ノーススプリング共和国に来ました

「どうしますかぁ? 荷物全部預かりましょうかぁ」

「いや大丈夫だ。一応俺達も容量制限有りのマジックポーチを持っている」


 サルデイルの屋敷は国王からの貰い物とはいえ、魔王討伐の褒美を1点に集中してその他を断った建前上、出ていく事になっていました。

 今後、冒険者として生計を立てようと考えている美咲さん達はダンジョンが豊富にあるノーススプリング共和国に移住する計画を立てていた。

 別に目的のない私と私の眷属となった成海さんも一緒にノーススプリングに付いていく事にしました。


「わかってると思うが転移は国境門の手前までだぞ」


 佑介さんが私に話し掛けてくる。

 ノーススプリングには佑介さん達は行ったことがなく、転移は1度行った場所にしか転移できない為に行った事のある私の転移で行く予定になっていた。


「……わかってますよぉ」

「嘘だな」

「やっぱり考えてなかったのね」


 バカップルが酷いです。勝手に人の心を読まないで下さい!


「ヴァイスちゃんにそれを求めるんは酷やとおもうわぁ」


 眷属にまでバカにされました。


 人族第1主義のサルデイルと違ってノーススプリングは多種族が共に住んでいる国家です。

 獣人は勿論、ドワーフや巨人族やエルフもこの国には存在します。噂によると希少なダークエルフもいると聞いています。

 エルフは一般的に美形が多く、女性は美人、男性はイケメンです。ただ、残念なのは女エルフのスタイルが例外無く、美咲さん化している事でしょうか? あっ、美咲さんがエルフ化しているのでしょうか?

 何故か背筋に冷たい物を感じるのでエルフの話しはこの辺で止めておきましょう。


 因みにダークエルフは一応亜人? の括りになっていますが、種族の性質を優先すると魔族に属します。

 しかし、人族はダークエルフをエルフと同種族と考えたのか亜人扱いです。エルフとダークエルフは似て非なる種族です。

 尖った耳に銀髪、キャスバス譲りのスタイルで肌の色は褐色で統一されています。決定な違いはエルフは異種族との性交で子孫を宿しますが、ダークエルフは異種族との性交で子孫を宿しません。魔族の特徴ですね。

 しかしこれも例外があり、バンパイアだけはどの魔族と性交しても子孫を宿します。

 これは色々な諸説がありますが、一番有力なのは魔族の祖先がバンパイアだったと言う説ですね。私もそう思っています。




 ところ変わって国境門前です。


 転移魔法は行き先を明確に想像、意識しなければいけません。それが出来なければ転移魔法は発動しないのです。これが1度行った所にしか転移出来ない理由です。




 国境門前と言っても色々ありますよね? 北側とか南側とか……。


「ぎょめんにゃさいですぅ」


 右の頬っぺを佑介さんが左の頬っぺを美咲さんが引っ張っています。痛いです。喋れません!


「俺達が勇者パーティーじゃなかったら今頃牢屋の中だぞ! わかってるのか?」

「だってぇ、私はノーススプリングから~サルデイルに入りましたからぁ、国境門前ってこっちなんですよぉ」

「そんなのが言い訳になるわけないでしょ!」

「ヴァイスちゃん、諦めや。庇おうにも庇えやんわ」


 そうです。私は転移魔法でノーススプリング側の国境門前に転移してしまったのです。

 だってですよ、国境を越えるのに順番を待ってる時は暇ですから辺りを見渡したりして、景色が記憶されるじゃないですか? 

 でも順番が来て、国境越えたら前向いて歩きませんか? 振り返って国境門を見つめますか?

 うん、私は間違っていない。自己完結しとこう。



「まぁ、兎に角、ノーススプリングに来れたから良しとするか。ただ絶対にここの領主が何か言ってくるだろうな」

「面倒かもしれないけれど、この辺境領はダンジョンが4つあるし、北西部には王都に匹敵する都市があるんだし、定住するには良いところよ。

 そこの領主に顔が効くのは良いことじゃない?」 


 ふ~ん、領主と顔が効くと良い事なんだ。


「それよか、今日の宿探さなアカンやろ! 別に野宿でも僕はかまへんけど、美咲嫌がるやろ」

「そんな事ないわよ。でも出来るなら野宿はしたくないわね」

「やろ。ほな、急ぐで」



 で、やって来ました。ノーススプリング共和国、カリーニング領最大の都市キャロリナ。

 陽も西にかなり傾き街が燃えるように赤く染まって来た頃、私達はキョロキョロしながら歩いていました。


「どうして宿屋に空きが無いのよ! 空きのある宿屋も……、あれは宿屋じゃないでしょ。あれなら野宿の方がましよ」

「まあ、あそこは酷かったな。同意する」


 5軒程回ってほぼ満室状態、まさか1人部屋に4人は泊まれません。


「この街に~、知り合いが居ますから~其処に行きますかぁ? 家も大きいぃですからぁ泊めてもらえますよぉ」

「本当!?」

「サルデイルに行く前も泊まらせてもらったからぁ大丈夫だと~思いますよぉ」

「…………何か嫌な予感がするが、街中で野宿するのもな。ヴァイス頼めるか?」

「はいですぅ! こっちですぅ、多分」

「多分かいな……」




 歩くこと10分ちょっと、道も間違えずにもう少しで目的地に到着です。エッヘン!


「此処って貴族街だよな。嫌な予感しかしないのだが……」

「奇遇やね、僕もそうやわ」

「ヴァイスさん、本当に此方であってるのですか?」


 何か3人が酷いです! こっちであってます!


「あれが~そうですぅ」


 立派な家が建ち並んだ道の突き当たりにある家だから間違えることなんかありません。

 私はパタパタと小走りでその家の前まで向かいます。


「止まれ!」

「キャロルおね~ちゃんに~、ヴァイスが来たって伝えてぇ」


 横暴な態度を取っていた門番がいきなり改まりました。


「これは失礼致しました、ヴァイス様。暫くお待ち下さい」


 美咲さん達が私に追い付きました。3人で顔を見合わせています。


「此処って、領主邸ですわね?」

「……間違い無いと思うで」


 えっ、此処って領主様の家なの? じゃあ、キャロルおね~ちゃんは何で此処に住んでるのかな?

 そんな事を思っていると玄関の大きな扉が開いてキャロルおね~ちゃんが飛び出してきました。


「いや~ん、ヴァちゃん、また来てくれたのね」


 一瞬反応が遅れて私はキャロルおね~ちゃんに抱きつかれ濃厚なキスの洗礼を受けます。


「ちょ、ヴァイスちゃんに何してんねん!」

「はっ! あんた誰よ? ヴァちゃんをどうしようが私の勝手でしょ!」


 いやいや、勝手にしないで下さい。キャロルおね~ちゃんと成海さんが睨み合っています。


「これって修羅場……なのか?」

「そう……じゃないの」

「それにしても珍しいな。ダークエルフだろ、彼女。まぁ、ヴァイスの知り合いってゆうなら納得だな」




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