謁見の間は踊りますぅ

「今回~、魔王なりましたぁヴァイス・ディアベルですぅ」


 その場に居た51人の魔族の殆どが片膝を就き私に礼をとった。

 私に礼をとらなかったのはアリストの4家、アメイモン、オリエンス、パイモン、アリトン。それに悪魔族のパファメットと堕天使ベリアル、そして、最後尾に訳もわからずに立ち竦んでいる、あのウダというインキュバスだ。


「今、立っている者はヴァイスの魔王就任に反対だと言うのだな」

「反対するのではない。ヴァイス様の横にいる勇者について説明が欲しい」


 パパの言葉に答えたのは悪魔族のパファメットだった。

 

 そして何を考えているか、ウダが此方に向かって歩いてきた。


「私の様なアンダーアリストの五男がリリア様によって、この場に召喚されたのか今わかりました。

 その場に立つのはお前ではない! ヴァイスと関係を持ったこの私だ!」


 途轍もなく明後日の方向を向いているウダは成海さんに指をさし、目に魔力を込めます。ウダは美咲さんに引き続き成海さんにまで淫魔を掛けたのです。それもこの様な場所で!

 私は慌てて成海さんを見ました。


「……あれっ?」

「美咲もまだまだやな。こんなもんもレジスト出来ひんかったんか? ヴァイスちゃん、悪いけど、コイツは始末させて貰うで!」


 成海さんはゆっくりと私の前に歩いてくると、ウダの方を向きます。

 成海さんの魔力を感じました。ウダに一歩近付く毎に放出される魔力が上がっていきます。


 ちょっと待って下さい! 何なんですか、この魔力量は? 


「ほう……」

「あらあら、さすが勇者ねぇ」


 パパとママは他人事の様に呟きながらも静観しています。

 ウダはガクガク震えてその場に座り込んでしまいました。成海さんはウダの髪の毛を左手で掴んで無理矢理立たせると、


「これは美咲に手を出そうとした分!」


 髪の毛を掴んだままボディブローを打ち込みました。成海さんの腕がウダの体を貫通しています。

 腕を引き抜き、髪の毛を離しました。


「僕に掛けようとした淫魔は許したるわ。これはヴァイスちゃんを手掛けて汚した分や」


 床に這いつくばった状態のウダに掌を向けると眩しい光と共にウダの姿は消えていました。

 多分魔法は使っていません。魔力の解放だけであのバカをこの世から消し去ったみたいです。


 謁見の間がざわつき始めました。目の前で勇者が魔族を殺したのですから。それも一応はロイヤルの貴族です。しかし、はぐれだと思っていたが、貴族だったとは驚きです。

 

「右側後方の~、奥から4番目でぇ、震えてるのが親のモルダーねぇ。確かぁオリエンスに仕えるアンダーアリストよぉ」


 ママが小声で耳打ちしてくれました。


「私のぉ眷属がぁ、お騒がせしましたぁ。この者には~、後で然るべき処遇を言い渡しとくのでぇ、ご容赦してくださ~い」

「その必要は無かろう。魔王様の血族に無礼を働いた者が処罰された、ただそれだけの事だろう」


 私の説明に応えてきたのはオリエンスだった。オリエンスはアメイモン、パイモン、アリトンと顔を見合わせると4人揃って片膝を就き、私に礼をとった。

 パファメットは既に礼をとっている。残るはベリアル1人だったが、4人に合わせる様に片膝を就いた。

 オリエンスがウダの死をそう捉えるのならアンダーのモルダーは何も言えない。


 これで全会一致で認められて私が魔王という事ですね。

 

「では、魔王様は玉座にお座りください」


 私に、治安維持部隊長エルネア・モネロードが玉座を勧めてきた。キャロルおね~ちゃんのお父さんです。

 私はエルネアの勧め通りに玉座に座った。


「今ここに、新魔王様が誕生しました。我等魔族一同は魔王様に、忠誠を誓い、命を掛けて魔王様に襲い来る勇者を討ち果たしましょう」


 エルネアによる魔王忠誠の誓いを読み上げるとアリスト達は一斉に立ち上がり、私への忠誠の証として両膝を床に就けて右手の拳を床に就けた。


「あなた達のぉ、私への忠誠の誓いは~、確かに~頂きました~。

 しかしぃ、命を掛けてぇ私を守る必要は~ありませ~ん。何故ならぁ、今後勇者が現れる事がないからですぅ」


 この世界には勇者は1人だけしか現れない。賢者や大魔道師なんかは知らないが勇者と比べれば、たいした事は無い筈だ。

 歴史上、必ず1人だ。成海さんは私の眷属になって種族は変わったが職業は勇者のままだった。

 そう、この世界に勇者がいるのだ。しかも、私の眷属になったことにより、不老不死になっている。

 これにより、成海さんは天使ラファフィムに力でしか死なない。

 しかも天使達は余程の事がないと地上にはやって来ない。例外があるならば堕天使とし降りてきたベリアルぐらいのものだ。

 堕天使としてラファフィムが降りてきたとしても、属性は闇に変わり、不老不死を殺す事が出来る聖属性で無くなるであろうから問題もない。


「それならば、今こそ人族の国に攻め入り、この世界を魔族の物にしようぞ」


 声をあげたのは後ろの方にいる者だ。多分アンダーアリストだろう。そう言う意見が出るのもわかっていた。脳筋な奴等が必ずそう言うと……。


「今のぉ、魔族の人口で~どうやって統治するのですかぁ? 勇者がいなくてもぉ、人族には数という武器がありますよぉ。

 お互いに~死傷者を出してぇ国土や文化を破壊してぇ何を得るのですかぁ?

 今の魔国に今~、何が必要ですかぁ? 取り立ててぇ急いで手に入れなければならないものは無いのではありませんかぁ?」


 さて、このままだと強硬派が出来て人族を相手に、勝手に戦争を起こしそうです。


「人族にぃ勇者と魔王の私が~、同盟を結んだと~情報操作するつもりですぅ。人族はどうでますかねぇ?」

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