第43話
「――え?」
それは普段の俺なら絶対に口にしないような言葉だったと思う。だけれどそれは、気がついた時には口から放たれていたんだ。
「――いいの?」
ここまできたら、後には引けない。
「そこなら、面倒なことにはならないだろうから」
俺は急に気恥ずかしくなった。家に誘うということが世間のカップルにとってどういうことか、後になって意識してしまった。
とはいえ、今更ながら浮足立つと、かえって下心がありありのように見えてしまうかも知れない。
そう思って、俺は平然と、それらしい事を言ったんだ。
「そうね。――それじゃあ、お邪魔します」
彼女は嬉しそうに言った。
「おっけ。ついでに、僕が普段やってるゲームとか、見せるよ」
「本当?」
「うん。色々な種類の銃が出てくるし、撃つとスッキリするよ」
「それは楽しみだわ」
電話を終えて、再びエアコンの効いたリビングのソファにダイブする。妹はすれ違うようにして風呂場へ消えていった。やましいことがある訳じゃないが、その姿を確認してから、俺は再びメッセージ画面を開いた。
『駅まで迎えにいく』と言ったら、『それも目立つから』ということで住所を教えた。彼女が個人情報を悪用するとは思えなかったし、たしかに駅で誰かに会ったりしたら、
「……とはいえ、うーん」
しかし、家に招待するのに、待ち続けるというのも気が引ける。
なにより、
「歩く、のか?」
地元の高校を受験した俺は、徒歩で通学している。学校までは陰キャの
「体力無さそうだし」
彼女の体育の成績は知らないし、特段運動オンチということはないだろうが、それにしても機敏で活発で頑丈という印象は全くない。氷の女という呼び名は、むしろ真逆のイメージだ。
「まぁ、考えても仕方ないか」
彼女が自力で来ると言っているのだ。あまり過干渉しても、気持ち悪がられるかも知れない。ここは素直に任せた方が良いと思った。嫌われたくはないし。
そんなことを考えていた時だった。チャイムが鳴った。
「誰用だよ」
日中に両親がいるわけはなく、俺に客が来るわけもない。ついで、俺はネットで頼み物もしていなかったので、高確率で妹の客だった訳なのだが、今しがた風呂に行ったのをすぐに思いついた。元から鈍っている体に鞭をうって立ち上がる。
「はー、どっこいしょ。この暑い中ご苦労なこって」
そんな無意味なジジくさいセリフを吐きながらインターフォンに返答する。
「はい、どちら様?」
「あ、才賀?」
と即座に返答があった。
「――衣央璃か?」
するとインターフォンに映し出された玄関画像に、ひょいと覗き込んだ衣央璃が映し出された。
「すいか、持ってきたよ」
幼馴染は、顔の横にすいかを並べて笑った。
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