第27話

「それは甘えだと思うわ」

「そうっすかね」


 自宅。

 PCのトークチャットアプリから、DaSaitamaさんのダメ出しが聞こえてくる。


「いくら君の考えが変わったからと言ってもね、所詮はクラス、学校よ。それで、一体何人の女の子と知り合えるっていうんだよ。日本の人口の五割強は女性なんだよ? 範囲を狭めるのは、君の可能性に限界を作ってることにほかならない!」


 ことの発端は、俺のアプリの使用状況についてだった。他のゲーマー仲間が連日活発に使用しているにも関わらず、俺にはその兆候が全くない、という指摘がDaさんから入ったのだった。


 実際、俺はこのアプリを水谷さんとの連絡用にほぼ限定して使っていた。テスト期間もあってあの後はなんだかんだ会えていないが、連日、チャットで連絡を取り合っていた。もっぱらの話題は、次に見に行く映画の選定だ。


 そんなことで、俺の最近の変化(親の金の事は伝えず、だが少しずつ女子生徒と交流が増えていること)を伝えたところ、ご高説が入った、という訳だ。


「可能性を狭めるって、大げさな。彼女を作ることが目的じゃないですか」

「違う! アプリを使って彼女を作るんだよ! 前提が違う!」


 ちょうどゲームで俺に負けたのをきっかけに、Daさんの語気も強まる。


「じゃないと、データが取れないじゃないかー! それで実際に彼女ができましたってエビデンスが必要なんだよぉ!」


 と、うめいている。

 ――なんか、社会人って大変なんだなって思った。


「という訳で、君はもっとアプリを使うこと! 他の人から連絡が来たら、よほどのブスじゃない限りは会ってみること!」

「よほどのブスって……」


 ひどい言い方だと思うが、そこはさすがに俺に選択権を残してくれているらしい。

 結局、俺らの中から彼女をゲットできたメンバーがいない事も、Daさんが焦る要因となっているらしい。


 ――高校生なんだからちょっと知り合えば速攻だろ!


 と考えていたらしいのだが……。それは俺たち陰キャ族には通用しない理屈だ。

 Daさんは一体どんな学生生活はを送っていたのだろうと思う。



◇ 



「Daさんも必死だなぁ」

 

 ゲームとチャットを終え、時計を見ると、いつものより遅い時間になっていた。

 ふと携帯を見ると、アプリにチャットの受付がある。

 水谷さんだ。


『ゲーム、とても楽しそう。だけど、夜ふかしは体に障ります。ほどほどに。

 おやすみなさい。 ――Ivuki』


 そのメッセージを見て、自然とニヤけてしまう俺。

 次の土曜日は、水谷さんと映画に行くことが決定した。それがとても楽しみだった。

 それもだけれど、こうして毎日連絡を取り合っているということが、今では俺の楽しみだった。


「水谷さんが水着、どうなんだろう」


 美人でスレンダーな水谷さんの水着姿を想像する。



 ――いい。とってもイイ。



「……彼女とも海に行けたら面白いのに」


 それを口にして、俺は一つ閃いた。


 交流用のSNSアプリを起動し、さっそく本日追加した真帆の連絡先を選択する。


『連れていきたい人がいるんだけど』



 深夜に送ったメッセージは、すぐに既読になった。

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