ゲームセンター

 放課後。

 授業が終わり部活動に行く者、バイトに行く者でそれぞれの時間だ。


「慧、帰ろう」

「うん」


 私と慧はどちらもしていない。


「神井、ゲーセン行かないか? 新しいのが出るらしいんだよ」


 私達が帰ろうとすると、昇降口で慧が声をかけられた。

 知らない男子だった。


「今日は駄目。帰るから」

「何か用事?」

「宿題する」

「真面目かよ!」


 今日は数学で宿題が出ているのだ。

 だがすぐに帰らなければいけない程の量じゃない。


「良いんじゃない?」

「良いの?」


 私は慧と一緒に宿題をしている。

 私の宿題が遅れることを心配しているのだろうか。余計なお世話だ。


「ほら、彼女もそう言っているんだし」

「誰が彼女かっ!」


 恋奈のテンションでつい突っ込んでしまった。初対面なのに。


「え、違うの?」


 やめて、その意外そうな顔をするのは。


「違うよ。私は幼馴染なの」

「幼馴染って彼女じゃない理由になんの?」


 ならないけど察しろよ。


「美咲も行く?」

「行こうかな」

「じゃあ行く」


 都合よく慧が私に話を振ってくれたので、男子の質問には答えないことにした。


「あれ、俺の話はスルー?」


 スルーである。


「ゲーセンってどこ?」

「……まあいいか。ゲーセンは駅だよ」


 慧も触れなかったのでどうでも良くなったようだ。

 私達は駅へ向かった。


「そういえば、2人はいつ知り合ったの? えーっと……」


 慧は私といつも一緒だ。

 新しく友達ができるとは意外だった。


「ああ、俺の名前は永野幸太だ。よろしく」

「あ、地原美咲です。よろしくおねがいします」


 まだ自己紹介をしていなかった。


「知り合ったのは体育だよ。神井のやつ、ペア作れってなっても一向に動かなくてさ、俺が声かけたんだよ」


 私達の学校では、体育は2クラス合同で行われる。

 確かあのときのペアは男女別だったはずだ。


「そういえば、永野君みたいな子とペアを組んでたような」

「よく見てるな」

「う、うるさいっ」

「美咲はいつも僕を見てる」

「慧、何言ってるの!?」


 そんな話をしているうちに、駅のゲームセンターに着いた。


「あ、お金ない」

「そういえば私も」


 しかし、問題が発生。

 遊ぶお金が無い。


「はあ!? 先に言えよ。せっかく来たのに」

「ごめん」

「ごめんなさい」


 これはもう謝るしかない。


「仕方ないなあ。今日は諦め……あ、そうだ。2人はバイトしてる?」

「してない」

「してないけど?」


 諦めかけたが、永野君はなにか思いついたようだ。


「実は俺のバイト先で人手が足りなくてさ、1日だけ手伝ってくれよ。今日は建て替えるから、その給料が出たら返してくれればいい。どうだ?」


 お金がないならバイトしようという訳だ、そりゃそうか。


「それってどんなバイト?」


「ただのファミレスだよ。地原さんは多分接客で、神井は皿洗いになるかな」

「ファミレスかあ」


 バイトには少し興味があったのだ。

 1日だけならたとえ合わなくても大丈夫だろう。


「やってみようかな」

「神井は?」

「……やる」


 慧は結構嫌そうだ。


「よし、決まりだな。じゃあ遊ぼう」


 私達は楽しそうな台を探し始めた。


「これなんか良いんじゃないか?」


 永野君が見つけたのは格闘ゲームだった。


「新しいのはこれの新型なんだよ。まずはこっちで練習したらもっと楽しめる。神井、やろうぜ」

「うん」

「がんばれ~」


 永野君と慧が対戦することになった。

 慧はゲーム全般をそんなにやらない。


「手加減はしないぞ?」

「うん」


 対戦が始まった。

 慧のキャラクターは適当な動きをしていて、バトルになっていなかった。


「おいおい、やる気ないのか?」

「もう1回」

「おう」


 2回目。

 慧はそこそこ戦っているようだった。

 だがまだ歯が立たない。


「もう1回」


 慧の口調が少し強くなった。

 珍しく燃えているようだ。


 3回目。


「マジかよ……」


 なんと慧は勝利した。ギリギリだったが。


「もう大丈夫。もう1回」


 4回目。


「なんじゃそりゃー!?」


 慧は圧勝した。


「満足」

「俺、このゲーム結構やってたんだけど……」


 永野君が少し可哀想になった。


「いや、こんなのは準備体操だ。本当の勝負は新型でだ!」

「うん」


 今度は永野君が燃えてきたようだ。

 そして新型機での勝負。


「負けたぜ、完敗だ」


 慧が勝った。

 永野君は最早清々しい笑顔となっていた。


「よし、勝った神井にはとっておきを教えてやろう」

「何?」

「耳貸しな」


 永野君は慧に何かを話した。


「何だったの?」

「教えちゃ駄目だぞ、神井。俺に勝った証なんだからな」

「えー」


 私には教えてくれないらしい。


「じゃあ、プリクラ撮ろうぜ!」


 男子がプリクラを提案するとは珍しい。私はそろそろ暇だったので良いけど。


「カメラに注目なー」


 私がカメラに注目していると、慧が突然私に腕を回した。


「うひゃー」


 そのタイミングで写真は取られた。

 私は変な顔になっていた。

 永野君はしゃがんでカメラから消えていた。


「え、何?」


 私は少し混乱した。

 だが少しだ。

 永野君が笑いをこらえているのが見え、この男の差金であることが分かった。


「永野君」

「ごめん、ちょっと待って」


 永野君は話ができなさそうだったのでおとなしく待った。


「美咲、どうだった?」

「どうって?」

「嬉しい?」

「……」


 聞かれれば、まあ嬉しい気はしなくもなかったが、ここでは言いたくなかった。


「ふう」


 そうしていると、永野君が問い詰められる状態になった。


「永野君、慧に何を吹き込んだの?」

「『後ろから抱きついたら女子は喜ぶぞ』って言ったんだよ」


 何を言ってくれてんだ、この男は。


「慧に変なこと言わないで」

「でも嬉しかったでしょ?」

「……」


 だから言いたくないんだって。


「じゃあ美咲がやって」


 プリクラは2枚撮ることができる。

 今度は私が慧に抱きつかせようとしているのだ。


「む、無理」


 こんな恥ずかしいことが人前でできるはずがない。

 永野君はそんな私をにやけながら見ている。

 この男の思い通りにはさせるものか。


「永野君は出てって」

「えー」

「出てって!」

「ちぇー」


 私は永野君を追い出した。


「じゃあ撮るよ」

「うん」


 私は慧に抱きつこうとするが、寸前で手が止まった。

 今までずっと一緒にいた幼馴染だ。

 一緒にいなかったことのほうが少ない。

 今更ときめくことなんてあるはずがない。

 私は抱きつくことができずに、プリクラは撮り終わった。


「美咲?」


 慧は振り返って私の様子をうかがい、そして……


「け、慧?」


 1歩下がって背中を私に密着させた。


「早く」

「……うん」


 私の手は、自然と慧に回された。


「ほっほー、恋人らしくていいね~」


 気がつけば、永野君がこっそり覗いていた。

 私は急速に恥ずかしくなった。


「見るなあああ!」


 私の叫びが、より多くの衆目を集めたことに、私は気付かなかった。

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