勇者の性癖ですぅ

 賢者はサッサッと下着を身に着けます。

 あっ、ブラも着けるんですね? 必要あるのでしょうか?


「ヴァイスさん、今失礼な事を考えていませんでしたか?」


 手を後ろに回してブラのホックを留めながら私を睨んでいます。

 殺気を感じます。


 どうか殺さないで下さい。


 しかし、どうして解ったのでしょうか? 私は大きく首を横に振りました。

 私は謝罪のつもりで、彼女の濡れた髪に触れてクリーンの魔法を唱えます。それで彼女の濡れた髪は一瞬で乾きます。その後すぐに、自分にもクリーンを掛けます。同様に私の濡髪も乾きました。


「あ、ありがとうございます」


 彼女は少し顔を赤らめて私に礼を伝えて来ました。


 脱衣場から出ると物凄く良い匂いが漂って来ます。匂いだけで涎が出そうです。

 リビングの大きなテーブルにはこれでもか! という程の料理が並んでいます。私は飛び付きたい気持ちを抑えて、賢者の顔を見ました。

 

「遅っかたやん。先に食べてんで」

「成海、お客様に失礼ですよ。ヴァイスさんは其方に座って下さい」


 賢者は私に上座を勧めてきました。


「でも……」

「言いたい事は解りますが、成海がお粥を上座に用意してますからね。

 ただ……、成海、こんなに誰が食べるんですか?」

「ふぉんなふぉん、ふぉこのふぉねぇふぁんにひぃまっふぉるふぁん」



 勇者は頬っぺたをリスの様に膨らませて食べながら喋っているので何を言ってるのか解りません。


「成海、いつも言ってるでしょう? 食べるか喋るかどちらかにしてください」

「モグモグ……モグモグ」


 あっ、食べる方を取るんですね。




「ご馳走様でした」

「お粗末さんやで。そやけど、ホンマに全部食いおったね。作ったかいがあるってもんや」

「本当に……、その身体の何処にこれだけの物がはいるでしょうか?」


 テーブルの上には食べ尽くされて、空っぽになった皿が数十枚重なっています。

 3ヶ月ぶりの食事でしたからね、これで後1ヶ月は食べなくても大丈夫です。


「ホンマやね。普通やったらお腹パンパンになってもおかしいないんやけど、ヴァイスちゃんのお腹めっちゃ普通やん。

 そやけど、ヴァイスちゃんのその衣装、ホンマにエロいわぁ。もしかして僕、誘われてるんかな?」

「止めといた方がいいですよ。ヴァイスさんはキャスバスらしいですから。

 いくら成海がタチでも敵わないと思いますよ」


 えぇ~っと、何か聞いてはいけない事を聞いた様な気がします。

 まだ正式に紹介してもらってませんが、勇者ですよね。


 今期の勇者はガールズラヴのタチなんですか?

 部外者にそんな特殊な性癖バラして良いんですか?


「へぇ、ヴァイスちゃん、キャスバスなんや。そりゃ、本腰要れやなあかんやん。

 てか、ホンマにキャスバスなんか? 美咲も言うとったけどヴァイスちゃんは羽も尻尾も付いてへんやん」


 本腰って……。レズるのは決定事項なんですか?

 私は別に構いませんが……。


 先に種族について話しておいた方がいいかもしれませんね。


「種族的にはキャスバスで間違いないですよぉ。ただぁ、パパ……父がダンピールで母がキャスバスなんですけどぉ、どうも人族の先祖返りが強くて種族特有能力が私には無いんですよ~。

 吸血洗脳もありませんし~、魅了も掛けれないです~。スタイルだけはキャスバスよりですけどぉ、仰る通り羽も尻尾もありません。だから空が飛べないのですぅ。

 でもぉ、余り知られてないんですけどぉ、キャスバスには超吸収って能力があって~、排出物が無いんですよぉ。それは受けついたのでぇ、私今までおトイレに行った事がありませ~ん」

「何やて……、ほな、ヴァイスちゃんはお尻の穴無いんか! ちょう見せてえな!」


 そこなの?

 飛び付いて来るのそこなの?


 テーブルの下に潜り込んだ勇者を賢者が蹴ったのでしょうか? テーブルの下から勢いよく飛び出て壁に激突しました。


「良い右持ってんじゃるか……グハッ!」

「足ですけどね」


 この人達、本当に魔王様を倒した勇者なんですか?

 もしかしたら私の勘違い?


 でも、2人ともそっくりさん何てあり得ませんよね。

 でも、足りないんですよね。


「ねぇ、ヴァイスさん。もしかしたら私達の正体に気付いてますか?」


 やっぱりこの人エスパーじゃないですか? 


「えっとぉ、勇者パーティーですよね? もう1人が見当たりませんけどぉ」

「やっぱり知っていたのね。もう1人の佑介は王女との婚約が決まって、王城に住んでいるわ。

 ……ねぇ、ヴァイスさんは私達が憎いかしら?」

「僕らの事を殺したろって思てない?」


 2人とも神妙な面持ちで私を見ている。


 私は2人にそんな感情はない。

 反対に倒れていた私を助けてくれて、ご飯を食べさせてくれた事に感謝している。

 勇者が殺したのは魔王様だけ。確かにそれが切っ掛けでパパとママは死んだかもしれない。

 だけどそれは勇者達のせいではなく、殺したのは私と同じ魔族なのだから……。


「そんな事、思ってないですよぉ。反対に助けてくれた恩をどうやって返そうか悩んでますぅ」

「それは本当ですか?」

「本当ですよぅ。仮にですよ~、賢者さんが~、独裁政治をしている国の国民だったとしてぇ、その国の国王を私が殺したら私を恨みますかぁ?」

「恨みませんね」

「恨まへんわな」


 2人はあからさまに安堵の息を漏らしています。

 何がそんなに不安だったのでしょうか?


「それにもし~私が、勇者さんを殺そうと襲っても返り討ちにされるだけですよぉ」

「そんな事あらへんわ。今のヴァイスちゃんやったら僕、負けると思てんで!

 僕と美咲と佑介、3人で戦こうて封印するんがやっとやと思う」

「そうですね、その封印も本当に一時的な物でその封印が効くかどうかも眉唾物ですね」


 はい?

 お2人は何を言ってるんでしょうか?

 貴女達は魔王様を瞬殺したんですよ!

 意味が解りません!


「成海は見たんですね」

「あぁ、悪いと思ったけど見せてもうた。

 ヴァイスちゃんの種族、キャスバスとちゃうで! 光魔グレゴリウスになってんで。

 全属性魔法無効&吸収、自然回復Lv38、身体強化、不老不死。オマケは魔力量SSSや!

 確かに覚えとる魔法はめちゃショボいんやけど、身体強化は術者の魔力量に比例するさかいな、バチバチに身体強化されたら手刀で首チョンパ確定や。

 防御面は多分僕の持ってるエクスカリバーでも傷1つ付かんと思うで。いや、反対にエクスカリバーが折れるんちゃうかな」


 私が光魔グレゴリウス?

 それって初代魔王様と同じ種族名ですよね?

 勇者の説明に戸惑いしかありません。


「しかし、全属性ですか……。完全にお手上げですね。

 先程、ヴァイスさんが私の髪を乾かしてくださったときに光属性のリフレッシュを使ったので驚いていたのですが……」


 気のせいでしょうか?

 賢者の顔に翳りが見えます。

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