開店、そして……
「宿屋……それ考えた事無かったわ。そうよね、元々人を泊める事を考えた建物なんだから……。
何で気付かなかったんだろう……」
キャロルおね~ちゃんは、此処で上がった収益があれば……とかブツブツ呟いています。
取り敢えず、成海さんも美咲さんとやる気になってくれてます。でも、佑介さんが未だに思案顔です。
「佑介、どないしたんや? お前は此処を宿屋にするの反対なんか?」
成海さんはピンポイントで佑介さんに訊ねました。まだ私は佑介さんにそんな事は出来ません。
「あ、いや、反対じゃない。ただな……」
ただ、何ですか?
「俺達、ヴァイスに甘えきってないか? ここに転移で来て、一晩泊まる所紹介してくるぐらいなら仲間だからで済むけどよ。
この屋敷だってヴァイスが買って、俺達は広いと文句を言ってのを宿屋にするって提案して、俺達の生活基盤を作ろうとしている」
「だから何? 此処がすぐに宿屋になってお客さんがいっぱい来る訳じゃないのよ。
甘えきってるって思うなら、これからの事を私達がやってヴァイスさんを甘えさせれば良いじゃない」
「そやね、ヴァイスちゃんが此処を用意した。僕達は此処を繁盛させるように動くんや。ヴァイスちゃんにはソファーにふんぞり返って貰ってたらエエんちゃうか? それで貸し借りなしや。
まあ、その前にヴァイスちゃんはそんな事、微塵も考えてないと思うけどな」
「そうか、そうだな。ヴァイスに此処の仕事をやらすとヘマばっかりで俺達の仕事がかえって増えそうだしな」
「そうね」
「あ、ホンマそれ、ヤバそう」
私の感動を返して! みんな私の事を仲間だって……、色々考えてくれてるって感動してたのに!
最後の最後で落とさなくて良くないですか?
「ねぇ、ヴァちゃん」
キャロルおね~ちゃんが小声で私の事を呼びます。
「何~」
「この子達を眷属にしないの?」
「ん~、成海さんはなってますけどぉ、佑介さんも美咲さんもふつ~に歳を取ってふつ~に死にたいって言ってましたぁ。だからぁ、眷属にはしないですぅ」
「ふ~ん、異世界人って変な事を考えるのね。
この街にいる貴族なら10億ルーブル払ってでも不老不死になろうとするね。
ちょっとあの子達を死なすのが勿体無いと思ってね。ヴァちゃんの傍にずっと居てくれると安心だし」
ん、私もそう思います。もし、あの2人に何かあって、天寿を全う出来ない事があるならば、無理矢理にでも眷属にしますよ。
それで私が恨まれたって良い。そう思ってる。
「そうねぇ、宿屋の営業許可なら私が出せば済むのだけど、商業ギルドを通した方が後々面倒がなくて良いと思うわ」
「俺達は一応冒険者ギルドに登録してくる。宿屋をするにしても、冒険者ギルド推薦とか貰った方が良いだろう。
それに食材も買うより狩って来た方が安く済む。それで金が稼げるなら一石二鳥だからな」
へぇ、そんなのあるんだ。私も冒険者になれるかな?
「ヴァイスさんと成海はダメよ。登録にはステータス表示の水晶に触れるから、種族が出ちゃうわよ。その変わり、商業ギルトは名前を記入するだけだからそっちに登録お願いね。そっちは私も登録するけど」
え~、冒険者になれないんだ~。ちょっとショックです。
商業ギルトで登録を行う。キャロルおね~ちゃんからの紹介状もあったのでスムーズに話しは進んだ。
ただ、少し気になっていたのはギルト内に魔族がいた事だった。人化魔法を使っているみたいだが多分インキュバスだ。後でキャロルおね~ちゃんに聞いてみよう。
1週間後、宿屋として営業を始めた。初日に1組だったが、食堂は大繁盛だった。
やっぱり成海さんの料理は美味しいもんね。
「いらっしゃいですぅ。お食事ですかぁ? 泊まりですかぁ?」
私は1人で入ってきた客を担当しようとした。
「商業ギルドのものですが、ミサキ・トノダさんはおいでですか? あっ、ヴァイスさんですか? あ、ヴァイスさんでも構わないですが……」
こいつ、あのインキュバスだ! 間近で確認すると良くわかる。低能力のはぐれインキュバスだ。
生きる為に人族に紛れて暮らしてるって感じだな。
でも、すっかりキャロルおね~ちゃんに聞くの忘れてた。
一段落ついたところだったので美咲さんも此方にやってきた。
「ミサキ・トノダさんですね。少し此方の食堂の事でお伺いしたいことがありまして、出来れば人気のない所でお話しを伺いたく……」
「わかりました。客室が空いていますので其方でお伺い致します。どうぞ、此方へ」
何か気になるな。嫌な予感がする。美咲さんはあのインキュバスと一緒に6号室に入っていった。
私は厨房に入るとコーヒーを2つ用意する。
「佑介さ~ん、もしぃ10分経っても~私が厨房に来なかったらぁ、6号室に来てぇ。忙しくてもぉだよぉ」
私は佑介さんにそう伝えて6号室に向かう。耳を澄ますが、中から話し声は聞こえない。
たまたま、無言になっている可能性もあるのでノックをして、返事を待たずにドアを開けた。
インキュバスはソファーに座っていたが美咲さんは
ベッドへと歩いていた。
虚ろになった目で私を見つめる美咲さん。微かに首を左右に振っている様に見えた。
このインキュバス、美咲さんに魅了を掛けやがったな! しかも微かに顔が高潮している。こいつ淫魔も掛けてやがる! 絶対に許さない!
魔族の私の存在にすら気付かない低能インキュバスが粋がってんじゃないの! お前の低能さを思い知らせてやるわ!
「あんなぁペッタンコよりぃ、私としませんかぁ?」
「……いいですよ」
このバカ、本当に何も考えて無いのかな? この場面で私の誘惑に乗る? やった私も大概だけど乗る方はよっぽどバカだ。
私は美咲さんに魅了を掛けた事わかってるのよって言ってるのと同じなのにね。
「じゃぁ、隣の部屋で良いですかぁ?」
インキュバスは頷き、私達は隣の7号室に移動した。
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