ガチでガールズラヴの勇者をうっかり眷属しちゃいましたぁ【改稿】

神楽蜜柑

拾われましたぁ

 お腹が空きました。

 もうかれこれ、3ヶ月程何も食べてません。


「ひもじ~です……。でも私一人では羽ウサギすら狩れませんし……」


 もう動けません。多分ですが、もうすぐ人族の街に辿り着ける筈です。そこに行けば暖かい食べ物が私を待っています。……多分ですけど。


 第25回魔族美少女コンテストで優勝した私の死因は餓死になりそうです。

 ダンピールのパパとサキュバスのママ、先祖返りか何か知りませんが、私には羽がありませんでした。そうです、私は空を飛べないのです。歩くしかありません。

 



「美咲、美咲。こんなところに巨乳美人が落ちとんで」

「人が倒れてるのを落ちてるとは言いませんよ。大丈夫ですか?」


 私の頭の上から妙に甲高い声と落ち着いたが聞こえて来ました。いつの間にかに私は気を失っていた様です。

 私は何とか目を開けて声の主を見ます。見た事がありました。

 確か4ヶ月前に魔王様を倒した勇者パーティーです。あの魔王様がいとも簡単に倒されたと魔族新聞に載っていました。


「かなり衰弱していますね。成海、屋敷まで飛んでもらえますか」

「ええけど。でもええんか? 街門を通らなあかんのちゃうん?」

「構いません。緊急なので」

「んじゃ飛ぶわ。ほいっ!」


 身体に魔力の揺らぎを感じます。転移魔法でしょうか? 自分でやるには良いのですが、人の転移魔法は気分が悪くなります。私は再度気を失いました。




 魔族の国は勇者に魔王を倒されてから大変でした。歴史を振り替えれば、勇者が現れると魔族の半数以上を殲滅しながら魔王様に立ち向かうのが殆どだったのですが、今回の勇者はピンポイントに魔王様を倒したのです。

 魔族の貴族達が魔王様をお守りすべく防御網を全て掻い潜り、あっという間に魔王城に潜入、圧倒的早さで魔王様を倒したのです。


 魔王様を倒されると、普通なら魔族の国を根本から建て直さなければならない筈なのに、今回の被害は魔王城の一部と魔王様だけなのです。

 それが魔族の国を混乱に陥れました。広大な魔国を巡って内乱になったのです。そのせいで、私のパパとママは行方不明、いえ、十中八九この世にはいないでしょう。

 何の戦闘力も持たない私は魔国から逃げ出して今に至ります。





「なぁなぁ、この人、下着姿で恥ずかしいないんかな? それとも露出狂かいな?」

「そうではないでしょう。見たところ、所持品が何もありませんから、心無い者に強奪されたのだと思いますよ。

 逆に言えば、良くそれだけで済んだと言うべきでしょうか? 最悪奴隷商に売られて奴隷に落とされていてもおかしくありません。

 これ程の美貌なら性奴隷としてもかなりの金額になったと考えられますし。

 しかし……、このビスチェといい、ガードルといいかなり高価な物だと思うのですが、取られていないのが気になりますね。

 まるでキャスバスの戦闘衣装にも見えますが……、彼女には羽も尻尾もありませんし、私の考え過ぎでしょう」

 



 身体が暖かさに包まれている様な感じです。幼き頃ママに抱かれてい時の様に……。


 ふと目を開けると私は湯槽に浸かっていました。隣には勇者パーティーの片割れがいます。


「あっ、気付きましたか。身体がかなり汚れていましたので、失礼かと思いましたが洗わしてもらったところです。

 見た通り、同じ女性なので私は変な事はしていませんよ? この様な格好で申し訳ありませんが、私は殿田美咲と申します」


 知っています。勇者パーティーの頭脳、男麗の美咲と呼ばれいる賢者ですよね。中性的な顔立ちは整っています。異世界からの召喚者にしては珍しい金髪のショートカット、無駄な贅肉の無い細マッチョですね。その分、胸も女性らしくありませんが……。


「おっ、気ついたんやね。佐倉成海だよ。お風呂から出たらご飯食べよかあ。さっきからお腹がようさん鳴っとたで。

 美咲、言われた通りにお粥作っといたでぇ」


 浴室のドアが勢いよく開いて顔を出してきたのが勇者の佐倉成海。その小さな体で魔王様を倒した張本人です。黒髪のツインテールがより幼く見せています。


「ヴァイスと言います。……私はどうなるのでしょうか?」


 私は魔族です。勇者パーティーに確保されたのです。魔族の貴族令嬢の私は何の攻撃力も持ちません。

 魔力だけは豊富にありますが、先祖返りがキツくて、ダンピール特有の吸血洗脳もなく、サキュバスの魅了も使えません。

 使えるのは身体強化と転移魔法、生活魔法と呼ばれる種火、水球、クリーンの5種類の魔法しか覚えていません。

 

「どうなるとは? 先ずは、お風呂から出て食事にしましょうか? 成海が言っていた様にお腹が鳴りまくっていましたよ」


 うぅぅ、恥ずかしいです。でもご飯を食べさせ貰えるのとても嬉しいです。

 風呂場から出て、脱衣場に行くと私が着ていた服が置かれていました。


「ヴァイスさん、この服はキャスバスの戦闘服ではありませんか?」


 賢者は私に訊ねてきます。私は小さく頷きます。見た目は何処から見ても人族なのに流石です。

 私は服を手に取り、魔力を流します。一瞬で私の身体に服が装着されます。


「便利ですね。やはりヴァイスさんはキャスバスですか? どう見ても人族なのですが……」


 ───キュルルルルル~。


 私のお腹が返事をしました。穴があったら……、いや穴を掘ってでも隠れたい気分です。


「先にリビングに行って下さい。食事が用意されてます。私に構わずに先に食べ始めてくれて結構ですから。私も着替えたら向かいます」

「でもそれは余りにも失礼ですよ~。3ヶ月我慢していたのですか、後数分ぐらい何ともないですよ~」


 賢者は私の返事に目を見開いています。


「3ヶ月ですか……。では、サッサッと着替えることにしましょう」








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