ようこそ魔国へ
「成海さんはぁ、眷属として連れてぇ行きますぅ。拒否権は、ありませ~ん」
4人が揃った夕食の時、私は成海さんを連れて魔国に行くことを告げた。先に伝えあった成海さんは、普段通りのお茶ラケを見せ、佑介さんは思案顔に、美咲さんは顔色を無くしていた。
「何しに行くのよ? 行くにしたってみんなで行けば良いんじゃないの?」
「ダメですよぉ、今~魔国に人族、勇者パーティーが入国するのは~、混乱を招きますぅ。
成美さんを~連れて行くのは~、ロイヤル達に私の眷属を見せる為ですぅ。今後の美咲さん達の為ですよぉ」
もし、私以外の魔族が魔王になった時、勇者パーティーが狙われる可能性があります。
今回、私は成海さんを利用するつもりです。この前、パパとママが来た時の成海さんや美咲さん達の怯え方は異常にしか見えませんでした。
それで気付いたのです。
「でも、一緒に行きたい……」
本当にダメですったら。仕方がないので私は魔力を解放させます。
「うひっ……」
「……」
「まだぁ、半分も見せてませんよぉ。これぐらいの~、魔力の持ち主なんてぇいっぱいいますよぉ。
多分ですけどぉ、成海さん達が~、魔王を倒せたのは~、奇襲攻撃が成功したからですぅ。
でもぉ、魔族達はそ~思ってないと思いますよぉ。勇者達は強いって思ってますぅ。なのでぇ魔族は全力で来ると思いますよぉ。全力で~攻め込まれたら美咲さん達は負けますよぉ。
そこに美咲さん達が行ったらど~なるかわかりますよねぇ?」
成海さんには魔力解放するかもと教えていたのでたいした動揺は見せていませんでしたが、美咲さんは目に涙が溜まっていました。佑介さんは無言です。
多分、美咲さんはパパとママの時の事が半分トラウマになっているんだと思います。
「今~、私がぁ、保護出来るのはぁ、眷属の成海さんだけですぅ。
なるべくぅ早く戻って来るつもりですがぁ、いつ戻って来るかわぁ未定ですぅ」
私は成海さんと共に私の部屋へと転移した。部屋と言っても魔国にあるエディン城、パパのママの家にある私の部屋だ。
因みに俗に魔王城と呼ばれている城は正式にはウィンザー城と言う。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
転移で私の部屋に着いた時、カーテシーで迎えてくれたのは赤いメイド服を着たナタールだった。
ナタールは私が幼少の頃からずっと私専属のメイドだ。赤いメイド服は誰かの専属を意味している。
因みにナタールは私の従姉妹にあたる。ママの姉の娘にあたり、私より50歳年上だ。当たり前だが種族はキャスバスである。
「ナタール、久しぶ……」
「ヴァイスよ、帰ってきたのか!」
私がナタールに話し掛け、抱きつこうとした瞬間にバパが転移でやって来た。
本気で邪魔なんだけど! そんなんだから、ママに怒られるんでしょ。
「ナタール、久しぶりだよぉ。元気にしてたぁ」
パパを無視して再度ナタールに話し掛け、抱き付いた。
「お心遣いありがとうございます。元気で過ごしておりました。
して、お嬢様。そこにいるのはハンニバルを倒した勇者かと存ずるのですが?」
「そうだよぉ、魔王を倒した勇者、成海さんだよぉ。今は~私の眷属筆頭だよぉ。
あ、あれっ? パパは~仕事に戻ってぇ邪魔だからぁ」
ナタールに成海さんを紹介しようと横を見ると成海さんは居らず、私の後ろに隠れていた。
どうやらパパが怖いみたいだ。
「そうですね、ディアブロス様は邪魔ですからお仕事にお戻り願います。 邪魔ですから!」
「おぉ、ヴァイスに邪魔だと言われてしまった。更にナタールが酷い。邪魔だと2回も言われた」
「早くぅ仕事に戻らないとぉママに怒られるよぉって、遅かった~みたいですねぇ」
部屋のドアを開けて、そのドアに凭れ掛かっているママがいます。両腕を胸の下で組んでパパを睨んでいました。
「ヴァちゃんがその子だけを連れてきたってことは~、そう言う意味なのですかぁ?」
ママの言葉に私は小さく頷いておきます。
「そう、じゃぁ、その子の専属メイドは~、私が選任しておくねぇ。
あなたぁ、遊んでないで、ロイヤルを全員召集しといてね~。
それと~、そっちでヴァちゃんに手を出したインキュバスのウダもこっちに戻って来てるみたいだから呼び出しとくわ」
私に手を出した? あぁ、あいつウダって言うんだ。
「リリアよ、耳がちぎれそうだから放してくれんか? はい、ダメですよね。……知ってました。ヴァイスよ、後でな」
パパとママは仲良く? 退場していきました。しかし、パパとママを見ていると成海さんと美咲さんを見ている気がします。勿論、成海さんがパパですね。
「アカン、ちびそうやったわ。あれで魔力抑えてるんよな」
「そうだねぇ、ママはちょっとぉ、漏れ気味だったかなぁ」
「ホンマ、僕らは、よぉ魔王を倒せたもんや。僕、お姉さんにも負けそうやもん」
ナタールはそこそこ強いみたいですよ。オールワークスメイドの資格を持っているのですから。
でも、負けそうですか……。
「サクラ様が思っているほど、サクラ様自身は弱くはありませんよ。
私では良くて互角、戦えばお互い無事ではないでしょうね。実力を隠していなければの話しですが。
ハンニバル様は直接戦闘よりも、智力戦術を得意としていましたから、それを掻い潜ったサクラ様が強かったのですよ」
魔族は、脳筋の戦闘狂か頭を使い搦め手を得意とする頭脳派のどちらかだ。その両方を兼ね備えた魔族は一様にして表舞台には出てこない。
以前、成海さん達が言っていた、私には勝てないと言う言葉。今なら肯定出来ます。
サルデイルで美咲さんが使った地獄の火炎、威力は中の中、魔力はごっそり無くなっていました。
その美咲さんに、いくら本気で抵抗していないとしても、3回殺されたと泣きついてきた成海さん。そして、今さっきナタールが言った互角と言う言葉。
間違いなく私の方が強く、成海さん達を勇者として最高戦力にする人族は、幾ら数が居ようが私達魔族に勝てない。
数時間後、私と成海さんはウィンザー城謁見の間にママとパパと共にいた。成海さんにママが何やらしたみたいで、ママやパパに対しての怯えがなくなっていました。
そして私は、サキュバスのボンテージドレスに身に纏い玉座を背にして中央に立っています。
「今回~、魔王なりましたぁヴァイス・ディアベルですぅ」
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