新居ですぅ
ドアをノックされる音で目覚めた。
「ヴァイス様、朝食の準備が整いました。準備がお済み次第、食堂にお越しくださいませ」
流石はタートルさんです。ノックだけでドアを開けようとはしません。
私と成海さんは未だ全裸でベッドの中でした。
昨日整理したマジックボックスからガーターストッキングとショーツ、赤地に金色で登り龍を刺繍したチャイナドレスを取り出します。
佑介さん曰く、意味は解りませんがド定番だそうです。
「う~、装備の買い直しやぁ。今日はこれしか着る服あらへんやん」
成海さんは泣きながら、男性用の貴族服に着替えています。
いっその事、勇者という職業を捨てて別の事をしても良いんじゃないですか?
成海さんだったら、料理が上手ですし、食堂なんかも出来そうです。今度一度成海さんに提案してみようかな? 私も其処で働かせて貰うのもありかもしれません。
「あっ、おはよ~ございますぅ」
「……ぉはょぅ」
私達が部屋から出るのと同じタイミングで美咲さん達も出てきました。
美咲さんは佑介さんの腕にしがみついて俯いています。耳まで真っ赤です。
「どないしたん? 美咲、熱でもあるんか?」
ん~、これは美咲さんを気遣ってるのでしょうか? それとも揶揄ってるでしょうか?
横にいる成海さんの顔を覗きます。
はぁ~、彼女には学習能力が無いのでしょうか? 100%揶揄ってる顔でした。
「今日も一緒に散歩に行きたいの?」
美咲さんは顔を真っ赤にしながらも上目遣いで成海さんを睨んでいます。
ちょっと、私を盾にしないで下さい。成海さんは私の後ろに隠れて震えています。
隠れるなら言わなければいいのに!
「開き直って見せつけるらしいぞ」
あ~、昨日見られたのを当たり前の状態にしたいのですね? 健気な努力です。
私は突っ込みませんよ! 暖かく見守る所存です。
「ヴァちゃん、2億ルーブルで買おう」
食堂にはキャロルおね~ちゃんが先に着いていました。私を見るなり開口一番がこれです。
「いやいや、このドレスは30000000ルーブルだから、高過ぎ……」
「付加価値だ」
即答? 潔く過ぎます! 売りませんよ? 佑介さんも覗き込まないで下さい。
微妙な空気の中、朝食をとります。
「オークベーコンの目玉焼きとコンソメスープです。お飲み物は何が宜しいでしょうか?」
見たことの無いメイドさんが私達の前に料理を置いて行きます。クロワッサンはテーブルの上で籠に入っています。
私達全員が紅茶を頼みました。
朝食を食べ終えると、キャロルおね~ちゃんがゆっくりと立ち上がりました。
「さぁ、出掛けるわよ。付いてきて」
「出掛けるって~、何処に行くんですかぁ?」
「何言ってるのよ。ヴァちゃんの屋敷よ。案内するわ」
私の屋敷って……、でも私のスリングショットと交換したから私のであってるのかな?
私達はキャロルおね~ちゃんの馬車で一路売って貰った? 交換した? 屋敷へと向かいます。
貴族街を抜けてキャロリナの中心街へと馬車は進みました。
少し意外でした。屋敷と言っていたので貴族街にあるとばかり思っていたのです。キャロリナのど真ん中、大通りに面した場所に馬車は停まりました。
「ここよ」
私達4人だけですよ。造りは簡素に見えますが目茶苦茶大きいです。
「まあ、中に入ってから話しましょ」
建物を見上げている私達にキャロルおね~ちゃんは軽く声を掛けて建物の中に入っていきます。
建物の中に入ると真っ赤な絨毯が敷き詰められた2階まで吹き抜けになった広い空間です。正面に左右から階段が螺旋状に設置されていて見た目ダンスフロアにも見えます。
その広い空間に8人掛けのソファーセットが2つ置かれています。
「この屋敷は、3年前にサルデイル、ガロン、そしてノーススプリングで3ヶ国協議が行われてね、その時に協議場に使うために建てられたの。
この地下には地脈が走っていて魔力を抜き放題、部屋は全部で18室、全室に風呂場とトイレが完備されてるわ。
客室は2階に集中させていて、1階は協議場兼食堂と調理場、メイドと執事の部屋が1部屋づつあるわ。
協議があった時以来1回も使っていない無駄な建物なのよ」
「不良債権の押し付けかいな」
「あらあら、猿にして頭が良いじゃない? 因みに隣の敷地に厩舎があるわ」
「正直、俺たちだけじゃ広すぎるな。これじゃまるでホテルだ」
「あのぅ、ほてるって何ですかぁ?」
「あぁ、ホテルって僕等の世界の言葉になるんやな。こっちの宿屋の事やね。高級宿屋って考えたらエエよ」
ん、それ良いんじゃないの? 高級宿屋。立地的にも大通りに面して、キャロリナの中心街だし。
「キャロルおね~ちゃん、此処って勝手に改造してもいいの~?」
「えぇ、別に構わないわよ。ヴァちゃんに売ったんだもん。好きにしていいわよ」
みんな、どう思うかな? 協力してくれなかった無理だし……。
「あのですねぇ、此処で宿屋しませんかぁ?」
「……エエかもしれへんね。ちょ、客室見て来るわ」
そう言って成海さんは2階に上がっていきました。私はメイドと執事の部屋を見に行きます。
8メートル四方の部屋にソファーが置かれているだけです。でも、広さは十分です。ベッドとテーブルと椅子を置けば充分に住めます。
食堂は長机が4本両側に椅子が8脚づつ、調理場も魔道コンロ、冷蔵庫、洗い場も3か所あります。
「ヴァイスさん、そんなに貴族なんか泊まりに来ないわよ」
「違いますよぉ、冒険者に泊まって貰うのですぅ。
1部屋20000ルーブルでどうでしょうか? 夕食付き、朝食はオプションで」
佑介さんは思案顔です。
「高いな。誰も泊まらないと思うぞ」
「1部屋ですよぉ。4人で泊まれば5000ルーブルですぅ。お風呂付きですから~、安くないですかぁ?」
そこに成海さんが降りてきました。
「聞こえとったで。窓のある部屋と無い部屋あったけど間取りは全部同じや。
ベッドもセミダブルが2つ、ソファーセットもあったさかい、1部屋に5人泊まれん事もないやろ。風呂付きで4000ルーブルやったら安いやろ。
冒険者パーティーやったら3人から5人が当たり前やろ。いけるんちゃうか」
良かった~。少なくても成海さんは賛成みたいです。だったら成海さんには食堂で料理を任せて、私が客室係で……、食堂のホールは人を雇ったらいけるかな?
「悪くないわね。私達なら多分大丈夫だと思うけど、冒険者として命を掛けるよりこっちの方がのんびり出来るかもしれないわね。
最悪、暇だったら冒険者をすれば良いんだし……」
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