第24話

「ごめんなさい、私ったらすっかり……」


 カフェを出て、特に意味もなくビル内を物色し始めた俺たちだった。


「いや、びっくりしたよ。ゲーマーの僕より銃の種類に詳しいんだから」


 カフェでの彼女の講習は、基礎知識のある俺には十分楽しめるものだった。しかし問題はその熱量で、凄い情報量を淡々と話し続けるのだ。

 最初は楽しく聞いていた俺だったけれど、その内周囲の目線が気になるようになり、二人で逃げるようにしてカフェを出てきたという訳だった。


「楽しかったのよ」


 彼女は言い訳をするように、そして申し訳無さそうにしている。


「こんな話、他の誰ともしたことがないの」


 彼女にはあまり友達がいない。その上、銃の話題といえば、世間的にはオタク、つまりは俺のような人種の話題だ。仮に彼女が友達に恵まれていたとしても、女友達とそのトークで盛り上がることは叶わなかっただろう。それは、カフェでの周囲の目を見ていればわかる。


 だからこそ、嬉しかったのだろう。


 俺にはわかる。好きなゲームの話題とか、気があった仲間と深い話をするのは楽しい。そうやって気が合う連中が集まって、毎日ゲームをやっているんだから。Daさんも、その仲間の一人だ。


「僕はまた聞きたいけどね」


 俺は少し照れくささを隠しながら、そういった。


「……僕でよければ、だけれど」


 誰しもが友達付き合いがうまくできるわけじゃない。俺だって下手くそだし、それに甘えてきたところもある。


 彼女の場合は、もっと複雑だ。

 少しでも喜んでくれるなら、それもいいかな、って思ったんだ。


「ありがとう。……才賀君」


 その時、呼び方が変わっていた事に、俺は少し立ってから気がついたのだった。


「でも、話すのも一苦労だわ。カフェなんかじゃ、二の舞だろうし」

「そんなの、気にしなくていいんだよ。それこそ、教室なんかでもいいんだし」


 しかしその一言で、彼女の雰囲気が変わった。

 一気にテンションが下がったと言うか、寂しそうな表情をしている。


「教室は、ちょっと――、ね」


 そして気まずそうに目を反らす。


「あのね、これは前も言ったのだけれど、教室では、これまで通りでいて欲しいの。――ただのクラスメートとして」


 俺の頭に、初めてあった時の光景が思い出された。


 ――私は、氷の女なのよ――


 あの後、その言葉の意味を何度か考えたりした。それでも、全く思いつかなかった。彼女の真意はわからなかった。


 ただ言えるのは、それは拒絶だということ。


「……僕が教室で話しかけるのは、迷惑かな」


 その言葉に、彼女は瞳を閉じて、ゆっくりと首を振った。


「そうじゃないの」


 そう否定するものの、歯切れは悪い。


 俺はなんだか落ち着かなく、不安で、そして少し苛立ってしまった。


「クラスメートなら、普通に会話くらいするよね」

「それは……」


 苛立ちが一気に押し寄せてくる。


 が、俺はすんでのところでそれを押し殺し、ため息として吐き出した。


 そもそも俺から彼女に何か言えることはないし、立場でもない。彼女には彼女の考えがあって、彼女が嫌だと言っていることを俺が無理強いすることはできない。


 でも拒絶だったのなら、こうして、俺と会ってくれるのだろうか。


 ――今日の楽しそうな君は、嘘なのかな。


「それじゃあ、納得できないよ」


 なんだか悲しかった。

 俺は俯いた彼女に背を向け、歩きだした。

 渦巻く気持ちに、その場に居続けることができなかったんだ。



「――まって、まって」



 俺の腕の袖を掴んで、引っ張る彼女。

 いまさら、一体、何を言うというのだろうか。

 それを振りほどき、再び歩き出した、

 


 ――その時だった。

 


「貴方に迷惑をかけたくないだけなの!」



 彼女の悲痛な声が、俺の足を止めたんだ。

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