番外編:クリスマス
12月24日。
ツリーを飾り、パーティをして、はしゃぐ。
ケーキを食べて、プレゼントをもらって、眠りにつく。
クリスマスの前日。
そしてなぜか当日より盛り上がる不思議な日。
今日はそのクリスマス・イブである。
「ねえ美咲。クリスマスは神井君と何して過ごすの?」
学校につくなり、恋奈言われたのがこれだ。
まるで私が慧といるのが確定みたいな言い方だ。そうなんだけど。
「
「2人っきりじゃないの?」
「違うよ」
以前には慧と2人でどこかに行こうとしたこともあったのだが、お母さんが寂しそうだったので結局その日はどこにも行かなかった。
「何するの?」
「普通にチキン食べて、ケーキ食べて、だよ?」
「プレゼント交換はしないの?」
そう言えばしていない。
「そうだね。慧、今年はプレゼント交換しようか」
「うん」
「何が良いかな……」
そうは言っては見たものの、慧には何を渡したら喜んでくれるのだろうか。
「美咲はね、リボンがいいよ!」
「リボン?」
慧はリボンを貰って喜ぶのだろうか。
「自分をリボンで巻いて、「プレゼントは……わ・た・し」って」
「恋奈!」
ちゃんと聞こうと思ったらこれだ。
「ダメかな? 神井君、美咲がプレゼントだったら嬉しいよね?」
「うん」
「ほら」
「ちょっと、慧?」
なんでそうなるのか。
まあ、嬉しくないと言われたらそれはそれで傷つくのだが。
「美咲はずっと僕を見ていてほしい」
「ちょ……!」
「ひゅーひゅー」
慧はなんて恥ずかしいことを言うのか。
「とにかく、プレゼントはちゃんとしたものを渡すの!」
「ちゃんとしたものなら婚姻届かな?」
「恋奈は黙って」
「はーい」
◇◆◇
放課後。
私は慧とお互いのプレゼントを買いに駅にやってきた。
お金がなかったので一度家に帰ってから来た。
「慧、プレゼント買い終わったら家に帰っててね」
「分かった」
慧とは別行動で買い物だ。
一緒に買うと、サプライズがなくなってしまうからだ。
(何にしようかな……)
私は店を回って何を買うか考える。
今日は色々なものがあって目移りする。
「お客様、プレゼントをお探しでしたらこちらはいかがですか?」
そしてよく店員さんにおすすめされる。
「あ、綺麗……」
そんな中で、私は赤いマフラーが気になった。
(慧に似合うかな……?)
「そちらは、男女共に身に付けられるプレゼント向きの商品です。あと、ちゃんと温かいです」
悩んでいると、店員さんが教えてくれた。
「じゃあ、これください」
「ありがとうございます」
私は赤いマフラーを買って帰った。
◇◆◇
「え、誰?」
家に帰ると、謎の人物がいた。
その人物は、真っ赤な布に、白いファーがついた服と帽子という格好だった。
いわゆるサンタである。
「美咲、おかえり」
「……ただいま。え、慧なの?」
「うん」
声でやっと分かった。
付け髭までして分かりづらかった。
いや、薄々気づいてはいたが。
「どうしたの、その恰好?」
「買った。美咲にもこれ」
「え?」
慧は真っ白い袋から何かを取り出して私に渡した。
さながらプレゼントだ。
私もサンタの服を着るのだろうか。
付け髭はどうかと思うのだが、服自体はかわいいし、良いと思う。
だが慧に手渡されたのはベージュの布の服と、立派な角がある帽子だった。
「私はトナカイなの!?」
それはトナカイのコスチュームだった。
「嫌?」
「そんなことはないけど……」
別にトナカイが嫌ということはない。
目の飾りがくりくりしていて可愛いし。
「他にもある」
そう言うと慧は、袋から別の服を取り出した。
「これは……上だけ?」
それはサンタコスチュームの上着と帽子だけだった。
なぜそれだけなのか。
「ううん。それで全部」
「え? ……あ」
だがよく見たら丈が短すぎるワンピースだった。
こんなの着たら絶対見える。
「こんなの着られないよ!」
「あとこれも」
慧は続けてもう一着取り出した。
いくつ入っているんだ。
「これは……」
それはメイド服と猫耳カチューシャだった。
クリスマスですらない。
「なんで?」
ただただ疑問だった。
「永野にもらった」
犯人は永野君か。
「どれがいい?」
悩むまでもない。
「トナカイかな」
まともなのがそれしかないからだ。
「着てみて」
「じゃあ慧はリビングで待ってて」
「うん」
サンタさんにはお帰り頂いて、私もトナカイになった。
「おかえり、美咲」
「あ、ただいま」
リビングに行くと、お母さんが迎えてくれた。
だがお母さんは、少し寂しそうに見えた。
「やっぱり私もコスプレしたいわね」
「え?」
そう言うとお母さんは、少しどこかにいなくなり、ツリーのような服装になって戻ってきた。なんであるんだ。
「どう? 似合う?」
お母さんはそう言うと、両手を少し広げてその場でくるりと回った。
そのポーズの時に一番ツリーに見える構造らしい。
「すごくツリー」
「ありがとう」
だが似合うかと言うと、よく分からなかった。
「それじゃあご飯にしましょう」
「この格好で?」
「大丈夫よ。チキンははねないから」
「そうじゃなくて、まあ、うん」
3人で食卓を囲む。
トナカイ、サンタ、そしてツリー。なんだこれは。
慧は気づけば付け髭を取っていた。
付け髭を取ったらただの慧だった。
「ごちそうさま」
「ごちそうさま」
「お粗末さま」
ケーキも食べてお腹は満足だ。
「じゃあ慧、これ私からのプレゼント」
「ありがとう」
私は慧にマフラーを渡した。
「……長い」
慧はさっそく巻いてみたが、巻き方が分かっていないようだ。
「慧、例えば2つに折ってから巻くとかすると良いよ」
私がそう言うと、慧は余った部分を私に巻いた。
「これの方が良い」
「あ、温かい」
マフラーを巻いたら、なんだか温かくなった。
マフラー1つでここまで温まるものだっただろうか。
「いいわねぇ。私もいれて?」
「……もう余ってないです」
(頑張れば3人巻けるような……)
慧はお母さんを入れる気は無いようだった。
私はお母さんから少し目をそらし、ただ黙っていた。
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