ユグドラシルの涙
「ヴァイスちゃんのマジックボックスの中に入ってるで。僕が封印しときって言うた箱で、一番小さいヤツや」
ん、男の子から貰ったヤツかな? どれどれ……。
マジックボックスを弄り、両掌サイズの箱を取り出した。蓋を開けて中身をとりだす。
見た目はジュエルボックスでその蓋を開けると3本の薬瓶が入っていた。
「これですかぁ」
「お、それやそれ」
成海さんに確認を取って佑介さんに手渡します。
「……ユグドラシルの涙か?」
「あぁ、そうやで。こんなもん、そうそう出回ったらアカンと思ってナイナイさせとったんやけどな」
「サルデイル城の書物庫の古文書に載ってあったけど、本当にあったのね。でも、これはヴァイスさんの物なんだから……。売ったりしないの?」
美咲さ~ん、これは私でもわかりますよ! これのせいで国が滅びます。
「何言ってるんだ? こんなもん売ってみろ。こいつを巡って戦争が起きるぞ」
「アッ、ソウカ、ソウダヨネ。それだったら、早く処分しないといけないんじゃない? ゆ・う・す・け~」
何? 前半の棒読みは? もしかして確信犯? でも、わかってるかな? この薬の効果の事?
「ちょっとぉ、良いですかぁ?」
「えっ、佑介等にあげるんとちゃうの? ヴァイスちゃんも美咲の眷属化に賛成してたやん」
勿論、あげますよ。年老いて死んでいくのを見たくはありませんから。
「勿論~、あげますよぉ。それは貰い物ですし~。
ただぁ、眷属になる不老不死とぉ、その薬で不老不死になるとでは~、違う事があるんですぅ」
種族が持っている不老不死はその種族としての身体の最盛期の状態で不老不死になります。当たり前ですよね、生まれた瞬間から不老不死なのですから、そこで不老になると、一生赤ちゃんです。
でも、薬で不老不死になる場合、飲んだその瞬間から不老不死になります。
因みにですが、人族が70歳で私の眷属になると、22、3歳の頃まで若返ります。
今、薬飲んじゃうと……。
「なるほどや、今の美咲がその薬飲んでしもたらペッタンコのまんまちゅう訳やな」
成海さん、いい加減学習して下さい。巻き添えは嫌です! 転移します。あっ、佑介さんも同じ考えだった様です。転移しました。
「逃げても無駄よ。地獄の果てまで追い掛けていくから……」
「僕……死んだかな? 臨兵闘者 皆陣列在前!」
「何で、九字を結んでるのかな? かな? 大丈夫よ、望み通りにしてあげるから」
宿屋と食堂を始めて1ヶ月が経った。従業員も雇い入れ、建物と内装の雰囲気を壊さないように、制服を用意した。女性はメイド服、男性は貴族服だ。何故か変な形の帽子を被せている。
提案者は成海さんだ。どうせ、成海さんが変な趣味に走ってるんだろうなと思っていたが、以外にも佑介さんも美咲さんも絶賛していた。
食堂にも料理人を雇い入れ、注文を受けてから作るのではなく初めから何種類かの料理を幾つも作って棚に並べておき、それらを客が欲しい物を欲しい分だけ取ってテーブルに持っていって食べると言うルールを作った。
食堂に入る時に2000ルーブルを支払って貰って、後は食べ放題にしてある。
一応、食べ終わったら退室と言うルールになっている。
これも成海さんの発案だった。開店当初は成海さんと佑介さんが厨房で、私と美咲さんがホールをする普通の食堂だったのだが、これは朝から晩まで働き詰めで休む暇も無かったのだ。
食べ放題にした為に利益は殆んど無いが、利用客が多いのと宿屋の方が最低でも10室は埋まる状態になったので従業員に給金を払っても充分に利益が出ているらしい。
佑介さんと美咲さんは食材調達で冒険者ギルドに行く事が増えた。成海さんは厨房に入って手伝ったり、新メニューを料理人に教えたりしている。
で、私は……。ハッキリ言って何もする事がありません。毎日が暇です。
暇なので、よくキャロルおね~ちゃんの所に行っていたのですが、私が行くとキャロルおね~ちゃんが仕事をしないらしくて、やんわりとタートルさんに週一ぐらいにしてくださいと言われてしまった。
「「ヴァイスおね~ちゃん」」
あてもなくブラブラと街中を歩いていると、私の名前を呼びながら走り寄ってくる女の子2人がいました。
「走ったらぁ、危ないですよぉ」
息を切らしながら2人は私の足にしがみついてくる。双子の姉妹、ルルとルナだ。
2人は教会が運営する孤児院の子供達だ。ルルとルナの他にも男女10人程が孤児院で暮らしている。
「ルル、ルナ。あれ程走ってはダメと……。
あっ、ヴァイスさん。先日はありがとうございました。あんなに沢山のお肉が入ったシチュー、子供達もビックリしていましたわ」
「気にしないでください~、食堂の残り物ですからぁ~」
私にお礼を言ってきたのは教会のシスター、エリスさんだ。シスターの後ろにはルル達の他に孤児院の子供達が何人かいた。
一昨日に商業ギルドの決まりで教会に寄付を持って行ったのだ。その時に、作りすぎたシチューも一緒に持っていった。
因みにシスターはエルフ、ルルとルナは猫人族だ。おかっぱ頭の上には三角耳がある。お尻からは長いふさふさの尻尾が生えている。
「今日は教会に来ないの?」
暇だから行っても良いのだが、今日は何も持って来ていない。多分この子達は何かしら貰えるものを期待しているだろう。
「ごめんねぇ、今日は~、行けないんだよぉ」
「えぇ~、つまんないの~」
ルナはつまらなさそうに私から離れていった。
寄付を持って行った時にシスターから聞いていたのだが、孤児院は14歳までしか居られない。
領主からの援助金と寄付金、10歳頃から働き始めた子供達の給金で孤児院は成り立っている。
しかし、15歳で成人となり孤児院から出ていかなければならない子供達は一人立ちしなければならないのだ。
希に幼い子供を養子にと言う貴族や商人が現れるらしいがその子がどうなったのか知ってる人は誰もいなかった。
殆んどが冒険者となり、お金を稼ぐために無理な依頼を受けて命を落とす。
そして獣人達は人族よりも安い給金で扱われる事が多く、女の子の殆どが娼館へと足を進める。
今はこんなに無邪気なのに……。
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