1-4 変わっていくもの、変わらないもの、変えなくちゃいけないもの
第12話
翌日の教室。
例によって誰に歓迎されるわけでもなく、窓際の自席につく。入り口側の前の方の席には、
『私は、氷の女なのよ』
その背中から、昨日の去り際の言葉が発せられたように感じた。
「あー!
その視界の奥、肩を怒らせながら教室に入ってくる
「イテテ」
「おーう、痛いだろう。昨日の俺の痛みのお裾分けだ、ばかやろう」
腕を開放した鏡介は着席するのと同時に俺の頭に平手打ちした。
「俺様の怒りがわからん訳じゃあるまい。なぁ、才賀」
鏡介の怒りの理由には、思い当たる節があった。
「……ごめん」
「……ごめん、じゃねぇんだわ! ったく、連絡の一つや二つ、よこせってーの」
後で合流するから、そういう算段で俺と衣央璃を離してくれたのは鏡介だった。
だけれど水谷志吹と別れた後の俺は、そんな気分になれず、そのまま自宅に帰ってしまった。携帯は放置。何度か鏡介から連絡が入っていることには、気づいていた。
「はあぁ、もう。別に、ちゃんと合流しろとは言わねぇよ。せっかくのチャンスだったんだろうからな。だけどよ、連絡さえあれば、こっちは何とでも言いくるめられるんだぜ。おかげでお前が来ない言い訳考えるのに随分カロリー使った。さらには彼女にも怒られるし、踏んだり蹴ったりだぜ」
鏡介はそうまくしたてると、面倒くさそうな表情で盛大にため息をついた。
「大丈夫?」
「ああ、まぁ一応な。『なんで私を差し置いて別の女とカラオケ行ってるんだ』、って。最終的には乗り込まれた。危うく修羅場だぜ」
「彼女がいるのも大変だね」
「うっせーよ、どの口が」
そうしていつものヘッドロック。
「んで、どうだった」
鏡介がしたり顔でささやく。ヘッドロックはこれの布石だ。
「んー。なんかよくわからなくて」
「なんだそりゃ」
実際、俺にもよくわからなかった。出会い系で会ったのはクラスメート。だけれど、全くの別人のようだった。仲良くなったのか、溝が深まっただけなのか。そもそも、出会い系で出会ったといえるのだろうか。
それに、説明が難しかった。その場に現れたのが水谷志吹だと言うのもそうだし、
彼女の悩みを漏らすなんてもってのほか。お茶しただけ、なんて、もっと意味不明だ。彼女に似ているのを自覚して連絡をとったということにしろ、まるで俺が彼女の事を好きみたいな誤解を与えそうだし。とにかく、何かを伝えようにも、うまく言葉にならない。
「まぁー、なんだ、そういう時は次だ、次」
そんな空気を読んだのか、鏡介はヘッドロックをといて、肩を叩いてきた。こういう時の優しさが、鏡介らしい。男の俺から見ても、かっこいいと思うよ。
「簡単にいうよなぁ」
「お前が難しく考えすぎなんだよ。……ああ、それとな。
「
「ああ。思いつめた顔してたぞ。避けられてるのかな、とか気にしてた。傷つけるつもりがないなら、ちゃんと説明しておけ」
「……出会い系アプリで女の人と会ってました、って?」
「ばーか。そういうことじゃねえよ」
その答えを聞く前に、担任の先生が入ってきた。結局俺はその事を聞けずに一日を過ごした。
俺は後になって思うんだ。このことをもっとちゃんと考えておくべきだったと。
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