2-5 年頃の男が家に女の子を招くということはつまり
第46話
「とにかく入って」
招き入れると、戸惑いを見せながら、しかし優雅に玄関をくぐり抜けていく。中に入ると広がる我が家の廊下と階段を、感慨深そうに見つめている。
「さ、どうぞ」
「お、おじゃまします!」
と、玄関上の俺に向かって一礼をして、丁寧に靴を脱ぎ揃えてあがる。
――その一連の動作に、品がある。
彼女の身につけている物がいつもより格が高いからだろうか?
――いや、そうじゃない。
彼女が氷の女という名のゆえんは、何もそのエピソードに限った話じゃない。
整った顔、整った表情、そして完璧な姿勢。
そういう「人としての甘さ」のようなものが見えないのだ。そういうオーラを彼女は放っていた。それが、良家の品格というものなのだろう。
「わっ」
そんな彼女が玄関に上がろうとした時、バランスを崩した。俺は咄嗟に手をとり、それを支える。
「大丈夫? ここ、すべりやすいから」
「え、ええ。ありがとう」
しかし実際は、かなり気が小さいし、おっちょこちょいだ。緊張して震えていたり、どもってしまったりする。
本当は、普通の女の子なのだ。
「綺麗な家ね」
「そう? 普通の家だよ」
我が家はその昔購入した中古物件を最近になってリフォームしたものだった。最近の父の事業成功で資金に余裕が出たためで、その完成からまだ一年が経っていない。壁や床だけはピカピカだけれど、中身は相当な築年数だったりする。
「うちはなんていうか、和風だから、新鮮で」
「和風?」
「古いのよ、お屋敷が」
そういう志吹を二階に招き入れる。志吹は足元を慎重に確認するように、静かについてくる。
階段を上り、自室に招きいれる。
「汚い所だけど」
「お邪魔します」
部屋に入ってぐるりと見回す志吹に、俺は部屋の外から声をかけた。
「お茶持ってくるから、適当にくつろいでいて」
そうして扉を閉め、背後の気配に振り返ると、妹が部屋から顔を出し、驚愕の表情で震えていた。
「な、な、な」
言葉にならないと言った様子だが、しかしこちらに手招きしている。俺はしぶしぶそちらに向かう。
「なんだよ――っちょわっ」
胸ぐらを捕まれ、妹の部屋に連れ込まれる。そのまま扉を締められ、俺は逆壁ドンの体制になった。
「なに!? 今の何!?」
「何って、友達だよ」
「ちょー美人! お人形さんみたい! お嬢様!?」
と怒りなのか好奇心なのかわからない表情で興奮している。
「どうやら、そうらしいんだけど」
「なになに、その、らしいって!?」
「いや、クラスメートなんだけど、知らなかったんだよね、お嬢様だったなんて」
「うはー! お嬢様とか初めて見た!」
二階にある妹の部屋の窓からは、玄関が見下ろせる。こいつはきっと志吹登場の一部始終を見ていたのだろう。
「ま、そういう訳で、邪魔すんなよ」
俺はそう言って扉を開けようとする。すると妹が素早くノブを抑えて来る。
「だからなんだよ――」
「いいか兄貴。邪魔しないから、これだけは誓え」
妹は凄い剣幕で俺の顔面近くまで人差し指をむけた。
「変なことはすんなよ。ぜーたい!」
そう言われ、返事をする間もなく蹴り出された。そして何かを言い返す前に、部屋の扉が閉められた。
「ったく、なんだってんだよ……」
妹の行動がよくわからない。
しかし俺は気にするのをやめ、一階にお茶を汲みに行った。
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