雨
放課後。
私と慧は、田中先生に呼ばれたので職員室に行った。
「提出は明日でいいからやっておくように」
「はい」
「はい」
呼ばれた理由は、休んでいた日に出ていた宿題だった。
怒られるわけでなかったので良かったが、朝のうちに言ってほしかった。
「失礼します」
「失礼します」
職員室を退室して帰路に就く。
「美咲、丁度いいところに」
昇降口につくと、恋奈に声をかけられた。
「どうしたの?」
「いやー、私傘持ってきてないのに雨が降ってきてさ」
外を見れば、確かに雨が降っていた。
天気予報では晴れだったのだが、なかなかの本降りだ。
何とも憂鬱になる。
「というわけで美咲の傘貸して?」
「なんで!?」
私と慧は、今日は傘を持っている。
慧は晴れの日でも傘を持つことがあり、それに
そしてその日は天気予報が晴れでも雨が降る不思議。
今日はそんな日だった。
「神井君の傘があるからいいでしょ?」
「?」
私が分からないでいると、恋奈が私に耳打ちした。
「相合い傘のチャンスだよ?」
「!」
相合い傘はそういえばしたことがなかった気がする。
「それじゃあ!」
「あれ? あ、恋奈!」
気づいたら傘をとられていた。
「神井君、美咲を傘にいれてあげてね!」
恋奈はそう言い残し、私の傘を差して帰っていった。
「美咲、入る?」
慧は傘を差して私を手招きした。
「……うん」
私は慧の傘に入れてもらった。
(視線が痛い)
今は放課後から少し時間が経っていて、生徒は放課後直後ほどは多くない。
だがそれでもまだいて、そしてその中で相合傘をしているのは私達だけだ。
さらに今朝クラスメイトからの印象を聞いてしまったものだから、それを思うと余計に恥ずかしい。
「美咲、大丈夫?」
慧は私の心配をしてくれているが、特に気にしていないようだ。
本当にうらやましい。
「……大丈夫」
そうは答えたが、内心ドキドキである。
私たちの距離は微妙に距離が空いているが、歩くたびに慧の肩に私の肩が触れ、くっついているよりも緊張する気がする。
だがそれもバスに乗るまでだ。
バスは丁度来るように学校を出たから待つこともあまりない。
「……ふう」
バスに乗ってからは、学校の人とは合わないので安心だ。
◇◆◇
家までもうすぐ。
安心の帰路だ。
「美咲、もっとこっちに来て」
バスに乗る前と同じ距離でいると、慧にそう言われた。
「なんで?」
慧も学校ではくっつくのが恥ずかしかったりしたのだろうか。
誰もいなくなったからくっつきたくなったのだろうか。
たぶん違うだろうけど聞いてみる。
「濡れるから」
だろうと思った。
よく見れば、慧の反対側の肩が濡れていた。
私は濡れてないから、慧は私に傘を合わせてくれていたのが分かった。
(なんだか男の子っぽい! 男の子なんだけど)
私は密かに感動していた。
「うん。じゃあ……」
私は慧と肩をくっつけた。
慧の熱が伝わってきて温かい。
「もっと」
「うわあ!」
突然慧に手を引かれ、慧と体が半分重なった。
私の位置は隣というより前のほうが近い。
「ひゃん!」
「これで大丈夫」
慧は私の腰に手を回した。
思わず変な声をあげてしまった。
誰もいなくて良かった。
「……うん」
少し歩きづらくはあったが、それでも私はこの姿勢を家につくまでやめることはなかった。
たまには雨も悪くない。
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