佑介の憂鬱

 食堂の食べ放題が終わって俺達4人は少し遅い夕食を食べていた。と、言っても食堂の残り物だが。

 残り物だと言っても充分に旨い。成海のレシピをプロの料理人が作ってるんだから当たり前と言えば当たり前だ。

 俺と成海は幼なじみで家は隣、父親のいない成海と母親のいない俺の家は家族ぐるみの付き合いだった。

 成海はよく俺の家に来て飯を作ってくれたものだ。その頃からアイツの飯は旨かった。

 この状態でベタなラノベの様な展開にならなかったのはアイツが本物の同性愛者だったからだろう。

 ずっと一緒にいたので毒されたのか俺は同性愛に何の嫌悪感も持ってはいない。

 今も目の前にはヴァイスとイチャイチャしている成海を見ているが心から幸せそうだなと思いながら眺めている。


 でも、心の何処かに成海が普通の女の子だったら俺の隣にいるのが美咲ではなく、成海だったかもしれないと思っている自分がいるのは確かだ。


 飯も食い終わり、ヴァイスは全員分の洗い物を厨房へと持っていった。残った俺達は何て差し障りのない話しに興じていた。

 ヴァイスは戻って来た時にコーヒーを持って来た。既に砂糖やミルクはそれぞれの好み通りに入れられている。

 間延び口調のせいでおっとりとした性格に思われがちだが、頭も良いし、何気ない気配りも出来、自分の事を省みない男前な性格だ。テストの点は悪かったが……。

 美咲がインキュバスに襲われた時も自分の貞操を犠牲にして美咲を助けてくれた。いくら種族にキャスバスの血が入っているとは言え、そんな事は普通考えないだろう。

 本気で美咲を助けてくれた事には感謝している。


「佑介さ~ん、素人の初めて女と~、娼館の情婦だったらぁ、どっちが良いですかぁ?」

「ぶぉ!?」


 ヴァイスのいきなりの質問の内容に飲んでいたコーヒーを吹き出しそうになった。

 何て質問してくるんだよ。せめて美咲のいない所でしてくれ! 


「おぉ、究極の質問やな。佑介はどっちや? 僕は初めて女やな。男を知らん方がこっちに引き込み易いしな」


 成海がおもいっきり乗っかってきやがった。理由が生々しいんだよ!

 隣の美咲の顔を見ると冷やかな視線を送ってくれている。これってどっちも正解じゃないような気がするぞ。


「ヴァイス、この質問の意図は何だ?」

「娼館に入ろ~とするぅ、孤児院の女の子達にぃ~、前もってぇ教えるべきなのかなぁって思ったんですぅ」


 あぁ、そういう事か。ヴァイスらしい考えだ。娼館に行くのを止めるのではなく、働き易くする為に教えるか……。

 確かに、情婦達を軽視する輩がいるのは間違いない。しかし需要と供給が有る限り、それは立派な仕事だからな。


「その意図なら情婦だろうな。娼館の客は性欲をもて余した冒険者が殆どだろう。初めて女が相手するには女も辛いし、男も満足しない可能性があるからな」


 多分、間違えた答えでは無い筈だ。そう思いたい。


「まあ、そやろな。佑介みたいなイケメンが初めて女を指名したら惚れられてつき纏われる可能性もあるさかいなぁ。

 それに男に取っても初めて女は重う感じるやろしな」 


 おい、成海! 何ニヤニヤしながら話してやがる!


「ふ~ん、初めてって重いんだ。そうの、佑介?」


 ったく、成海はいらない事を言うな! これは何て言えば正解なんだよ……。


「あ~、あれだ。……な、あ~もういい! 好きな女の初めてを重いなんて思うわけ無いだろ!」


 ハズい。めちゃ恥ずかしいぞ。

 美咲も真っ赤になり過ぎだ。こっちまで釣られてしまう。


「成海さんもぉ、そうだったのぉ?」

「そやで。ヴァイスちゃんの初めて貰えて嬉しかったで。そう言えば、私もまだ初めて女なんよな。

 佑介、貰ろてくれへんか? 佑介やったら僕、構わへんで。美咲、構へんやろ?」


 成海、何を言い出すんだ。そんな事を美咲が許す訳……。許さないよな?


「もし……もしだよ、成海が真剣にそう思ってるなら私は良いよ。その時は佑介が嫌だって言っても私が説得するから」


 ちょっと待て! お前ら言ってる意味がわかってるのか?


「初めて佑介にあった高校1年の時、佑介の隣には必ず成海がいたのよ。幼なじみだって2人を知っている人から聞いた。

 そこに私が割り込んだ。佑介が……好きだったから。好きになったから美咲から奪い取るつもりで割り込んだんだよ。

 誰が見たって付き合ってる様にしか見えない2人に私は割り込んだ。2人して付き合ってないって断言したもん。ワンチャンあるかもって。

 見え見えだったと思うよ。私が佑介を狙ってるって。

 そんな時にさ、成海はたいてし接点のない、優子に告白したんだよね。その子が友達と一緒にいたにもかかわらずにさ。

 そんなのあり得ないでしょ! 女の子が女の子に告白するなんて、特殊だよ。それを人の目の前で普通はやらない。

 私は譲られたんだと思った。だから私は佑介に告白した。そして私達は付き合い始めた」

「あぅ、そんな事もあったなぁ。懐かしい話しやんか。僕の性癖がバレた時やね。あれは恥ずかしかったわ。黒歴史や!」


 美咲、言いたい事はわかる。わかるけど……、それ多分違うから。成海は中学校の時、俺の妹と付き合ってたから。

 俺の隣にいたのは妹の事を聞き出すため、家に飯を作りに来てくれたのも妹と一緒にいるためだ。

 で、成海には悪いが妹に彼氏が出来てな、成海は振られたんだよ。

 因みに長瀬優子は妹に良く似てるんだわ、これが!

 それにもう一つ言うと、成海の性癖は幼稚園からだぞ。事あれば、保母さんの胸に顔を埋めて、キスしに行ってたからな。


 今考えたら、成海の前世は男で、記憶を持って転生してないか? 何かそれがシックリくるんだけど……。


「ヴァイスさん、今日は宜しくね。成海は佑介の部屋に行って」

「い、一緒に寝るだけですよぉ。美咲さん激し過ぎるしぃ」

「大丈夫よ、気絶したらちゃんと止めるから」

「美咲さん、鬼畜ですぅ」


 ……えっ、今の会話は何だ? ちょっと待て! もしかしてヴァイスに美咲を寝取られた?

 って言うか、何で俺が成海を抱くことになってるんだよ! 成海も何か言えよ。


「では、今夜は宜しくお願いします」


 おいおら、成海! エセ関西弁は何処に行った! 三つ指を立てるな! コイツ何処まで本気なんだよ?


「じゃあ、ここで別れましょうか。どうしょうか? 1号室は成海達が使う? 私達は7号室にしよっか?」



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