1-6 それは俺と彼女が出会うまでのお話
第21話
土曜日。
洗面台で髪型を整えていると、夜ふかし後の妹が起きてきた。
「んにゃ、兄貴ぃ、おはよう~」
髪の毛はボサボサ、よれよれのキャミソールからは膨らみかけのアレとアレが見えてしまっている。特に気にするでもなく、豪快にうがいをすると歯ブラシを突っ込んでいる。
「随分遅いな。またゲームか」
「おう、
そう言いながら、反対の手でパンツに手を突っ込んでお尻を掻いている。
「そーですか」
まぁそれは同意する。夜のゲームってなんであんなに集中できるんだろう。勉強もあれくらい捗ればいいのに。
「……てかさ」
歯磨きを終えた妹が口を拭いながら、俺の頭髪を見つめながら言った。
「出かけんの?」
「ああ、まぁな」
「ほーん……」
そう言いながら、今度は上から下に視線を動かしている。
「な、なんだよ」
そして最後にニヤリを笑って、言った。
「デートか」
「なっ!」
なぜわかったんだ!?
気合は空気を通して伝わってしまうものなのだろうか。
「まぁ、今更どう頑張ったって、変わんないって。衣央ちゃんはそんなこと気にしないだろうしね」
そう言って、何かわかりきった顔で俺の背中に平手打ちをしてくる妹。
「痛ぇよっ。てか、なんでそこで衣央璃が出てくるんだよ」
「え? だってデートって言ったら――」
そして俺の顔を見た妹は、信じられない物を見たような顔をして、コームを落とした。
「――まさか……別の女なの……?」
そのあまりにも大げさなリアクションに、逆にコチラがあっけに取られていると、
「おかーさーん! 大変! おにいちゃんがー!!!」
と叫びながらドタドタと駆けていった。
俺が女の子と出かけることがそんなに珍しいのだろうか?
……珍しかったわ。残念ながら。
◇
待ち合わせの駅は今日も人で溢れている。時計台の前には、めかし込んだ男女が並んでいる。今更ながらに気がついたことだが、どうやらここはデート待ち合わせスポットらしい。
映画に行く、ということだが、待ち合わせ場所が同じなのは、幸いにもこの駅にも比較的大きめの映画館があったからだ。どんな映画が見たかったのかは聞けていなかったが、恋に興味があると言っていたあたり、流行りの恋愛邦画でも選ぶのであろう。進んで見るジャンルではないけれど、この際なので、イケメンの立ち回りでも勉強しておこうと思う。
約束の時間まではあと十分。早めに到着していた俺は、その間、人間観察をしていた。
外出する機会が少ないと、こうして少し周囲を観察するだけでも、世の中はこうも恋に溢れているんだ、と思い知らされる。一年前の俺なら吐き気がしそうな光景なんだろうけれど、今ではその印象も大分違って見える。なにせ、今、俺はそのうちの一人な訳だから。
と同時に、この中に一体どれほどあのアプリを使ってる人がいるんだろう、なんて事も考えた。今目の前で甘い声を出しているカップルもそうだったりして。
そしてふと前を見ると、綺麗な女の人が歩いていた。
柔らかな素材のトップスに、スカートがふわりと揺れて……
「――水谷さん」
それが水谷志吹だと気づいたのとほぼ同時に、彼女もこちらを発見し、歩いてくる。
それはなんだか、映画のワンシーンのようだと思った。
「こんにちは。――Saiさん」
心臓が、強く鼓動したのを、俺の耳は聞き逃さなかった
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