宿題
ゲームセンターから帰ってきた私達は、私の家で宿題をしていた。
「美咲、そこ違う」
「え? あ、本当だ」
慧は私の答えがあっているか時々見てくれて、私は慧が宿題をサボらないように見ているのだ。
慧は授業を真面目に聞いていないくせに、ちゃんと聞いてノートも取っている私よりテストの成績がいい。絶対におかしい。
「ねぇ、慧はなんで授業をちゃんと聞いてないの?」
私は前から気になっていたことを聞いてみた。
「授業ってちゃんと聞かないといけないの?」
「そりゃそうでしょ?」
「でも、内容は教科書に書いてあるよ?」
「確かに……」
なんだか私も授業を聞く理由が分からなくなってきた。
「宿題も、試験も、全部教科書見れば分かることだし」
言われてみれば、学校は何のためにあるのだろうか。
そんな事を考え始めたが、そもそも私は教科書だけで試験をクリアできないのだから、授業を受ける理由はそれだけで十分だ。
「きっと何かあるんだよ」
「そう?」
「多分」
教科書だけでは分からない人の為と言ってしまうと、慧がもう学校に来なくなってしまいそうな気がしたので曖昧に返した。
「美咲、慧君。勉強は進んでる?」
そこにお母さんがやってきた。
「お母さん、ちゃんとやってるよ」
「慧君は?」
「大丈夫です」
私達が帰ってきたときもそうだったが、お母さんは朝のことには一切触れずにいつもどおりに接してくれている。
気を使ってくれているのだろう。
「それは良かった。飲み物持ってきたから飲んでね」
お母さんが持ってきてくれたのはオレンジジュースだ。
私も慧も好きだし、そこまでは良い。
「なんで1つ?」
お母さんが持ってきたのは大きめのコップが1つに、ストローが2本入った恋人仕様だった。
「え? 2つもいらないでしょ?」
いるよ。なんでそう思ったのか。
「ありがとうございます」
慧は気にしないで飲み始めた。
私がおかしいのだろうか。
いや、そんなはずは無い。
「何考えてるの!?、お母さん」
「え? 私とお父さんはこれで飲んでたけど?」
「だから何!?」
「もしかしてソフトクリームの方が良かったかしら?」
「ソフトクリームで何をしようというの!?」
今日はお母さんの考えていることが全く分からない。娘なのに。
「美咲、飲まないの?」
「えっと……」
なぜ気にならない。
「じゃあゆっくりしてってね」
「はい」
「あ……」
そんなことをしているうちに、お母さんはいなくなってしまった。
仕方ないのでこれで飲もう。
よく考えれば別のストローだから間接キスにもなっていない。
気にすることはないはずだ。
一応、慧が飲んでいない間を狙った。
(あれ?)
オレンジジュースを飲んだはずだが、味が分からなかった。
私はもう1度飲んだ。
だがそのとき。
(!?)
慧と口を付けるタイミングがかぶった。
危うく頭がぶつかりそうになる至近距離。
「ごほっごほっ」
私は驚いてむせた。
「美咲、大丈夫?」
「……うん、平気」
また味が分からなかった。
私はもう1度飲んだ。
今度は慧は来なかった。
(むぅ……)
ちゃんとオレンジジュースだった。
そんなとき、慧は立ち上がった。
「慧?」
そしてナチュラルに私のベッドで寝始めた。
「何寝ようとしてるの? 宿題は?」
「終わった」
慧の宿題プリントを見れば、たしかに終わっていた。
「それなら、まあ……いや、やっぱりダメ。起きて」
宿題が終わっていても、私のベッドで寝て良い理由にはならない。
「すぅ」
しかし、慧にはもう声が届かなかった。
(仕方ないなあ)
私は自分の宿題が終わるまでは放置することにした。
「終わったー!」
慧が終わってから少し経って、私も宿題を終わらせた。
慧は完全に眠っているようだ。
慧はうつ伏せに寝ていて、表情は見えない。
「慧、起きてよ」
私は慧を揺すったが、これくらいで起きないことは分かっている。
「えいやっ」
私は慧をひっくり返した。
慧はベッドの端に追いやられ、表情が見えるようになった。
(ちょっと休むだけ)
私は慧の隣に寝転がった。
「すぅ」
慧の吐息が聞こえる。
私は慧の胸元に手を置いた。
規則的に、手が押し返される。
手から心音が響いてくる。
「慧……」
すぐ近くに、慧がいる。
「美咲~。ソフトクリーム買ってきたわよ」
「ひゃあ!」
タイミング悪くお母さんが登場。
台無しである。
「あ、また邪魔しちゃったわね。あとで取りにいらっしゃい」
「だから違うのー!」
お母さんはすぐに出ていってしまった。
少ししか見えなかったが、お母さんの手にはソフトクリームが1つだけあった。 何をさせるつもりだったのか。
「うぅ」
私はまたしても恥ずかしくなった。
だが分かっている。今回は自分のせいだ。
私は不貞腐れて寝入った。
◇◆◇
「うーん、ふあ~」
よく寝た。
こんなに寝たのは久々だ。
部屋に光はなく、今が夜であることはすぐ分かった。
そして眼前には共に寝ていた幼馴染が……
「へ? ひゃあ!」
目の前で慧が私をじっと見つめていた。
そういえば寝落ちたのだ。
私は飛び起きた。
「美咲、おはよう」
「おはよう、慧。えっと、いつから起きてたの?」
「30分くらい前」
つまり私は、30分も無防備な姿を幼馴染に晒していたというわけだ。
「起きてたなら起こしてよ」
「なんで?」
寝顔見られるのが恥ずかしいからだよ。
でもよくよく考えたら、見られたくない本人に起こしてもらうのも恥ずかしい気がしてきた。
「やっぱりなんでもない」
「そう?」
私は何もなかったことにした。
「じゃあ戻ってきて。寒い」
「え?」
私が起き上がったことによって、布団がめくれていた。
確かに寒そうだ。だが……
「帰って寝なよ」
私のベッドで寝る必要はない。
「ここがいい」
たぶんわざわざ冷たいベッドに動くのが面倒なだけだ。
分かっているが、紛らわしい。
「じゃあ泊まってく?」
「うん」
私は慧を追い出さないことにした。
「慧、私落ちそうだからもっとそっち寄って」
「うん」
私もまた寝ることにした。
慧との間はさっきよりも詰めた。
私のベッドは、いつもより温かかった。
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