」
私も地図を準備したから調べられたのだが、慧は頭に入っているみたいで聞いたほうが早い。
なんとも頼もしい。
「じゃあ行こう!」
「うん」
道すがら気になるお店を見ておく。
帰りにお土産を買うのだ。
「ここだね」
「うん」
駅から少し歩いて、今回の目的地に到着。
自然の中に
和を感じさせる木造建築は、住宅ではあまり見ないので特別感があり気分が高まる。
「ようこそお越しくださいました。ご予約いただいたお客様のお名前をお伺い出来ますか?」
「はい……えっと、地原です」
旅館に入ると仲居さんに深々とお辞儀されて迎えられた。
凛としているが柔和な雰囲気でもあり、何より和服が似合う人だった。
「地原様。お待ちしておりました。お部屋にご案内いたします。こちらへどうぞ」
「はい」
部屋に通されるまでに、温泉や食事について説明してもらった。
途中にすれ違う仲居さんには立ち止まった上でお辞儀をされて、どうすればいいのか戸惑ってしまった。
「このお部屋でございます。ごゆっくりお過ごしください」
私たちが通された部屋は2人部屋で、畳の床に2人用のテーブルと座椅子というやや控えめな部屋だ。
それでもなぜか広く感じる不思議。
「ありがとうございます」
仲居さんが
「いいなー。私も着物着たらあんな風になれるかな?」
「それ着てみる?」
「まあ着るけど」
慧が指したのは部屋に用意されている浴衣だ。
元々着るつもりで来たからもちろん着るのだが、それであのように行くとは思っていない。
「じゃあ慧はあっち向いて着替えて」
「うん」
この部屋にはこれといった仕切りがなかった。
だからお互い背を向けて着替える。
慧は着替えを覗くような子じゃないし、覗いてもなんとも思わない子だから問題ない。
(なんか悲しくなってきた)
覗く
(慧は紳士だから覗かないのだ。そうなのだ)
そんな事を考えて、着替えは何事もなく終わった。
「慧、着替えた?」
私は慧に背中を向けたまま問うた。
「うん」
「じゃあこっち向いていいよ」
私達は同時に向かい合った。
「ほう……」
慧の浴衣姿は少し違和感があった。
胸元が開いたり帯を少し緩めたりでゆったり着ているようなのだが、それがサイズの合わない物を着ているように見えて、お下がりを着ているような印象だった。
「美咲、どう?」
「似合ってるよ」
「ありがとう」
全体的には似合っているのでそれだけを口にした。
「私はどう?」
一方私は、ぴっちり着ている。
だがあとで帯は緩めておこうと思う。
「仲居さんとは違う感じ」
「あ、うん。そうだよねぇ」
それは言わないで欲しかった。
「でも、美咲の方が良い」
「!?」
暫しの硬直。
なんだか今日の慧はストレートと言うか、珍しい感じだ。
「……ありがとう」
とりあえずお礼は言っておく。
「じゃあ、温泉に行こうか」
「うん」
私達は今回1番の楽しみである温泉に向かった。
「じゃあ、後でね」
「うん」
この温泉の魅力は、露天風呂が水着を着て混浴で入れることだ。
シャワーとその他の温泉は別々だ。
旅行まで来て別々はなんとなく寂しかったのだが、かと言って一緒に裸になりたくはなかったので、すごく丁度良い。
私は体を洗い、水着を着てから露天風呂に向かった。
「慧、おまたせ」
慧はすでに温泉に浸かっていた。
「うん」
私は「ううん、いま来たとこ」なんて今日の慧なら言ってくれるのではと思ったが、そんなことはなかった。
私は慧の隣に座って温泉に浸かった。
「気持ちいいね」
「……うん」
「慧?」
まだ少ししか入っていないのに、慧はすでに眠そうだった。
「慧、お風呂で寝ちゃだめだよ」
「……あと5分」
「長いって」
そんな状態で5分もいれば本当に眠ってしまうだろう。
「美咲」
「何?」
「気持ち悪くなってきた」
「えぇ……。じゃあ、上がって牛乳でも飲もうか」
「うん」
慧が眠ったりのぼせたりしたら私ではどうしようもない。
朝にでもまた入ろう。他の温泉にも入りたいし。
それにしても、慧が温泉に弱かったとは思わなかった。
「慧、
お風呂上がりに再チャレンジ。
「待ってた」
「……」
別に言い方を変えても意味がない気はしていた。
それでも少し悲しくなった。
「美咲?」
「なんでもない!」
上がるまでに慧より時間がかかったのは確かだから仕方ないのだ。
私は牛乳を一気飲みした。
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