第68話
綺咲が料理を始めた所で、俺は妹の部屋を訪ねた。
「おーい、
ノックしても、応答はない。
「はいるぞー」
兄妹なので遠慮はいらない。――というのは実は嘘で、兄妹だからこそ気を使わなくてはならないことというものが結構あったりする。特に思春期だったり、理由不明の激おこぷんぷん丸だったりする場合には、だ。
しかし俺は無視する。埒が明かないことがわかっているからだった。
「おーい」
案の定、妹はヘッドフォンを被って携帯ゲーム機に向かってはしゃいでいた。
「またかよ……」
妹のハマっているゲームは、バトルロワイヤル型の対戦シューティングアクション。なんと全員がキレイ系イケメンで、キザでスタイリッシュに殺し合うというトンデモ設定なのだが、主に女性層に流行りまくっているのだ。イケメンは正義らしい。ただしイケメンに限る訳だ。
『おーい』
俺は声を出さずに、妹の視界に入るように手を振る。気がついた妹が心底迷惑そうな顔をする。俺はスマホに文字を入力し、それを妹に見せつけた。
『それ終わったらリビングに来てくれ、話がある』
妹はそれを読み終わると、顔に思いっきり『ファック』と書いてある表情で睨み返してきた。俺はそれを無視して部屋を出る。
鼻歌を口付さみながら食材をチェックしている綺咲を見ていたら、妹がやっと降りてきた。
「なに? 兄貴」
もちろん態度は最悪だ。
「わりいな。用件は二つ」
「あい」
「一つは今日、衣央璃が泊まりに来ることになった」
「――衣央ちゃんが!?」
驚きと共に妹の顔がぱぁっと明るくなる。よほど嬉しいらしい。
「そんで、晩ごはんは綺咲が作ってくれることになったんだけどさ」
俺がそういうと綺咲がくるっと振り返り、綺咲スマイルを妹に向けた。
「琴音ちゃん、嫌いなものとかある? 逆に食べたいものとか!」
「え! き……高橋さん、料理出来るんですか?!」
「もー、綺咲でいいよぉ。そ、女子会しようね!」
と妹の手を取っている。なぜかタジタジになる妹がよくわからんが。
俺は妹と綺咲が話している間に、母にSNSで連絡をとり、晩ごはんを作ってくれることを伝えておいた。
そうして妹が自室に戻り、綺咲が料理を開始した一七時ごろ。衣央璃がやってきた。
「お邪魔します」
衣央璃は軽くシャワーでも浴びてきたのだろうか、さっきよりもさっぱりした感じと格好をしている。エスニック柄のロングスカートが涼しげだった。
「おう」
「衣央ちゃーん!」
玄関口で出迎えると、そこに妹がダッシュしてきて衣央璃に飛びついた。
「良く来てくれました!」
と妹が力強く手を握ると、衣央璃もなぜか力強くその手を握り返し、
「うん! 任せて!」
とアツい視線を交わしている。この一体感がよくわからない。
衣央璃は手を洗うと、妹と少しゴニョゴニョ喋ったあと、リビングに現れた。
「ああー、なんかいい香り」
「衣央璃ちゃん、いらっしゃーい」
犬のようにくんくんする衣央璃を、エプロンを付けたポニーテールの綺咲がオタマをふりふりして出迎えた。
「え、綺咲ちゃんが作ってるの!?」
と衣央璃。やはり綺咲が料理をするというのは誰が見ても意外に見えるようだ。見た感じはイケイケだしなぁ。
「そ。今日は大人数になると思って。ちなみに本日は無難にカレーです」
そう言って再び鍋に向かう綺咲。それをみた衣央璃は俺の横で小さく呻いている。
「うう……負けてらな……」
「は? なんか言った?」
「――なんでもない!」
衣央璃はそういうと、なぜか頬を膨らませて俺を睨みつけ、踵を返すように綺咲の方に向かっていった。
「綺咲ちゃん! 何か手伝うよ! ……と言ってもあんまりレパートリーないんだけど……」
「ありがとー☆ と言ってもあとは煮込むだけだし……あ、そうだ、サイドメニュー作ろうよ! サラダとか!」
そう言って二人はわいわいと冷蔵庫の中をとりだし、晩ごはんの支度を始めた。
「俺も何か手伝うか?」
「才賀は休んでて」
「才賀はそのままでいいの!」
と即答で戦力外通行苦を受けてしまった俺は、渋々自室に向かった。そして何気なくスマホを開いたら、出会い系アプリの通知アイコンが光った。
差出人は水谷志吹だった。
『今晩、パソコンの設定を手伝ってくれませんか』
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