冷血ですぅ
さて、私のお仕事です!
「勇者様! それを飲んではいけません!」
私は手筈通りに叫んで舞台へと駆け寄ります。
「あらっ、ワインに入ってる薬に気付いたのですか?
でも時既に遅しですわ。
ここにいる陛下共々、薬入りのワインを飲んだ後ですもの。
この場に居られるのはこの国の重鎮の方々ばかり、貴女が誰だか知りませんが既にこの国は私の物ですわ。
数年前から準備していたのに、よりによって魔王が暴れ始めるものだから焦ったわ。
オマケに勇者も召喚されるし。
まぁ、勇者の方は上手く処理できましたし、傀儡の国王を置くにしても元勇者パーティーの一員の方が国民も納得するでしょうから結果良かったかもしませんわ」
この人……、本当にバカですね。
私なんかに何故、自分の行った悪事を話しているのでしょう?
周りの招待客も固まってますよ。
まぁ、これは佑介さんが裏から手を回して乾杯の後に何があっても、全員動かずに喋らないでとお願いしてあるのですが……。
「ワインに入っている薬は何なのですか?」
「あらあら、薬には気付いたのに何かわからないのね。良いわ、教えてあげる」
王女はポーチの中から赤と青の瓶を2つ取り出します。
「この赤い瓶の薬は魔国のエスプリートに造らせた飲んだ相手を傀儡にする薬よ。
私の血を混ぜてあるからこの薬を飲んだものは私の言う事を忠実に実行してくれるわ。
そこの佑介は先に飲ませてあるから私の傀儡第1号よ。
そして、この青い瓶は召喚された勇者達に飲ませた薬よ。
飲んだ人間は記憶を無くして廃人同然になるのよ。
予定外だったのはこの薬を飲んだ者が死んだことね。この世界の人間じゃなかったからだと魔導師長は言ってたけど。
予定通り廃人になった者は奴隷商人に売ったわ。
このドレスもそのお金で作ったのよ。
最近、そこの陛下は私を無視して何もしてくれなくなったもの」
うわぁ、救い様の無いバカだわ!
私、し~らないっと!
「だ、そうですよ陛下。
この始末、どうしてくれますか?」
「……佑……介?
何勝手に喋ってるの?」
パーティーの場が騒ぎ始めました。
当たり前ですね。この国の王女が国家反逆罪を自ら説明したのですから。
美咲さんからのお願いをどうやって達成しようか悩んでいた自分が馬鹿らしいです。
「えっ、何? 何なの?」
王女は辺りを見渡し狼狽えています。
「エクスファリア、そなたがこれ程愚かだとは思わなかった。
今、この時を持って王女の位の剥奪、及び平民への降格を言い渡す。
更に国家反逆罪とし、身元を近衛兵団に委ね、処罰は後日言い渡すとする」
国王陛下はそう叫ぶようにエクスファリアに言い渡した。
エクスファリア本人は何が起こっているのか把握していない模様です。
「お待ちください。国王陛下」
そう叫んだのは美咲さんだった。
何? まさかこの女を庇うの?
「何かな、賢者よ」
「おそれ多く思いますが今この場で、先日打診頂いた魔王討伐の褒美を所望したく存じます」
美咲さんを筆頭に勇者パーティーが片膝を立てて陛下に礼をとっていた。
「ん、その事なら何でも用意しよう。
この場でなくても良いのではないか?」
「いえ、この場でなければなりません。
この場でエクスファリアの殺生権利を貰い受けたく存じます」
「俺の褒美の権利も美咲に被せてくれて構わない」
「僕も美咲に褒美の権利を被せさせてもらうわ。
この女の殺生権利を貰いたいわ。
他の物は何にも請求せえへん。何もいらん。
けど……」
国王陛下は黙って目を瞑っている。
美咲さん達はこの場でと言っているのだ。
それはこの場で彼女を処刑すると……。
「あい、わかった。その褒美取らせよう。
しかし、余と妃が退場した後でお願いする」
「陛下の温情、確と承りました。
……して、何か遺す物はございますか?」
美咲さん怖いです。
今までの怖さとはベクトルが違います。
「髪を……」
その言葉を聞いて、佑介さんが動いた。
それと同時に陛下と妃が退場していった。
佑介さんはエクスファリアの髪を無造作に掴んで引きちぎった。
「痛ぁ! 何をするの! あぁ、私の髪の毛が」
「はっ! この髪がどうした? 陛下の命の為だ。
お前の髪など触りたくもない!」
いやぁ、せめてナイフ使いません?
あぁ、でも成海さんも美咲さんも私の知ってる人ではなかった。
彼女を見る目が違いすぎます。
「イヤァァ!」
エクスファリアは走り出します。
「逃げれる訳ないやろ」
成海さんがすぐに追い付き、何もなかったかのように剣を横薙ぎり、エクスファリアはその場に倒れました。
「失血死はありえへんで」
「な、何でなのよ。
……どうして皆、私の傀儡にならないのよ」
「なるわけねえよ。
ワインは俺が入れ替えて置いた。
これがなかったら俺もヤバかったと思うがな。
ちなみにこの無毒のペンダントは王家から貰った物だぞ」
佑介さんは首に掛けてあるペンダントをエクスファリアに見せています。
成海さんは倒れたエクスファリアに回復魔法を掛けました。
成海さんの横薙ぎはエクスファリアの両足を切り落としていました。
切り落とされた足からは血が吹き出ていますが体の方からは一滴も血は流れていません。
エクスファリアは佑介さんの言葉に顔が青ざめています。
「私を騙したのね!」
「はぁ! 騙しただぁ? お前は充分に夢を見てただろうが。
俺の地獄と引き換えに! 重いわ臭いわ最悪だったわ」
佑介さんの言葉に今度は美咲さんの顔色が変わりました。
「ゆっくり、じわじわと苦しめながら殺すつもりだったけど、気が変わったわ。
貴女の顔を見てると虫酸が走る。
成海、佑介、もう構わないかしら?」
「あぁ、好きにしろよ」
「かまへんのちゃう」
3人はエクスファリアに背を向けて歩き始めした。美咲さんがゆっくりと右手を顔の横辺りまであげて指を鳴らします。
その刹那、美咲さん達の後ろで10メートルはあろうか火柱が燃え上がりました。
「……地獄の火炎」
人族がその魔法を使うのは初めて見ました。
いえ、魔族でも使える者は数える程しか居ない筈です。
それも無詠唱で指を鳴らしただけです。
あんなもの、人族に使えば骨すら、いえ、灰すら残らないでしょう。
美咲さんは私の横で立ち止まりました。
「協力感謝します。すみません、今住んでる処を出て行かなければなりません。ご迷惑掛けます」
「いえ、気にしないで良いですよぉ」
わたしはそれしか言えませんでした。
「ヴァイスちゃん、帰ろか。
お腹空いたやろ?
ここにあるもんより旨いもん作ったるさかい」
「初めてまして。お前の事は成海から手紙で教えて貰ってる。樋口佑介だ。宜しくな」
私は暫くの間、その場に佇んでいました。
火柱が消えた跡は、地面が2メートル四方だけガラス状になっているだけで後は何も残ってはいませんでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます