家族

「ただいま」

「おかえりなさい、美咲。慧君もいらっしゃい」

「おじゃまします」


 家につくと、慧が私から離れた。

 もう少しこのままでも良かったが、そうする理由がもうない。


「雨で冷えたでしょう? お風呂あるから2人とも入っちゃって。その後でご飯にしましょう」


 お風呂がもうあるのはありがたい限りだ。


「慧、お先にどうぞ」

「うん」


 だが私は濡れていないので、慧に先に入ってもらった。


「ふーん」

「え、何?」

「なんでもないわよ?」

「そう?」


 お母さんになにか変な目で見られた気がした。


「……美咲、次」

「あ、うん。……って、なにそれ?」


 お風呂上がりの慧が着ていたのは、花柄のワンピース。

 明らかに男物ではないと思うのだが、どうしたのだろうか。


「かわいいでしょ?」


 確かにかわいい。なんなら私のより。

 お母さんが選んだのね。


「美咲、どう?」

「かわいいよ。似合ってる」

「ありがとう」


 慧は嬉しそうなのだが、男の子はかわいいと言われて嬉しいものなのだろうか。


「じゃあ私も入ってくるよ」


 ともかく、私もお風呂に入る。

 私はいつも、お母さんより先にお風呂に入る。

 だからお風呂に入るときに浴室が濡れていると、だれかが入った後だということがよく分かる。


(慧が入ったお風呂……って、私は一体なにを!)


 あまり良くないことを考えてしまった。

 別のことを考えよう。


(慧って変わってるよね……)


 お風呂から上がったら、ご飯がテーブルに並んでいた。

 私のだけ少し少ない。


「お母さん! 普通で大丈夫だって!」


 私は慧に小食アピールしたいなんて思ったこともない。

 それよりもお腹いっぱい食べたい。


「そう?」


 お母さんは普通に装い直してくれたが、なぜか残念そうだった。


「いただきます」

「いただきます」

「どうぞ~」


 慧を見ながらご飯を食べていると、ふと思う。

 兄弟がいたらこんな感じなのだろうか、と。


(慧は弟かな? お兄ちゃんっぽくないし)


 とはいえ、家族と同じように接しているから、実際にどうかは小さなことだ。


「美咲、やっぱり少なくした方が良かったんじゃない?」

「あ」


 考え事をしていたら、箸が止まりがちになっていた。

 これではなにもいえない。


「ちょっと考え事してただけだから!」

「そうね、男の子を落とすにはやっぱり料理だと思うわ」

「なんの話!?」


 お母さんは何を思ったか、全く関係ない話をしてきた。


「恋する乙女にアドバイスよ?」

「いらないよ!?」

「まあまあ。お母さんがお父さんをメロメロにしたのは料理がきっかけでね……」

「惚気話もいらないよ!?」


 箸は完全に止まった。

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