解せません
「お早う御座います、ヴァイス」
「……おはよ~」
お早う御座います。私は魔王のヴァイスです。大事ですからもう一度言います。魔王ヴァイスです。
「早く着替えて下さいね。食堂で使う野菜が少し足りません。朝市で仕入れますよ」
「はい~、すぐ行きますぅ」
おかしいですよね? 私は魔王でエリスは私の侍女の筈ですよ。
「ほらっ、早く行きますよ。ぐずぐずしないで下さい。いい加減怒りますよ」
やっぱり解せません!
「あっ、魔王様。今日は大根が1本90ルーブル、2本で150ルーブルにまけとくよ」
「ヴァイスちゃん、リンゴも1個100ルーブルだよ。お買い得だと思うよ」
「おっ、ヴァイスちゃん、今日も可愛いねぇ。ブロッコリー安いよ」
ここはノーススプリング、キャロリナの早朝市場。人族も獣人族も関係なく自分達で栽培した野菜や果物を売っている市場だ。
ここにいる人達はほぼ全員、私が本物の魔王だと知っている。ここにいる人達だけでなく、この国の人達は私の事を魔王だと認知している筈である。
私が陵辱を受けて回復してからすぐに公布、発表されたんだよね。
別に私に対して恐怖しろとは言わないし、言われたくもない。
でもでも、もう少し敬う言葉とかあっても良いじゃない? 魔王に可愛いねぇとか、まけとくよとか、近所の子供のお使いじゃないんだから!
そんな事を思いながらも、この雰囲気が気持ちいいのは確かなのだ。中には本気に思ってない人もいるとは思うけど……。
何処からもなく、イカ焼きの匂いが漂ってきた。私はその匂いの元を探しながら歩いていた。
「ふぎゃ!」
足元を見ていなかった私は小さな石に躓いて、おもいっきり転けてしまった。
「痛いですぅ」
目に涙を溜めながら躓いた石を睨みます。
「貴女は何をしているのですか?」
見てわからないの? その石に躓いて転けたんだよ。せめて大丈夫ですか? って気遣ってくれてもよくない? 貴女は私の侍女でしょ?
「この石ですか、躓いたのは? この石は魔王様を地に伏せさせたのですね。しかも魔王を泣かせるとは……。この石は勇者の一撃よりも強いと思われます。
これは後に魔王様を脅かす事になりかねません。魔王城の地下深くに封印した方が良いと思われます」
この人は何言っちゃてるんですかね? 周りから笑い声が聞こえてきます。
「大丈夫ですよ、魔王様ならいつでも汚名を返上できますから」
「……はい。………………ちょっと待ってぇ。汚名は~、返上するんじゃなくてぇ、挽回するんじゃ~ないですかぁ?」
「チッ! 気付いたか」
おい。こら! 今、舌打ちしたよね? 私は魔王で、貴女は侍女だよね?
シスターだった頃の貴女の優しさは何処に行ったの?
「ねぇ、エリス~。エリスって幾つなのぉ? ママとぉ、知り合いみたいだったけどぉ」
何て事ない、ちょっとした疑問だった。確か、ママと2000年振りに再会したような事言ってたし。
「ヴァイス、女性に年齢を聞くのならそれ相応の覚悟が必要ですよ」
一瞬、エリスの目からハイライトが消えたような気がする。
「いずれにしても全て教えるつもりでしたから、ちょうどいいかもしれませんね。
お茶をご用意致しますからお部屋でお待ちください」
エリスの言葉に従い、部屋に戻ってソファーに腰を掛けた。
この宿屋には既に私しかいない。佑介さんと美咲さんは領主邸に住んでいるし、成海も此処に帰っては来るがシャワーを浴びて寝るだけになってきている。
理由は魔国での仕事だ。ママ曰く、何でも出来る働き者だそうだ。
本人曰く、出来るのではなくやらされていると言っていましたが……。
エリスがお茶の用意を終えたのかワゴンに乗せて部屋に入ってきました。
───お~い、ノックしたか?
私がもししなかったら何を言われるやら……。
「何か言いたそうですが、何か?」
エリスも美咲さんと同じタイプみたいで心の叫びを読み取るんだよね。
「おかわりが入ればいつでも言って下さいね」
そう言ってエリスは紅茶をカップに注ぎ込む。それも大容量のポットタイプで……。
年齢を聞いただけなのに……。何? そのお茶の量は? そんなに長い話しになるの?
───疲れた!
その一言だ。長い話しを要約すれば、エリスはバンパイアとエルフのハーフだという事、そのバンパイアがパパのパパにあたるという事、そしてバンパイアの血を引き継いでることで不老不死である事。
そして、パパとママが結婚するまではママの侍女であった事。年齢は2万歳を越えたところで数えるのを止めた事、本人曰く、25000歳位だと言っている。
それにしても、エリスがパパの腹違いのお姉さんだという事には驚きた。
私とエリスは叔母と姪になるのだから。
何となく、一緒にいたり、声を聞いていて落ち着く理由がわかった気がする。
そして、その関係にショックを受けた私がいるという事を……。
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