上書きですかぁ
「そう言えば、私の事をペッタンコって言ってましたね。遺言はありませんか?」
えっ、私は言ってません。たま~に心の中で思う事はありますけど、その言葉は言った事はないですよ。絶対勘違いですって!
美咲さん、だから指を鳴らすのはやめましょうよ。
「いつですかぁ? 私は成海さんみたいにぃ自殺願望者じゃありませんよぉ。それぇ、成海さんの間違いじゃないですかぁ」
「ちょ、それ酷ないか? 僕を巻き込まんといてぇな」
「間違いなくヴァイスさんですよ。この間の6号室です」
……確かに言いました。言いましたけど……。
「認めましたね。少し付き合って下さいね」
いやぁ~、助けて下さい! 成海さん、何、サムズアップしてるんですか? あれは違います。冤罪です。
私は腕を掴まれて7号室に連れ込まれました。
ここはあの時以来、開かずの間となっていました。未だかつて、満室になった事はありませんので偶然かもしれませんが、少なくともあれ以来誰も入れた事はありませんでした。
腕を掴まれたまま部屋に入り、ベッドの方に投げ飛ばされました。美咲さん、やっぱり賢者じゃなくて武闘家の間違いでしょう。
投げ飛ばされたベッドの上には時折、成海さんが私に対して使っている見慣れた物があります。
ちょ、ちょっと待って下さい。美咲さん、何してるんですか?
美咲さんは着ていたワンピースのボタンを外してワンピースを床に落とします。下着姿になった彼女は両手を後ろに回してホックをはずし、両手で胸を隠しながらブラを外しました。
えっ、えっと、合格です。
私にゆっくりと近付き、軽く抱き締めてくると、髪の毛に、額に、耳に、瞼に、キスを落とし、優しく口を塞いできました。
ちょっと待って下さい……。何なんですか、これは?
一旦キスが終わり、顔がはなれます。彼女はフッと微笑むと再度唇を重ねてきました。う~、合格です。
長いキスの間に、私の服は1枚づつ脱がされていきます。たまたま、脱がし易い服だったので気が付くと私はショーツ1枚の姿です。今の美咲さんの姿と一緒にされたのです。
頭の中が混乱していますが、敢えて言えば完璧です。合格です。
あの時のあのインキュバスとは比べると雲泥の差です。
あっ、意図がわかった様な気がします。
美咲さんはこの部屋であったことを詳しくは知らない筈です。知っているのは、あの夜、根掘り葉掘り聞いてきた成海さんだけです。
先程の成海さんのサムズアップは私にではなく美咲さんにだったのですね。
美咲さんは私からの距離を取ってベッドの端に座りました。
「どうですか? ペッタンコですか?」
あ、あれっ? 少し大きくなってませんか?
「ブラのサイズが変わりました」
やっぱりですか。ほ~ほ~、佑介さん頑張ってるんですね。
「す、凄いですぅ。まだ大きくなるんですねぇ。負けるかもしれません~」
「それは嫌味ですか? お仕置き追加決定ですね」
美咲さんは今度は急に私に覆い被さり乱暴に唇を重ねてきました。この一連の動きは成海さんの動きです。間違いなく裏で成海さんが動いていた筈です。
手の位置、手の動き、絡めてくる足の動きもほぼ同じです。
しかしそれは、ピンポイントに私を攻めて来ます。
自然と体を任せて身を委ねます。
美咲さんはあの日の私の記憶を自分に変えさせるつもりなのでしょう。それに成海さんが乗ったんだと思います。
少し恥ずかしいですが私の身体は成海さんに馴染んでいます。その成海さんの動きをトレースしている美咲さんは私をゆっくりと、昇らせてくれています。
それが私の油断でした。頭の中で次はここをこうしてくると勝手に想像していたのです。
「はぅ!……そこは……あっ!」
「どうしたのですか? お仕置きと言ったと思いますが」
やられました。気分がどんどん高ぶって来た時に急にパターンが変わりました。しかもそれは確実に私の弱点を攻めています。
これはヤバいです。一気に来ます。これも成海さんの入れ知恵でしょう。これは無理です。私は意識を手放しました。
通常キャスバスが意識を刈り取られることなんかありません。キャスバスは人族の男から精気を抜き取り相手を殺すのですから。
しかしそれではキャスバスはそういう行為を楽しめないのか? と言えば、答えはノーです。
相手から精気を抜き取る時は感情をコントロールしています。意識的に感じなくするのです。痛い、こそばゆい、気持ちいい、それらの感情を消し去って演技するのです。
反対に言えば感情をコントロールしなければただの女と一緒です。
周りの景色が段々と見えてきました。見慣れない天井が見えます。
横には美咲さんが全裸のままでベッドに横たわっています。
「気が付きましたか? とても楽しかったわ。成海の気持ちがわかったかもしれません!」
だ、ダメです! 美咲さん。新しい扉を開けてはいけません。ドSだけで充分ですから。
「突然目の前現れた鍵の掛かった扉の前で鍵を拾った気分だわ」
あ~、そんなに良い顔してヤバい事を言わないで下さい。拾った鍵はその扉の鍵じゃなくて郵便ポストの鍵だと信じたいです。
「途中から本懐を、忘れかけました。それで、ヴァイスさんにお願いがあるのですが……。今すぐではありませんが、血を飲ませて貰えませんか?」
「ふぇっ!」
思わず声が出てしまいました。血を飲むって、眷属になるって事ですよね?
「まだ確実に飲むとは決まってません。佑介を説得出来ればお願いしたいですね。
先に言っておきますが、この間の贖罪ではありません。私の気持ちがヴァイスさんとずっと一緒に居たいと思ったからです
でも、私はそれよりも佑介を優先したいと思ってます。ですから佑介が頷かなければ、この話しは無かった事にしてください」
シラっと惚気るのは止めて下さい。糖分過多です!
「俺達は異世界人になるが人族になる。それを変える訳にはいかない」
夕食で久しぶりに4人が揃いました。美咲さんは早速、佑介さんを誘いました。
「何や、佑介は人族に拘ってんのか?」
「ぶっちゃけるとそうだ。ここにいる全員が魔族になってしまうと、いざと言う時に人族から迫害される可能性がある。
異世界人だと言うだけで煙たがってる貴族がいただろ? ソイツらみたいなヤツがもし、俺達が魔族だと知れたらあからさまに攻撃して来るだろう。
負ける事は無いと思うが、この世界の人族とわだかまりが出来るだろう。それを避けたい」
「ん、それは不老不死になりたくないって言うてるんとは違うよな。人族であり続けたいって事で当っとるか?」
「そうだ。俺だってずっと美咲と一緒にいたいと思う。でも逃げ隠れしながら隠れる様に一緒に暮らしても意味がない。それじゃ、幸せとは言えない」
何だか最初の考えと少し変わったみたいですが、結果は変わらずって感じなんですね。私も無理強いはしたくありません。でも少し残念です。
「ほ~ほ~、言い換えれば、不老不死になって美咲とずっと一緒におりたいけど、幸せに出来ひんからアカンちゅことやね。
それやったら人族のまんま不老不死やったらええんやろ? なれるで!」
えぇ~、そうなんですか? てか、美咲さん、顔が真っ赤ですよ。
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