命令ですよぉ

「排卵しろ! そしたらもっとくれてやるよ、妊娠させてやる!」

「あ……あぁ、今しました~。排卵……しました。だ……から、妊……娠させ……て……下さい……。だから、早……く、早く下さい!」


 この会話で希求憧憬し、


「違うわよ~、ヴァちゃんは~、私の娘よぉ」


 この言葉に絶望して、


「命令ですよぉ、娘を堕しなさい。性格は私に似ていますねぇ」


 この言葉に歓喜した。




 ヴァイスは私の事をシスターと呼ぶが、私は決してシスターではない。

 教会の神父様に住むところを提供して貰っている代わりに仕事を手伝っているだけの事だ。


 初めて彼女を見た時に魔族だとわかった。初めて逢ったのは、彼女が寄付金とシチューを孤児院に持ってきた時の事だ。

 さすがに警戒はしたが、勇者達が経営する高級宿屋の代表だと神父様から聞いて、その警戒を解いた。


 それから以降も道端で逢ったり、孤児院の子供達に差し入れを持って来たりと、話す機会が増えていった。


 そして、あの日……。彼女が教会を訪れていた時に魔族達が私達のいた部屋を襲ってきた。

 1匹は見るからに悪魔、もう1匹は見た目はバンパイアに近く魔国の貴族服を着ていたが、その頭には悪魔特有の角が生えていた。

 そして、もう、見覚えのあるサキュバスが現れた。


「はい、そこまでね。動くと可愛い女の子の顔に傷が付いちゃうよ」


 たまたま部屋に来ていた子供の喉元にナイフを突き付けていたのそのサキュバス、その声を聞いて記憶が蘇った。


 私がこの教会に厄介になる前に冒険者としてパーティーを組んでいた時に出会ったサキュバスだ。

 女性3人のCランクパーティーだった私達は魔族の登場に恐怖を憶えた。


「そこのお前、魔族の血が入ってるね。お前だけ残りな、人族の2人は見逃してあげるよ」


 パーティーを組んで1年程だったが、私に何も言わずに逃げ出してしまった。

 残った私は敢えてされるがままサキュバスを受け入れた。多分どうって事はないだろう。これでも私は夢魔族長の侍女だったのですから。

 サキュバスが女性の前に現れるという事は、ほぼ両性具有種の筈である。その推理も的を得ていた。


「名前は何と言うのですか?」

「へぇ、まだ意識を保ってるんだ。ベルファリアだよ。どうだい、私のペットにならないか? いい暮らしが出来るよ」

「聞いた事がありませんね。これでも夢魔族に知り合いがいるのですが」

「チッ、主人持ちかよ。つまんねぇ奴だな」


 そう言ってベルファリアは消えてしまいました。その帰り道に犯されて殺されたであろう仲間の横を通り過ぎて私はその場を離れた。



 その後、私はこのキャロリナに流れて来て、教会でお世話になっていた。

 まぁその当時はまだこのような街ではなく、少し大きな名前もない村だった。

 それがここ数十年で急速に発展してダークエルフのキャロルが領主になり更に発展を遂げた。


 話しを戻そう。そのベルファリアがヴァイスに牙を向けた。あの頃よりかなり凶悪になって……。

 彼女には何ら関係のない子供達を人質にしてヴァイスに迫る。何て意味のない行動だろうか。

 それなのに……、彼女は子供達を守るためにベルファリアを受け入れた。


 私の時には使わなかったサキュバスの媚薬、オマケにオークジェネラルの精子の注ぎ込み、更には悪魔2匹も加わった4人プレイ。

 性的行為に使えるところは全て塞がれていた。

 あれは無い! あれは私でも狂い死ぬ自信がある。

 その証拠に彼女はすぐに我を失ったかの様に快楽を求め続けた。

 それなのに、私と目が合うと涙ながらに首を横に振る。見ないでと叫ぶように……。普通なら羞恥心など残る筈が無い。


 事が終わった。彼女の身体は白く泡立ったもので汚されている。その全身は痙攣し続けていた。それなのに、


「もっと……もっと……くだしゃ……見ちゃ……ヤダ~」


 理性の無くなった状態で尚、私の視線に気付くと僅な理性を取り戻していた。その状態は今の彼女にとって苦痛の何物でもないだろう。


「あんた、その子によっぽど慕われてるみたいだねぇ、精々看病してやるんだね。でないと、その子……、壊れるよ。

 理性を無くして頭が壊れるのが先か、理性を残してあんたに見られ続けて心が壊れるか、どっちが先だろうね。キャハハハハ……」


 気が付けば私は彼女を抱き締めていました。肩に顎を乗せるようにして強く抱きしめました。

 ベルファリアが遠くに離れて魔方陣が無くなったのでしょうか? 子供達が私達に近付いてきたのです。


「誰か神父様と勇者様を呼んできて! 早く!」


 神父様にリラックスの魔法を掛けて貰っても効果は無く、勇者が来るまでずっと彼女を抱き締めていました。

 その間、彼女は泣きながら私に「もっと、もっと」と願うのでした。



 勇者が到着し、彼女は領主邸に運ばれたみたいです。

 数日後、領主から彼女が落ち着いたと連絡を受け、急いで彼女の元へと駆けつけました。

 話しが通っていたのか、私はすんなり領主邸に入ることが出来、領主自ら彼女の元へと案内してくれたのです。


 ベッドに寝ている彼女をみつけます。その枕元に驚くべき人物がいたのです。


「リリア様? どうして此処に?」

「あらあら~、昔みたいにリリって呼んでくれないのかしらぁ? でも~本当にぃ久しぶりねぇ、いつ以来かしらぁ」

「私がリリの侍女を辞めた時だから2000年振り位かしらね。でも本当にどうして此処に? もしかして、リリが直接ヴァイスさんに謝りに来たの?」

「違うわよ~、ヴァちゃんは~、私の娘よぉ」


 リリの娘? 彼女が?

 という事は、彼女は……、私の姪?


 リリの旦那は私の腹違いの弟になる。リリが弟と結婚したのは私の紹介みたいなものだ。


 この数日間で、膨れ上がった気持ちが一気に抜けた感じです。

 この気持ちは昔、リリに向けていたのと同じ……。それが、リリの娘で姪? 


 告白する前に失恋した気分です。と言うか、完全な失恋です。

 暫くすると彼女は起き上がりました。ベッドの上で上半身だけ起こします。布団から出た胸部は何も着けておらず、多分全裸で寝ていたのでしょう。彼女はすぐに布団に潜りました。

 そして、リリと何か話しています。声が小さくて聞こえませんでしたが、話し終えたのか、リリは立ち上がり部屋から出ていこうとします。



「リリ! もう少し傍にいてあげた方が良いのではありませんか?」

「いいえ~、私は~邪魔者ですよぉ。今~、必要なのは~、エリス~貴女ですぅ」


 そしてリリは私の耳元でこう呟いたのです。


「命令ですよぉ、娘を堕しなさい。性格は私に似ていますねぇ」


 

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