さて

「今入ったら絶対あかんよな」


 私は頷きます。


「ほな、これどないする? 黒のスケスケおパンツ。

 今渡しに行けやんし、預かっとても絶対何か言われそうやし、そのままにしとくなんてもっての他やと思うんや」


 その意見、超全面的に肯定します。私はボタンの取れたブラウスとスカートを拾いあげ、黒いハーフカップブラを手に取ります。


「ちょう、これ持っといてんか」


 成海さんは両手が塞がっている私に黒いショーツを渡して来ました。正確には私が持っている美咲さんの服の上にで置いていったのです。


「ほな、それ頼んだで!」

「あっ、そんなの……ズルいですぅ」


 魔国での用事を速攻で終わらして戻ってきたら、この有り様です。取り敢えずマジックボックスに入れときましょう。



「僕の気苦労はいったい何やったんやろ……。美咲も変わり過ぎやろ、彼シャツやし……、それにあの下、何も着けてへんで」


 昨日、佑介さんに泣いて縋ってたのは誰だったんでしょうね? 佑介さんも困惑顔です。

 

「なあ、ヴァイス、お前等魔国に何しに行ってたんだ? 成海の顔見せが俺達の為になるとか言ってたか、思ったより帰ってくるの早かったし」


 あ~、やっぱり気になりますよね? 


「佑介、この方を誰と心得ておるんや! 魔国の魔王、水戸光國公でおわせられるぞ! 頭が高い控えおろう」

「何ですかぁ、それ~! それって誰ですかぁ?」


 美咲さん達も何土下座してるんですか? 何かの寸劇ですか? 

 

「何や、2人ともノリええやんか。スルーされて、色々聞かれると思とったんやけどな」

「あぁ、何となくわかってたからな。確認したかっただけだ」


 この人、本当に凄いわ。何でわかっちゃうんだろうね? でも、成海さんの実力が私の想像を遥かに越えてたから半分ぐらい意味が無くなっちゃたんだけどね。




 ─────1年後


 サルデイル、ノーススプリングは魔国と国交を結んだ。それに伴い、殆んど武力の持たない小国がサルデイルやノーススプリングの属国になったり吸収合併していった。

 勿論、それらは武力行使の結果ではなく、小国からの希望による事である。


 ノーススプリングでは死者35名のクーデターがあり、王族12名、貴族当主8名、兵士15名で一般平民には被害が全く無く、たった3時間で終わったクーデターだ。

 クーデターの首謀者はキャロル・モネロード、キャロルおね~ちゃんだ。

 この国、ノーススプリングに初の女王が誕生した瞬間だった。前スプリンガン国王は魔国が示した勇者との同盟、ノーススプリングとの国交を頑なに拒否、戦争を仕掛ける準備をしていた。

 しかし、国軍部がそれに反発、一般平民を巻き込む内戦になろうしていたところを、止めようとしたのが第3王子のフィネル殿下。

 殿下はキャロルおね~ちゃんに協力を依頼、貴族への根回しや元々送り込んでいた王城内の間者を使い、暗部を送り込んだ。


 キャロルおね~ちゃんも殿下から依頼がくる前から動いてはいた。私が魔国で推進している計画実行の為だ。

 そのお陰もあって、事は3時間で終了。話しを聞いて驚いたのは殿下がまだ8歳だと言うこと、そして自分以外の王族を消すと言う判断だった。

 更に自分では国民の指示を受けていないと言う事実を認識していた事。

 故にキャロルおね~ちゃんを頭に据えて自分は成人まで皇太子として動くらしい。


 そして、驚く事にユウスケ・ヒグチがキャロリナの領主になった。

 いつの間に? って感じだった。どうやら私の知らない所で話しが進められていたらしい。勿論、美咲さんも一緒に領主邸に行っている。


 一方、魔国では……。ハッキリ言って農業は必要がない。魔族の殆んどが大気中の魔素を取り込む事で生命を維持できる。

 人族でいう食事は所謂嗜好品である。私の場合は人族の血が濃く、大気中の魔素を取り入れる効率が悪いみたいで、食事は欠かせない。

 

 因みにバンパイアが人族の血を吸うのも嗜好の一種で人族でいうアルコールと変わりはない。

 私達、夢魔族も同じで人族の精気を吸うのは嗜好であって必須ではない。ただし、夢魔族は3種族に分類され、インキュバス、サキュバス、両性具有種がいる。

 両性具有種は雄から精子を取り込み雌へその精子を流し込む事が出来る。

 例えば、人族の雄から精子を奪い、エルフの雌を犯し注入すればハーフエルフが産まれる。

 


 そして、ここノーススプリングでその両性具有種の夢魔が引き起こしているであろう事件が多発した。

 人族貴族の令嬢がオークを出産したのが切っ掛けで露見、キャロルおね~ちゃんが調べさせたところ一般平民にも多数のハーフが産まれている事がわかった。

 勿論、人族同士の婚姻者達であったり独身者である。

 教会にいる孤児達の殆んどがそれだと判明した。

 考えてみれば、私が孤児院に行った時も人族は殆んど居なく獣人が多かった事を思い出す。


 そして、運良くか運悪くか。私はその場面に遭遇してしまった。

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