3-6 そして再び水着になった!

第83話

 さて、プールである。


「――まだ、みたいだな……」


 更衣室を出て洗浄通路を抜けると、そこには広大な室内プールがあった。


 天井は透明の素材で覆われており、日光の眩しさを十分に満喫できる。自由に開放されている温水プールとリゾート風のプール、そして屋外には流れるプールとウォータースライダーがあった。


 見渡す限りでは、女性陣の到着はまだみたいだ。俺は適当なベンチに腰掛けながら、その到着を待った。


「才賀、おまたせ」


 振り返ると、志吹がこちらに向かってきていた。

 前回と同じ、コバルトブルーのホルターネックビキニが、白い肌に映えている。スレンダーな体型と、綺麗なお腹にどきっとする。


「他のみんなは?」


 俺が言うと、志吹は俺の横に腰掛けた。


「私は着て来てしまったから、早かったのよ。脱ぐだけで、終わり」


 そういって下を向き、その綺麗な足をぶらぶらさせている。


 初めて海に行った時は、その体を見せるのが恥ずかしいとかで、綺咲達と随分すったもんだしていたようだが、二度目となると気持ちの切り替えも早いようだ。Tシャツを上から着ていない分、より裸に近いと言うのに。そう意識すると、余計にドキッとする。


 それにしても、志吹は全く日焼けしていない。相変わらず肌はきめ細かくて白い。何か対策でもしているのだろうか。


「なんか、こうしていると不思議ね」


 膝に手を置きながら、ポリカーボネイトの天井を見上げて、降り注ぐ日差しに眩しそうに目を細める志吹。


「ちょっと前までは、貴方と話したことすらなかったのに……。こうして、一緒に遊んで、プールにきて……。お互いの肌を見せ合うような関係になるとは、思いもしなかったわ」


 お互いの肌を見せ合う、という表現は良くない気もする。が、言いたいことはわかる。それは俺も同じ気持ちだからだった。


「そう、だね」

「でも、それが楽しい」


 志吹の手が、俺の腿に優しく置かれる。


「こういう気持ちは、知らなかった。貴方が教えてくれたのよ」


 そういって、透明な瞳が俺を見つめた。


 志吹の表現は時折まっすぐで、詩的だ。でも、それが素直な感情だと言うのも、今の俺ならわかる。


「これからも、よろしくね、才賀」

「――こちらこそだよ、志吹」


 俺がそう答えた瞬間、だった。


「――ん?」


 何か視線を感じ、出入り口の方を振り向く。確かに誰かの視線を感じたのだと思い、しばらく視界を泳がせて見れば、レンガ・ブロックから覗き込むように、二つの頭がこんにちはしている。


「――何やってんだ? あいつら」


 覗き込んでいるのは、眉間に皺を寄せた衣央璃と琴音だった。どうやら俺と志吹とのやり取りを見ていたらしい。


「……何、やってんの?」


 その二人を呆れ顔で見た綺咲が、二人を横目に俺達の元へ近づいて来た。


「おまたせ☆ さーいがっ」


 綺咲はそう言って、俺の前で綺咲スマイルとポージングした。


 ビビッドピンクのチューブトップに、同じ柄のショートパンツ。センスが良い綺咲だからこそ着こなせる可愛い水着だった。良く似合ってる。お腹にうっすら縦筋が入っていて、綺麗だった。もしかしたら綺咲はスタイル維持の為に何か鍛えたりしているのだろうか?


「ふふ」


 そんな事を考えていたら、綺咲に顔を覗き込まれた。


「キミぃ、見惚みとれておりますなぁ?」


 と嬉しそうな瞳に、俺が映り込んでいる。まつ毛長いなぁ……


「い、いや」

「はいウソー。ちなみにそこは、『うん』って言っておいた方が色んな意味で得でしたぁー」


 と人差し指を立てて左右に振っている。テンション高いなぁ。


「う、うん」

「遅いし!」


 俺は呆れた風を装って頭を掻いておいた。女の子に直接可愛いとか、水着で萌えたとか、そんなこと言える訳ないだろ! そんな事を言い慣れているのはきっとヤリ◯ンだけだろう。俺には無縁の話だな。


「じー……」


 隣では志吹がジト目でこちらを見ていた。相変わらずわかりやすい不満顔だが、一体何に不満があるのかわからないから困る。


「早くおいでよー、ふたりとも!」


 綺咲が二人に手を振ると、衣央璃と妹は顔を見合わせてから、こちらに向かってきた。


 衣央璃は前と同じ白いワンピースタイプの水着だった。可愛らしい優しい感じが、衣央璃によく似合ってる。


「衣央璃、あんた本当にスタイルいいよねー」


 その衣央璃に向かって綺咲が言う。視線と指先はその胸に向いていた。


「えぇ……綺咲ちゃんに言われても嬉しくない……」

「ええ? なんでー?」


 やっぱり女同士はスタイルの良さを気にするものなのだろうか。俺は比較的細い方だが、気にしたことはない。身近に鏡介のような完璧ボディを目指す人がいると、逆に張り合う気もなくなるというものだ。そもそも俺、人前で脱がないし。今、脱いでるけど……


「あ、兄貴……」


 妹の呼ぶ声に振り向けば、妹がもじもじしながら側に立っていた。


「どうした?」

「ちょっと、付き合って欲しいんだけど……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る