第80話
朝食はリビングで食べることになった。みんな、パジャマ姿のままで食べる感じが合宿みたいだ。
本日の朝食はスクランブルエッグ、ポテトサラダ、パン、そしてヨーグルトにフルーツを添えたものだった。メインは綺咲が、デザートを彩ってくれたのは衣央璃とのことだ。
「本当、綺咲ちゃんは料理お上手だねぇ」
衣央璃が紅茶を入れながら言う。
「いやぁ、褒めるようなもんは作ってないっしょー?」
「ううん、手際が段違いだもの」
「ま、慣れてっからねー?」
二人には自然な空気が流れている。昨晩の女子会中の妙な牽制雰囲気みたいなものはなくなっていた。おかげで俺もくつろぐことが出来る。一方、俺の対面に座る志吹は、ようやく眠気を打破できたようだが、今度はあまり役立つことがないことを悟ったらしく、衣央璃に出された紅茶を「ありがとう」と受け取って満喫していた。
「それにしても、志吹の寝起きが悪いとはねぇ」
綺咲はエプロンを脱ぎ捨て、椅子にかけた。そこに衣央璃が紅茶を出しながら、「本当、意外だった」と付け加えた。
「だってさー、クラスでの志吹は、誰よりも早く授業の準備してるしねぇ? 遅刻とかないし、しっかり者なのかと思ってたわ」
綺咲はそう言いながら、志吹の頭に手ぐしを通している。志吹は恥ずかしそうに俯いた。
「それは……学校では勉強以外、やることなかったから……」
志吹が友達を話している姿を見ないのは、クラスなら、いや、学校中の誰もが周知の事実だった。ある意味で孤高、それでいて神秘的な容姿が相まってこその「氷の女」なのだ。
「まぁ、これから沢山友達作ればいいっしょ」
そう言って綺咲はいつもの綺咲スマイルとウィンクをした。それに志吹の顔も解けていく。
「それに、私達もいるしね?」
俺の横に座った衣央璃が言った。
俺も、本当にそう思う。志吹はたしかに少し不器用だけど、心根のいい女の子だと思う。彼女の真っ直ぐさが、いつか誰かに届くといいなと思う。それにはまだまだ時間は必要かも知れないけれど。それでも僕らの夏は始まったばかりなのだ。
「はい、才賀。コーヒー」
「ありがとう」
衣央璃は俺にドリップコーヒーを差し出す。周りを見ればみんなは紅茶だが、コーヒー好きな俺に気を使ってくれたのだろう。せっかくなのでコーヒーを頂くと、それを見ていた綺咲がなんだかニヤニヤしている。何かおかしな所があっただろうか?
「んじゃ、食べよっか」
「「「いただきまーす」」」
朝食はシンプルだが、とても美味しかった。スクランブルエッグには甘みが加えられており、胡椒の効いたポテトサラダと相性が最高だった。他にもライチとかマンゴーとか少し珍しいフルーツが添えられたヨーグルトも良い。こういう朝食とコーヒーの相性は、美少女に水着くらい相性がいいと思う。何いってんだ俺は。
「それでさー、あたし考えたんだけどねー」
綺咲が切り出す。
「うちらの親睦を深めるためにも、やっぱりまだまだ夏イベントはあった方が良いと思うんだよねー」
「ああ、たしかに! もっと楽しみたいかも!」
その提案に衣央璃も乗り気だ。志吹もパンを加えながらうんうんと頷いている。
「そんな訳で、プールなんてどうでしょう!」
「プール!!!」
志吹と衣央璃がハモる。二人は目を輝かせている。
「せっかく買った水着がもったいないしぃ? せっかくあたしら若いんだから、エンジョイしないと!」
プールか。確かにそれは楽しそうだ。女同士の親睦を深める意味にも、とても良いだろう。そうしたら、俺はやっとゆっくり眠りにつける。連日ゲームも出来てないし。
「いいんじゃないか? 楽しいだろうし、行ってくるといいよ」
「……何いってんの? あんたも行くんだよ」
「え?」
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