勇者の血ですかぁ?

「私の母親は当然エルフです。父親はディアブロスの父親と同じバンパイア、名前はカメール。

 母の話しによると母は生贄だったみたいです。私の母のいた集落の近くに父が住んでいて、集落に手を出さない替わりに、自分の身のまわりの世話をする侍女を寄越せと言ってきたそうです。

 そこで私の母が父の元に行ったみたいですね」


 温泉から上がり、宿屋に入って長ソファーにのんびり座っていると、エリスは私に紅茶を持ってきて1人掛けのソファーに座って語り始めた。


「母は集落の仲間の為だと覚悟を決めて父の元に向かいましたが、奴隷のように扱われると思っていた覚悟とは裏腹にとても大事に扱われたそうです。

 そして私が産まれました。私は見た目は完全なエルフでしたが、バンパイアの血を受け継いでいる私は言うなればハーフエルフです。

 集落では受け入れて貰えませんでした───」


 成人を迎えて、エリスは夢魔族のジョージア家のメイドとなり、その数年後に私のママが産まれ、その4年後にママの専属侍女になったそうです。


 そしてちょうどその頃、魔王討伐の為に勇者達が動き出し、私のお爺ちゃんにあたるカメールと勇者が激突、その時にエリスの母親が勇者の仲間によって殺されたそうです。

 勇者とお爺ちゃんの対決は愛しき人を殺された怒りが優ったのか勇者達は敗北を喫し、勇者は奴隷の紋を捺され、仲間は人族の目の前で夢魔族によって痴態を晒された後、殺された。

 勇者はお爺ちゃんの性奴隷と課し、妊娠がわかると夢魔族によって精神も人格も壊され、産んだ後は人族に返したらしい。

 精神、人格が壊れた勇者は教会に渡され、数日後にはスラムの道端で屍となって捨てられていたという事が報告されたらしい。


 その勇者から産まれたのが、最強のダンピール、パパである。


「ヴァイスには勇者の血が流れています。多分貴女の自己犠牲の癖は勇者の血によるものだと私は思っています。

 因みに私の父、カメールは母の事が忘れられずに、天界に登り、死を望みました」


 お爺ちゃんが天界に登った事はパパから聞いて知っていた。それと同時期にベリアルが天界から降りてきて、堕天使となった事も聞いています。


 それにしても、私には勇者の血が流れているんですね。初めて聞きました。


「私の~、お婆ちゃんが勇者だったって事ですねぇ。……名前はわかりますかぁ?」

「ヤチヨ・ボウヅキだと記憶しています。彼女は魔法の他にシキガミという変わった魔術を使えたと聞いています」




 それにしても、私は自分を犠牲にしているのか? 

 それと、もう1つ……。


「カメールお爺ちゃん、最低ですぅ」


 愛しいひとを亡くして、辛いのはわかる。だからって、娘を残して死を選ぶのは間違っている。


「それは違います! 父は私が成人となった姿を見て、母と重ねてしまったのです。

 母が死んでから一時期、私は父の元に戻っていました。来る日も来る日もお酒を飲んでいた父を放っておけなかったのです。

 あの日も父はお酒に酔っ払って潰れていました。私は肩を貸すようにして父を寝室へと運びました。

 寝室に着いて父をベッドに寝かせようと思った時に私は父に押し倒されたのです。

 私に抱きつき、服を無理矢理脱がしにきました。当然、私は抵抗しようとしました。でもその時、父の呟きを聞いて私は抵抗を止めたのです。


『エルミタージュ』


 と……、父は母の名前を呟いたのです。私はそのまま父に抱かれ、父が寝静まってからベッドから出て自分の部屋へと戻りました。

 父を見たのはそれが最後です。次の日、父の寝室に向かうとピアス台の上に『天界に登る』とだけ書いたメモが残っていました。

 ベッドの上には私の破瓜の血の跡が残っていましたから、それを見て自分が何をしたのか覚ったのでしょうね。

 この事はリリも知りません。もしかしたら、感づいているかも知れませんが、私からは話した事はありません」


 話しの内容は理解しました。あくまでも理解しただけで賛同はしていません。

 だからといって、それを口にしてもエリスとは平行線を辿るだけでしょう。だから関しては何も言いません。でも───。


「何で~、その事を私に話したのですかぁ?」


 これが理解出来なかった。今回の話しは私にとって多少有意義な情報だったかもしれない。

 しかし、この話しには脈絡がなかった。今日1日を振り返っても、エリスがこの話しをする理由がなかった。


「そうですね……、私が本来話したかった事柄とは離れてしまいましたね。

 ヴァイス、私が貴女の侍女になった理由を覚えていますか?」


 あれから1ヶ月程しか経っていないし、まだ忘れる程の期間ではないでしょ?


「私の~、再教育の為ですよねぇ?」

「あの時はそう言いました。でも、それは本心からではありません。

 私は魔族の血を引いていますが、あくまでエルフ族であり、貴女の叔母でもあります。

 そして貴女は魔族の頂点に立つ魔王です。でも本当は……」


 エリスはソファーから立ち上がり、私の横に移動してきました。


「……隙あらば、こうしたかったからです」


 両肩に手を遅れて私はソファーに押し倒されました。ゆっくりと顔が近付いてきて唇が重なります。


「……!?」


 私は何をされてるのでしょうか? 頭が上手く回りません。唇の隙間を縫ってエリスの舌が私の口内に侵入してきました。


「ん、……んぅ、はぁ……んん」


 私は対応もせずに、ただただエリスの舌によって口内を蹂躙されていました。

 

「私はリリから貴女が自分の娘だと紹介された時にショックを受けました。それは私の姪にあたるからです。同時に貴女が魔王だということもくっついて来ました。

 初めて自分の意思で身体を重ねたいと思った人が自分の手の届かない、更に倫理的に手を出してはいけない人だとわかったのですから。

 でも貴女の母親が手を出しなさいと私に命令してきました。だから私は今こうして貴女に近づき、貴女を襲っています」


 









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