祝賀パーティー出席ですぅ

「光魔グレゴリウスがダンピールの血を受け継いでいるのですから、想像は容易かったはずですよね」


 賢者は呆れている模様です。


「でも、不老不死やで。

 18歳のまんまやで、ピチピチでずっとおるんやで! 何があかんねん」

「ヴァイスさんの前で言うのは何ですけど……、私の考えでは不老不死は呪いだと思ってます。

 死なないんですよ?

 もし、本当に好きになった人が現れて、結婚して子供を産んでも、自分はそのままで相手だけがどんどん年老いていきます。

 その最愛の人達の最後を必ず見届ける事になるんですよ。

 その後、新たに愛する人が現れても、その人の最後をまた見届けなければなりません。

 それがどれだけ辛いことか、不幸な事か。

 私はそう考えています」


 あ~、人族と魔族の違いですね。

 魔族は大抵長寿が多いですからね。

 千年、二千年は当たり前、種族によっては不老不死も多種族に存在しますから。

 特に不老不死の種族は滅多に子孫を残そうとしません。

 それに、人族には言えませんが、不老不死も絶対に死なない訳ではないのです。

 まぁ、人族は精々100年ぐらいですからね。

 その考えもわからないではないですね。


「ん~、まぁ、僕の場合やったら子供を産むことは無いやろからなぁ……。

 ヴァイスちゃんっていう宗主様もおるし。

 ヴァイスちゃん、一生幸せにするさかいな……。

 そやけど美咲、もし佑介がヴァイスちゃんの血を貰って不老不死になったらどうするんや? えぇ?」


 勇者が悪い顔になっています。


「それならば、私もなって良いかな……?」


 賢者さん、佑介は彼氏と違ったんじゃなかったっけ?




「そ、そんな事より面白い手紙が2通来てましたよ」


 賢者は2枚の手紙を勇者に手渡します。

 賢者さん、露骨に話しを変えましたね。


 1枚目の手紙は魔王討伐を達成した勇者達を労う祝賀パーティーの招待状だった。

 

「……」


 私は言葉を失いました。

 勇者を労う祝賀パーティーなのに、何故その当事者に招待状が送られてくるのでしょう?

 主催者はエルスファリア王女殿下です。

 佑介さんを傀儡化しようとた王女です。その地点で怪しさが盛り盛りです。


 お腹がいっぱいです。


 しかも開催日が3日後です。

 バカですか?

 いえ、聞くのが間違っていました。

 バカですね。


 主役となる勇者の都合も確認しないままでの祝賀パーティー、及び招待状の配布。

 王家に関係のない勇者は出席を拒んでも何ら支障はありません。

 主役のいない祝賀パーティーなどあり得ません。


 しかし、もう1通の手紙を見て勇者も賢者も笑みを溢します。

 どうやら佑介さんからの手紙みたいでした。


「どうする? ヴァイスちゃんも行くか? これ面白い事になりそうやん」

「そうですねぇ、私も早く賢者さんの彼氏さんを見たいですから~、ご一緒させてもらって良いですかぁ」


 賢者に頭を叩かれました。理不尽です。


「ヴァイスさん、そろそろその呼び方何とかなりませんか?

 賢者と言うのは職業であって名前ではありませんから」

「すみませんですぅ、じゃあ~、美咲さん?」

「えぇ、それでお願いしますね。

 ついでに、成海も勇者と言う呼び方は止めてあげてください。

 少々、寂しがっていましたから」


 私は慌てて勇者の方に視線を向けます。少し顔が赤いです。


「な、何いうてんねん! まぁ、眷属になってもたんやから『メス豚』とか『ゴミ』とか呼んでぇな」

「わかりましたぁ。これからそう呼びますね~。メス豚!」

「うわぁ、スルーされてしもた。オマケにホンマに呼ばれてしもた。それもいつもの柔らかい言い方と違ごうて何か刺あったしぃ」


 美咲さんの肩が揺れています。


「美咲も何笑とんねん」

「煩いわね。自分で言ったんでしょう。

 このメス豚!

 ヴァイスさん、たまには成海って呼んであげてくださいね」

「またにかいな……」




 今日は祝賀パーティーの日です。

 私は美咲さんからドレスを借りて、今着せてもらっています。


 キツいです。胸の辺りが……。

 今にもはち切れそうです。


「もぎますか?」


 美咲さん? 何処をでしょうか?

 その笑顔が怖いです。


「これ無理あるやろ。

 ちょう、待ってぇな。着れるようにしたるわ」


 30分後……、セパレートのドレスが出来上がっていました。


「これでどうや?

 キツそうにしとったバスト部分は切り取って、ロングスカートの裾をちょっと貰ってノースリーブのビスチェにしてみたんやけど」


 成海さん、女子力高すぎます。


「その代わり、脱ぐ時は破らなあかんからな。

 使い捨てや。ボタンホールなんか作っとったら時間が足らへん。

 脱ぐ時は僕に任せてんか! ドレスを破るシチュエーションなんか滅多にあらへんわ」


 前言訂正です。自己欲望に忠実過ぎます! 


 


 場所は変わって、ここはサルデイル王城です。


 祝賀パーティーはこの王城の庭園で行われるみたいです。

 形式は立食パーティーです。

 庭園の至る処にテーブルが置かれてあり、その上には美味しそうな料理が並んでいます。ジュルリ……。


 庭園の奥には簡易な舞台が用意されていて、初老の男女が座っています。

 多分、国王陛下と妃様でしょう。

 そして舞台の正面にピンク色の派手なドレス纏った女性が立っています。

 ブラウンカラーの巻髪、輪郭と首の境目がわかりません。

 肌を出している二の腕や足首を見る限り、かなりのポッチャリさんですね。

 ウエストはありますが、まぁ、コルセットでぎゅうぎゅうに絞められているでしょう。

 



「お忙しい中、急なお呼び出しにも関わらず、出席頂いた事を嬉しく思います。

 招待状にも記させて頂きましたが、今回、此方に居ります勇者パーティーの皆さんが陛下の期待通りに魔王を討伐したことを祝い、勇者様方を労うパーティーとなっております。

 先ずは、お近くのグラスをお手にお取りください」


 王城の使用人達が忙しそうにワインの入ったグラスをトレンチに乗せて出席者に配っています。

 成海さんと美咲さん、それに見たことない男性が舞台に現れてワインの入ったグラスを持っています。

 あの男性が佑介さんなのでしょう。

 パーティーだというのに髪型はボサボサ、人族の貴族服を着ていますが首もとのボタンは閉めていません。

 かなり粗乱な性格のようです。


 目付きもあまり良くありませんが、美咲さんを見る時だけ優しい目に変わるのを見逃していません。


 2人が何を喋っているのか聞こえませんが、殆んど表情を変えない美咲さんが百面相と化しているのは彼のせいなのでしょう。


「グラスは皆様のお手元に届いたでしょうか?

 それでは乾杯をしたいと存じます」


 さてさて、私の出番のようです。

 何故か知りませんが、美咲さんに頼まれた事があります。


 ───乾杯が行われて出席者全員がワインに口を付けたら『勇者様、飲んではいけません』と大声で叫んでくださいね。



「それでは、魔王無き平和な世界を願って……乾杯!」


 その乾杯のセリフ……。

 魔王討伐の出発に言うセリフでしょ?

 本当にバカですね。

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